第六十九話 鏡は脆く
「≪フレイムバスター≫!」
「よっ、と」
フラムの炎を纏った槍を、ミラードは軽々と躱す。ミラードは笑みを浮かべながら、フラムの周りを逃げ回る。
「ほらほら、そんなもんじゃないでしょ?もっと俺を楽しませてよ!」
「くっ……すばしっこいわね……!」
「≪サンダー≫!」
「痛っ!?」
ミラードの放った魔法は、フラムの肩に頭を小突かれたというくらいの小さなダメージを与えた。
「この感じ、出会った時のユウを思い出すわね……」
「ん?それって俺がオリジナルに似てるってことかな?」
「いいえ、違うわ。少なくとも本物なら……」
フラムは自分に飛んできた炎魔法をさっと躱した。
「こんな器用な真似は出来ないはずよ」
「……勘がいいね。流石はフラムのオリジナルだ」
ミラードが先程放っていた魔法は、一つではなかった。フラムが雷魔法で怯んだ隙に、こっそりと炎魔法を撃ち、それをフラムにぶつかるように操作していたのだ。
「そのオリジナルって言うのは止めて。なんだか褒められている気がしないわ」
「分かったよ。それじゃあ、正々堂々戦おうじゃないか」
「望むところよ。……≪フレイムバスター≫!」
フラムは再び、ミラードに槍を振るう。ミラードはそれを躱しながら、着々と攻撃の機会を伺っている。
「≪ランダムスチーム≫」
「甘いっ!」
フラムは凄まじい勢いで槍を回して、煙を吹き飛ばした。ミラードは驚愕の表情を浮かべ、一瞬だけ動きが止まる。
「≪フレイムブレイク≫!」
「かはっ……」
ミラードはフラムの槍技をくらい、地面に転がる。ミラードは苦悶の表情を浮かべながら、剣をフラムに向けた。
「……≪発射≫!」
剣から放たれた矢を、フラムはさっと躱す。そしてそのままとある方向に走り出す。
「なっ……まさか……!」
「もらったわ!」
フラムは視線の先にある、ミラードの本体――鏡のような姿をした虫に槍を突き刺した。すると、鏡が割れるような音が聞こえ、本体が崩れ落ちる。
「そんな……いつの間に本体の場所を!」
「さっきからずっと気配がしていたわよ。貴方はどうにか気づかせまいと、撹乱しようとしてたみたいだけど……私には効果がなかったみたいね」
「くそっ……嫌だ!俺はまだ遊びたいのに……」
「……残念だけど、貴方はここで終わりよ」
「嫌だ……誰か……助け……」
ミラードは虚空に手を伸ばしたが、それが届く事はなく。身体が砂のようになり、風に吹かれて消えていった。
全身に力を入れて、全力で走り回る。俺の後ろを追いかけるあいつから逃げるために。
「待って……ユウ……」
「うおおおお!」
フラムのミラードを任されてから数刻。俺は追ってくるミラードから必死に逃げていた。
「待つわけねぇだろ!待って欲しいならその槍を仕舞え!」
「それは出来ないわ……だって、私は貴方を倒さなきゃいけないの……」
「いやああ!誰か助けてぇ!」
なんとかするしかない、と高をくくったものの……さっきから俺の攻撃はいとも簡単にミラードに防がれてしまっている。煙を放っても、魔法を撃っても、剣で斬りかかっても。全部行動を読まれ、防がれる。こんなん勝てるわけなくない?
「あっ」
そんな事を考えていたら、足を滑らせてしまった。思いっきり転んで地面に倒れ込んでしまう。
「ふふふ……ようやく追いついたわ……」
起き上がろうとしていたら、ミラードが薄っすらと笑みを浮かべながらこっちに歩いてきていた。いちいちホラーみたいな感じにしないで欲しい。
「≪発射≫!」
矢を放ったが、簡単に槍で弾かれてしまう。こいつ、言動は後ろ向きなのにスペックがフラムだからまじでやばい。俺がフラムと一回戦った時、敵わないからって不意打ちしたもんな。
「貴方のすることは、全部分かっているのよ……だから、観念して楽になりましょう……?」
「ちょ、ちょっと待て!話をしよう!」
やばい、あの目は人を殺す目だ。本気の恐怖を感じる。俺は必死に、対話を試みようと呼びかけた。
「……話?私と……?」
「そ、そうだ。俺達は会話が通じる。だから話をしよう。それに、俺を倒したらまたぼっちになるぞ?」
「……ぼっち……」
なんか悲しそうに俯いてしまった。……本気で気にしてたんだろうなぁ……今度からフラムを弄るのは止めてやろう。
「よ、よし。どうだ?俺と面白い話をしようぜ?」
「……分かったわ……お話、してもらってもいいかしら……?」
「ま、任せろ!」
なんとか誘いを受けてもらい、俺達は話をすることになった。
「それで俺は言ったんだ……「その料理は高すぎるので、どうか限定メニューで勘弁してください」ってな」
「ふっ、ふふふ……」
話を始めて数刻。なんとかウケのある話が出来ていた俺は、見事にミラードの足止めに成功していた。ちなみに武勇伝とかではなく、俺の失敗を面白可笑しく語っただけである。うん、笑い事ではない。
(この間に、突破口を見つけないとな……本体あるって言ってたし、それをなんとか探し出せれば……)
「ねぇ、他にはあるの……?」
「はっ!?え、ええと……」
やばい。流石にそろそろネタ切れである。え、武勇伝はまだ語ってないからそれをすればいいって?いや、どんな気持ちで語ればいいんだよ。自慢話とか一番盛り下がるから。
「えっと、そうだな……」
「ないなら……次は私ね……」
「えっ」
まさかの相手のターン。こいつ魔物なんだよな……?なんでこんなノリノリなの?殺しにかかったりとかしないの?
「私はこの前、他の冒険者の姿になって……ここに来る人間たちを、追い払っていたの……その時の人間が言った言葉が、「もうここには近寄らない!だから俺に化けないでくれ!頭がおかしくなりそうだ!」っていうもので……くすっ……」
「…………」
いや、魔物だわ。今のエピソードの何処に笑える所があったんだ。……というか、ミラードっていろんな人間になれるんだな。今のフラムの姿とは別に、他の冒険者になったのかもしれない。
「……お前って、≪元の姿≫とかはないのか?」
つい気になってしまい、俺はそんな話題を振ってみる。すると、ミラードは少し寂しそうに笑みを浮かべた。
「ない、と思うわ……この姿も、記憶も、貴方の仲間を写し取ったものだし……そもそも私は本体から生み出されたから。本体の意志のままに動く人形よ……」
「……そうか」
「……他の話を、しましょう……私、こんな楽しい時間は生まれて初めてなの……悲しい話で、水を差したくないわ……」
ミラードは笑う。そんな反応をされてしまうと、こっちも話を続けざるを得ない。というかちょっと情が湧いちゃったんだけど。えっ、俺こいつと戦わないといけないの?しかもミラードの言葉からすると、俺は永遠に話し相手にならないといけないのでは……?それはちょっとまずい。ここはどうにかして、方向転換を……!
「……なぁ、さっきの話なんだけどさ」
「何……?もうその話は……」
「いや、そうじゃなくて。お前、好きな姿を写し取れるんだよな?それって、俺が知っている人とかでも良いのか?」
「え、ええ……誰かの記憶を読み取って姿を変えているから……可能だとは思うけれど……」
「よし。それじゃあ、次は少し違うことをしようぜ」
「違う、こと……?」
ミラードは首を傾げ、不思議そうにこちらを見つめてくる。俺はそんなミラードに対して、ニヤリと笑みを浮かべた。
「――イメチェンだ」




