第八話 異変
ギルドにあの魔物を報告した後、ギルドは安全のため調査隊を出すことにしたらしい。そのためか、今の冒険者達は少しざわついていた。
「変な魔物だってよ……」
「普通の魔物より強いんでしょ?私達の仕事が無くなるんじゃ……」
そんな冒険者達を、俺は菓子を食べながら遠くで見ていた。フラムが呆れた顔で見てくる。
「あなた、呑気すぎるんじゃないの?こんな時によくお菓子なんて食べれるわね」
「お前も食うか?アカギさんの新作だぞ」
「えっ、本当!?私も食べたい!」
俺はフラムに菓子を渡すと、冒険者達を見る作業に戻る。……みんな不安そうだな。まぁ、そりゃそうか。
「フラム、今日はクエスト行くか?俺はついてくぞ」
「嫌よ、危険な魔物なんて近寄りたくないもの。……美味しい!やっぱりあの店のお菓子は最高ね!」
そう言ってうっとりとした表情で菓子を食べるフラム。こいつ、高レベルとか言っといて危険なのは嫌なんだな。俺は剣を背負うと、椅子から立ち上がる。「じゃ、俺はクエストいくから」
「えっ、大丈夫?危険な魔物がいるかもしれないのよ?」
「別に全部が全部そうじゃないだろ。俺はちょっと金がいるからな」
俺は適当な嘘を言って、その場を後にした。
「……出たか」
案の定、例の変な魔物が出てきた。紫の文様がついたゴブリン。いつもよりでかいな!
「≪ランダムスチーム≫」
呪文を唱えると、煙でゴブリンが苦しみだす。ちゃんとこいつにも煙は効くみたいだな。俺は剣を使ってトドメを刺す。なんとなく気が引けたので一応手を合わせて祈っとくが、気休めでしかないので軽く済ませる。
「やっぱり、俺を狙ってるよな……」
昨日見たオーガ。襲っていたのはフラムだったが、目はこちらを見ていた。そしてゴブリン。こいつも俺を見た途端走り出してきた。もう少し調べる必要があるが、俺の予想は正しいだろう。何故なら……
「今度はスライムか」
襲ってきた魔物は文様のついたスライム。液状なので見づらいが、はっきりと紫色の文様がついていた。
「≪フリーズ≫」
よし、ぎりぎり凍った。俺は剣を使って念入りに砕いていく。……一体誰が俺を狙っているんだ?俺は別に何かした覚えはないのだが……と、俺が悩んでいると、突然、目の前が光り出した。うおっ、溶ける……!吸血鬼かよ。
「あーイライラするのぅ!お主、何で儂の魔物を倒せる!?」
耳に響いてきたのは透き通るような女の子の声。恐る恐る目を開けると、そこには古風な服装をした紫髪の少女がいた。頭の左には大きな角がある。
「誰……?」
「主に名乗る名などないわ!とっとと死ぬがいい!」
何だこの展開!何かどっかで見たことあるな!何故かは知らないが、俺に恨みでもあるのだろうか。
「うわっ、矢っ!?」
少女が手をふるたびに、紫の文様の魔物が現れてくる。その中の一体が、俺に矢らしきものを放ってきた。すんでのところで躱すと、俺は剣を使ってそいつを倒す。
「その面妖な剣……お主もカブラギ様と同じ力を持っているということか」
「カブラギ……!?」
何でカブラギの名前が……もしかして、俺を狙ってるのは、こいつじゃなくてカブラギ……?何で?俺なんかした?
「何なんだよ!俺が何したんだよ!」
「お主が知る必要などない。これで……終わりじゃ」
「何!?ぐはっ」
油断した!俺は魔物の一撃で吹き飛ばされる。前のオーガとは違って、剣で防ぐことは出来なかった。
(あ、これやばいやつ……)
その衝撃で、俺は気を失った。
「ふう、なんとタフなやつじゃ。やっと死んだか……」
シオンは魔物に向かって手をあげると、ユウに向かって魔物をけしかける。万が一、生きていたときのためだ。シオンは魔物にまかせ、踵を返すと……突然、後ろで魔物が斬られた音がした。魔族であるシオンは、小さな音すらも聞き逃さない。振り返ると、そこには傷だらけのユウが立っていた。しかし目が虚ろで、焦点があっていない。
「まだ生きていたか……仕方ない、儂が直々に相手を……」
そうシオンが言った次の瞬間。シオンの近くにいた魔物が切り飛ばされた。シオンは目を丸くする。
「なん、じゃと……?」
≪我の邪魔をするな。低俗な魔族よ≫
「!?」
ユウの口から、別の声が聞こえてくる。彼は……いや、彼の姿をした者はおびただしい殺気を纏っていた。異様なその姿にシオンは恐怖を感じる。
「低俗だと……?ふざけるなあ!」
≪混沌式・十六剣術……「虚無」≫
ユウが剣を振るうと、シオンの魔物が全て斬り刻まれた。シオンは戦慄する。
「くっ、ここは退却じゃ。覚えておれ!」
シオンは捨て台詞を残し去っていった。すると、糸が切れたように、ユウは倒れた。
≪限界か……良かろう、また眠りにつくとするか≫
最後にそう呟き、ユウを纏う殺気は消え去った。
「……ん、あれ?俺どうしたんだ?」
俺は起き上がって今の状況を確認する。服に傷はない。頭痛い。手に傷がある。全身痛い。異常ありまくりだ。
「……魔物もいない、あの変な少女もいない……」
もしかして、起きたら全てが終わってた感じ?俺がなんか凄い力に目覚めたとか?いや、ないか。それよりも……
「……カブラギがあの魔物を裏で操ってる、か……」
その可能性は高い。だって聞いてもないのにあいつがバラしてたから。ああいうやつの言うセリフはあんまり嘘はない。(ラノベの経験)
「よし。帰るか……フラムも心配してるだろうし」
あれっ、何で俺があいつのこと気にしてるんだ?疲れで頭おかしくなった?
「ユウ!あなた傷だらけじゃない!やっぱりクエストは無茶だったんでしょ!」
「オカンかお前。そんな心配しなくても、全身痛いだけで得に何もないぞ」
「心配しかないのだけど!ほら、この回復薬を飲みなさい!」
勝手にオカンみが上がってくフラム。俺は何か緑色した液体を受け取り拒否して、懐のお菓子を食う。回復薬より効くらしい。アカギさんの話では。
「それより、いい情報を掴んだぞ。どうやらこの騒動には、カブラギのやつが関わってるらしい」
「カブラギ?あいつが何で……」
「まぁ、人伝に聞いた話だから、信用できないかもしんないけど」
「確かに、本当かどうかはわからないけれど……最近、カブラギが路地裏に行くのを見たって話を聞いたわ」
ほお、それは怪しいな。……数日前に同じ光景を見た気がする。そう言えばあいつ、チートがどうとか言ってたな。
「なあ、カブラギってなんか有名だったりするのか?」
「そうね……天使に推薦されたっていうのと、あの強力な剣が有名ね。後は女の子しか優しくしないとか……」
何だそれ。最初のはともかく最後のは何だ。……強力な剣というのはあのジークなんたらという奴か。あのとき、カブラギはチートがフラムに効かなかったとか言ってたな。あれはどういうことだ……?
「もしかして、あの剣に何かある……?」
「小声で何言ってるの?聞こえないのだけど」
「聞かせたくないんだけど」
こいつ独り言に聞き耳たててるのか。こいつの前で内緒話は止めておこう。
「なぁ、フラム……頼みがあるんだが……」
「ん?何?」
おい、お菓子食ってんじゃねえよ。
「すまぬカブラギ様、失敗してしまった……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。シオンさんの実力なら、あの男をいつか倒せます。そして、フラムさんを僕のもとに……」
現場を押さえてしまった。お巡りさん、あいつです。あのあとフラムにカブラギを見かけたという場所を教えてもらったのだが、まさかのドンピシャ。マジかよこいつ。もっとこっそり動けよ。それは俺が困るけど。それより、あのときの少女はやっぱりグルだったか。
「カブラギ様……!儂はしっかりと魔物を創る!だから儂に任せてくれ!」
「ちょっ、声が大きいですよ!シオンさん!」
ホントだよ。ばっちり聞こえたわ。あいつが魔物を創ってたのか…………そしてカブラギはあいつと協力関係……何であいつはそんなことをしてるんだ?あと、まだ俺に気づかないのか。結構見えてると思うんだけど。
「…………はれ?」
「……え?」
「…………こんちはー」
「うわあ!?お主、あのときの……!」
ん?何でガタガタ震えてるんだ?むしろそれこっちがやるやつじゃない?カブラギは冷静にこっちを見据えている。……そりゃそうか。カブラギは笑みを浮かべて話しかける。
「ユウ君、奇遇じゃないか。何か用か?こんなところに」
「お前それで乗り切れると思ってんの?」
こいつよく見たらめっちゃ汗かいてるじゃん。それじゃ無理だろ。分かりやすいやつ。
「っ、知られたからには眠ってもらう!はあっ!」
「≪ランダムスチーム≫!」
少女はあっさり眠りについた。ラッキー。後は魔物を倒してっと……俺は不敵な笑みを浮かべながらカブラギを見る。
「さて、後はお前だけだな。観念したらどうだ?」
「何をだい?僕が魔物を生み出させたことかい?この世界では証拠も残せないだろう」
「ところがどっこい、ここには≪転写≫って魔法があるんだな。ばっちり写してるから」
ギルドの人に≪転写≫が使える魔法具を借りておいて良かった。
「そうか……なら残念だけど君を殺すしかないね」
やっぱりそう来るか。
「おっけ、掛かってこいよ」
レベルの上がった俺を見せてやる。
「はあっ!」
「うおっ!ヤベッ!」
カブラギの剣をなんとか躱して、剣から煙を出す。しかし、あんまり効いてないっぽい。
「はっ、この聖剣ジークフリートには状態異常を無効化する力がある!これで君の剣も無力だ!」
マジかよ!じゃあこいつ何であのとき防いでなかったんだ!いや、防がれたら俺が困るんだけどさ!
「何であんなことしてるんだよ!俺が嫌いなら嫌いって言えばいいだろ!」
「別に君のことは嫌いじゃないよ。ただ僕の目的の邪魔だからね」
「目的……?」
カブラギの剣を避けながら、俺は疑問に思ったことを聞く。カブラギは気味の悪い笑みを浮かべていった。
「僕の目的は一つ。欲しい物を全て手に入れることだ」
「んだそりゃ!≪発射≫!」
矢を放つが、カブラギは軽々と躱し、
「君は見たところ元は高校生だろう?僕も同じだ。なら考えたことはないか?ルールに縛られずに生きたいと」
?それはなんか関係あるのか?カブラギは話を続ける。
「僕は圧倒的な力を手に入れた。縛るものは何もない。なら欲望のままに生きたいと思うのは普通だろう?欲しい女を全て手に入れたいと思うことはね」
キモっ。こいつやっぱりやばい奴か。ふと、カブラギはこっちに向かって、
「君、僕に協力しないか?君も男だろう?僕と一緒にこの世界の女全てを手籠にしようじゃないか」
最悪の誘い文句だ。こいつはもうサツに突き出そう。
「興味ない。俺は気ままに生きたいんだ。この生活を邪魔するんなら俺はやりたくないこともやる」
「それは本当に君の本音か?君も本当は野望があるんじゃないか?」
カブラギの言葉に、一瞬言葉が詰まる。それを好機ととったのか、カブラギは一気に斬り掛かってくる。
「早く素直になりなよ。僕が君を使ってやるからさ」
「っ、ぐあっ!?」
カブラギの剣が俺の体を掠める。貧弱な俺はその一撃で意識が飛んだ。




