第七十話 変異を糧に
突然のイメチェン宣言。それをミラードにぶちかました俺は、持てる記憶の全てを使ってミラードの姿を変えようとしていた。
「そう、髪はそんな感じの黒色で、顔はもうちょっと小さく!服装はもっと落ち着いた感じで!」
「こ、こうかしら……」
「うーん……手がアンバランスだな……腕に対して手が大きすぎる。俺の手くらいにしてくれ」
「わ、わかったわ……」
俺はゲームでキャラクリをするみたいな感じで、ミラードに指示を出していく。完全にミラードを倒すという目的を見失っている気がするが、会話が成立する相手を手に掛けるのは流石に人としてどうかと思う。ということで俺は完全に戦意を喪失していた。
「あの……あとどれくらいで、「いめちぇん」は終わるのかしら……」
「もうちょっとだ。なかなかあのキャラが思い出せなくてな……」
ミラードは記憶を読み取る魔物らしい。というわけで、俺はラノベとかゲームとかで印象に残っている登場人物を連想し、ミラードを自分なりに改造してみようとしているのだが……これがなかなかに難しい。細かい調節が出来るわけではないし、そもそも俺の記憶が鮮明でないと大まかな土台をイメージするのが難しいのだ。なのでミラードとにらめっこしながら、俺は調節を繰り返している。そして、何度目かの試行で、「イメチェン」は終了した。
「……これで終わりだ。うん、なかなか上手く出来たな」
「えっと……私からは、見えないんだけど……」
「そこの柱で見たらどうだ?なんか鏡みたいになってるし」
ミラードは言われるがままに、柱で自分の姿を見る。――そこにいたのは、長い黒髪ストレートの美人さんだった。いわゆる大和撫子というやつだろうか。どことなく日本人の面影を感じるような顔つきに、和装を連想させるような落ち着いた雰囲気の服。もはや原型がなくなってしまう程に、彼女はイメチェンをしていた。
「これ、私……?」
「お前以外に誰がいるんだよ。俺が変装でもしたのか?」
「だって、さっきしてた姿と全く違うわ……」
ミラードは戸惑ったように自分の姿を見つめる。うん、我ながら上手くいったもんだな。若干俺の好みが入っているような気もするが……それは置いといて。
「凄い……これが、「いめちぇん」なのね……なんだか、生まれ変わったみたい……」
「ちなみに聞きたいんだけど、その見た目で何かおかしいところとかあるか?結構大雑把にしちゃったのもあるし、もし違和感とかあったら……」
「ないわ……貴方は不思議な人ね……出会ったばかりの私に、こんな楽しい事を教えてくれるなんて……他の人の手で変身させられるなんて、初めての経験だったわ……」
「楽しんでくれたようで良かったよ」
内心ブチギレられるのではないかとヒヤヒヤしていたが、気に入ってくれたようで何よりだ。……さて、これからどうしようか。いっその事ここから離れてもらうとかしようかな……もう戦う気も起きないし。よし、二回目の交渉だ。
「えっと……実はお前にもう一個頼みがあってだな」
「……言わなくても分かっているわ……この姿のお礼に、貴方の頼みだったらなんでも聞いてあげる……」
マジかよ。凄いなイメチェンパワー。魔物を改心させるとか、もはや神の領域なんだけど。今度俺もイメチェンしようかな……と、いかん。話が逸れてしまった。
「それじゃあ、早速――」
「ええ……私、貴方の仲間になるわ……」
「ここから離れ――えっ」
今なんて?
「……ユウ、大丈夫かしら」
「大丈夫じゃよ。まだ分かれて少ししか経っておらんのじゃろ?ユウとて冒険者の端くれ。簡単にやられることはないはずじゃ」
ユウと手分けしてミラードを対処することにした私は、さっきまでユウのミラードを相手していた。少し苦戦したものの、私は勝利をおさめることが出来たのだが……まだ合流出来たのはシオンだけだ。ユウが相手しているのは……私の姿を模したミラード。自意識過剰かもしれないが、正直ユウがまともに戦って勝てるとは思えない。性格はアレだが、あのミラードは正真正銘の強者だ。槍の扱いも長けているし、私の使っている技をそっくりそのまま写し取っている。そんな私のミラードがユウに負けるなんて……
(あり得る……と思ってしまうのが悔しいわね)
ユウは正直言って強くはない。だけど、私では思いつかないような戦い方をしたり、卑怯な方法で裏をついてきたりする。だから簡単にミラードにやられるはずが……やられる、はずが……
「……やっぱり、私も加勢しに行くわ」
「そうか。なら、儂もついていくぞ!ミラードに一泡吹かせてやろうではないか!」
ユウを助けに行くと決意した私に、シオンが頼もしい言葉を掛けてくれる。こういう時に、友達って良いなって思うわよね……いえ、別にいつも一人なわけじゃないけれど?
「おや、あれは……ユウではないか?」
「え?」
シオンが指を差した方を向くと、うっすらと二人分の人影が見える。今この場所にいるのは私達と残りのミラードを合わせて、合計四人のはずだ。つまり、あの人影のどちらかがユウということになる。
「ユウ!」
私は走り出した。あの様子だと、まだ戦いは終わっていないのだろう。それなら、早く助けに行かないと……!私はすぐに人影の元に辿り着くと、槍を取り出して構える。
「待たせたわね!ユウ!今加勢に――」
そして、ユウにそう言って……途中で固まった。私の視線の先にいるのは、ユウと……綺麗な黒髪の少女だった。
「……えっ?」
「あ、フラムか……?頼む、助けてくれ……」
ユウはどこか疲れたような表情でそう言った。黒髪の少女は笑顔のままユウと腕を組んでいる。ちょっ、そんなにくっついたら……!
「せぇい!」
「うおっ!?」
私はほぼ無意識にユウを突き飛ばした。少女の腕が離れ、ユウが床を転がった。一体何が起きているの……?ユウはミラードと戦っていたんじゃ……と、とにかくユウに話を聞いてみないと。
「ユウ、これは一体……あっ」
「あっ……」
ユウは転がった時にどこかぶつけたのか、白目を向いて気絶していた。私と黒髪の女性は呆然と彼を見ていた。
「この子が、私のミラード……?」
ユウが目覚めた後、私はユウに詳細を説明してもらった。それで分かったことは、目の前にいる黒髪の少女が元私のミラードで、しかもユウに懐いたということだ。……えっと、どういうこと?
「話をしてみたら、割と話せるやつでさ……それでなんか情が湧いちゃって。なんとなく会話を続けたり遊んだりしてたらこうなった」
ユウはミラードに聞こえないようにそう言ってきた。なるほど。要はミラードを戦わずに無力化したということかしら。ユウはいつも私の予想の斜め上を行くわね……
「それで、こいつは俺達の仲間になりたいらしいんだけど……どうしたらいいと思う?」
「どうしたら、と言われても……」
私達はひそひそと離しながら、ミラードの方を見る。ミラードはシオンにもみくちゃにされながらも、何処か楽しそうにしていた。
「まさか、ミラードが自ら姿を作れるとは!本体の姿が見えないが、一体どのようにしているのじゃ!?」
「……本体は、私の身体と一体になっているの……ひゃっ……くすぐったい……」
「ふむ、触感が普通のミラードと違うようじゃな。本体と一体化したことで、独自の進化を遂げたということかのぅ……?」
「ちょっ、ちょっと待っ……ひうっ!?」
「「…………」」
本当に魔物なのだろうか、この子は。私と同じくらいの背丈をしているというのに、覇気も殺意も感じ取れない。というかさっきからシオンはどこを触っているのかしら。ミラードの顔が赤くなっているのだけど。
「ゆ、ユウっ……!」
「えっ、ちょっと待っ痛ああああぁ!?」
「ちょ、何してるのよ!」
ミラードがこちらに来たかと思うと、ユウの後ろに隠れて腕を思い切り掴んでいた。慌てて引き剥がすと、ミラードはビクビクとしながら私の後ろに隠れた。ユウは腕を痛そうにさすっていた。
「ふむ、どうやらフラムの力がそのまま残っているようじゃな。これも自らの姿を変えた影響ということかの……?」
シオンはぶつぶつと何かを呟きながら、自分の世界に入っているようだった。




