3イケメン
夢を見ていたのか。僕はさっきまでのおじいちゃんとのやりとりをうつろに思いだしていた。
しかし顔を洗おうと洗面台に向かった時、自分の顔が変わっていることにびっくりした。それはたしかに僕の顔ではあるのだが、今までと違い、どこかシャープで、整った顔立ち、に見えた。
おじいちゃんの仕業なのだろうか……。
僕はしばらくのあいだ半ば茫然として鏡に見入り、その新しい顔を眺めていた。
「あら、ずいぶんとナルシストなのね?」
びっくりして向き直ると看護師さんだった。
「よかったわあんまり大事なかったみたいで。でもまだ無理しちゃだめよ」
僕は素直にベッドに戻った。看護師さんはかいがいしく僕の身の回りのことを世話してくれたのだが、僕はどこかひっかかった。なにかが、違った。
あるいは思い込みかもしれない。しかし退院後、人が自分を見る目になにか違和感を覚えた。たかが顔が変わっただけで世界が一変するとまでは思わないが、前までの自分とは明らかに何かが違った。
○
それにしてもまさかイケメンにぶつかっただけで死にかけるなんて思いもよらなかった。僕は今まで彼らのことをしらなすぎた。
学校でも容姿に恵まれた連中はけっこういる。しかしその誰とも僕はたいして付き合いがなかった。というのも僕がありきたりな男で、これといった才覚に秀でているわけでもないし、社交性が低いことも自覚していた。
その僕がいつのまにかセンスのいい連中の仲間入りを果たしている。これだけでも僕にとっては革命的な変化だった。あのときから僕はほんとに変わったんだということが、驚くほどよくわかった。
いつしか僕は周りの友達に影響されて、話上手になっていた。自信がつくだけでこんなにも人は変わるものなのか。
「たけし!今日カラオケいこーぜ」
古臭い言い方かもしれないけど、僕の毎日が輝きだした。