第六十六話 二人で最強
ナギがリエを外に連れ出したので、俺達も続いて外へ。見ると、未だ呆然としているリエの横に、ナギが立っているのが見えた。
「リエ〜、早く開けてよ〜」
「……はっ!?わ、わかった」
ようやく正気に戻ったリエは、渡されていた箱を開ける。そして、驚いたような表情で中身を見た。
「……これは」
「新しい弓だよ〜。リエは聖弓マグナムしか持ってなかったから、代わりになったら良いなって思って〜」
「な、ナギ……!」
「これでまた、最強を目指そうね〜」
「あ、ああ!もちろんだ!」
リエは涙目になりながら、ナギに笑いかける。アオイさんは感動したように涙を流しており、レーヴィはニコニコと笑みを浮かべている。対して俺は、警戒したように身体を引いていた。
「なんで君は、そんな目をしているのかなぁ〜?」
「……いや、今の絶対本心じゃないだろ」
何度か接してきて分かる。こいつは上っ面だけぽわぽわしている腹黒だ。多分自分の利益になること意外はやらないタイプ。
「半分は本心だよ〜。ただ、リエがマグナムを失ったまま落ち込んで、目的を見失ったりしたら困るからね〜……飴と鞭ってやつ〜?」
「二人共、何故こそこそ話してるんですか?」
「いや、何でもないぞ」
「そうだよ〜。リエの面倒を見てくれた人にお礼を言ってたんだよ〜」
レーヴィが首を傾げてこっちを見てきたので、咄嗟に誤魔化す。あの良い雰囲気を壊すのはちょっとな。あとナギの視線が怖いし。
「おい待て、私がこの男に面倒を見てもらっただと!?ふざけるな!誰がこんな貧弱な男に!」
「ひ、貧弱とか言うなよ!これでも最近力はついてきたんだぞ!?」
「ユウさん、涙出てますよ……」
しまった。あまりにもコンプレックスを刺激され過ぎて、俺の鉄壁の涙腺ダムが崩壊したようだ。なんだよ、貧弱でもいいじゃんかよ!普段筋肉酷使する機会なんてないし!
「あはは〜、やっぱり君は面白いね〜」
「俺、もう人生止める。やめてキャラクリからやり直す……」
「ユウ様!?お気を確かに!」
最終的にはレーヴィに慰められてしまった。もうやだ。
帰りの馬車に乗った俺達は、がたがたと馬車に揺らされていた。ナギは席が足りなかったので、リエの膝の上にちょこんと座り、抱きかかえられている。
「わぁ〜、いい景色だね〜」
ナギが窓から外の方を見て呑気に言う。周りを見ると、俺達以外の人は皆寝ていた。アオイさんは魔法の使いすぎ、レーヴィは居眠り、リエに関してはナギの抱き心地が良かったのか、ぐっすりと眠っている。……いや、ぬいぐるみがないと寝られない子供か。
「おい、リエが寝てるんだからじっとしてやれよ……」
「別にいいでしょ〜。それにリエだったら、僕に引っ付いてるだけで満足だろうし〜」
「……お前ら、そんなに仲良かったっけ」
思わずそんな言葉が出る。以前会ったときは、俺の混沌剣ばっかり狙ってたし、そこまで仲が良さそうでもなかった。だから不思議に思ってしまったのだろう。
「……まぁ、姉弟だし〜」
「その割には、リエが捕まったときに動じてなかったけどな」
「…………」
俺の言葉でナギの笑顔がスッと消えた。やめて、怖いから。ナギは真顔のまま、軽くため息を吐いた。
「……はぁ……てめぇになら話してもいいか。一応、リエを助けてくれたみてぇだしな」
ナギは眼鏡を外し、ポケットにしまい込む。それはこの前見た、突然豹変したときの顔だった。しかし以前のような怖さは不思議とない。あとテンション高くない。
「それ、どういう仕組みなん?」
「ああ?普段は猫被ってんだよ。この本性見せたらたいていのやつは逃げ出すからなぁ。眼鏡だって伊達だよ伊達」
衝撃の事実である。……確かに、少し変だとは思った。こいつちっとも目悪そうじゃないし。なんか眼鏡してる時邪魔そうにしてるし。
「まぁでも、顔はなかなか可愛いもんだろ?」
「…………」
否定はしない。だが口には出さなかった。出したらいろいろ負けた気がするからだ。あとレーヴィが起きたら怖い。閑話休題。
「……リエは、僕と一緒に死んだ。飲酒運転のトラックに轢き殺されたんだ」
「……そうなのか」
「そして、天使に会ったとき……僕は生まれて始めて涙を流した。ああ、もう死んじゃったのかって。二人で決めた、自分達の才能を極めるって目標も、もう叶わなくなったのかって」
ナギは少し俯いていたが、ゆっくりと顔をあげる。
「その時、リエは僕に言ったんだ。大丈夫、私がいるんだから、その目標は叶えられる。まだやり直せる、ってな。その直後だった……天使から生まれ変わる事が出来るって事を教えられたのはな」
「…………」
「だから僕は誓ったんだよ。どんな手段を使っても、目標を……二人で最強になる夢を、絶対に叶えてやるって。僕達は、二人で一人だからな」
そこまで言うと、ナギは喋るのを止めた。……想像の二倍くらい凄い話だったな。あと異世界転生の場面主人公すぎない?俺もそういうのやりたかった。
「なるほどな。で、俺の剣を奪いに来たと」
「そうだ。弱っちいてめぇより僕達が使った方が、夢に近づけると思ってな。まぁ結果は、リエが暴走して、マグナムを失っちまったが……」
「弱っちい言うな」
最近ちょっと気にしてるんだから止めて欲しい。何で俺の周りって格上しかいないわけ?俺って一応異世界転生者だよね?
「そう言われても、僕は一応高レベルなんでね。てめぇと喧嘩して負ける気はしねぇな」
くっ、こいつ……!もういいや、突っ込むのは止めよう。不毛な争いが起こってしまう。
「……そういや、お前ってどんなチート持ってんの?まだ一回もお前のチートを見たことないんだけど」
「ん?チートって、これの事か?」
ナギはそう言って近くに浮いている本を指さす。……本はナギが豹変したときと同じように、口の怪物みたいになっていた。……あ、これがチート?確かにこれって普通の人は持ってなさそうだな……
「こいつは僕が知りたい情報を教えてくれるものだ。対象を見て、そいつの知りたい情報を聞くだけで脳内に直接送ってくれる。一日に三回しか使えねぇけどな」
「へー」
それは便利だな。この世界の魔物についてとかそういうのを知りたい時に役に立ちそうだ。
「てめぇにも使おうとしたんだが、どういうわけか情報の開示は出来なかった。だから僕はてめぇに興味を持ったのさ」
「なるほど……ん?」
今、なんかやばい事言わなかった?俺、危うく自分の事を暴かれそうになってたって事?なにそれ怖すぎない?
「お、そろそろ着くな。今日聞いたことは誰にも言うなよ。もちろんリエにもだ」
「お、おう……」
ナギは話は終わりだとばかりに、眼鏡をつけてそっぽを向いた。いや、待ってくれ。まだ気になることがあるんですけど?ちょっとナギさん?
しばらくして、俺達は町に戻ってきた。
「それじゃあ、僕達はここで〜」
「ああ。ありがとう先輩、レーヴィ。あとユウ」
「お前俺に喧嘩売ってんのか」
人をおまけみたいに言うなよ。しかも二回目だぞ。そろそろキレていいよねこれ?
「いいんですよ。困った時はお互い様ですから。またお店に来てくださいね?」
「わたしは何もしておりませんわ。お礼を言われるようなことではありません」
そうだよな。俺達別についていかなくても良かったよな?正直アオイさんの魔法だけで十分だったと思う。
「そんな事はないと思うよ〜。君達が来てくれたおかげで、僕の気持ちもまとまったし〜」
ナギはいつもの様子でそう言うと、スッと俺に近づき、耳元に囁いた。
「それに、僕と君は同じ食堂の常連だろ?また仲良く話をしようじゃねぇか」
思いもよらぬ友好的な言葉に、俺はナギの顔を見る。……表情こそ同じだが、瞳がさっきみたいにギラギラしている。ただ話すだけではないのだろう。……ああ、嫌だなぁ……
「むっ、おいユウ。ナギとの距離が近くないか?」
「こいつが近づいて来たんだろ。羨ましいなら幾らでも変わってやるよ」
「えっ!?い、良いのか!?」
俺の言葉に、頬を赤らめながらナギを見つめ始めるリエ。なんだこのブラコンは。
「じゃ、じゃあナギ、私にもさっきのやつを……」
「リエ、早く一緒に帰ろっか〜」
ボソボソとしたリエの呟きは、ナギの一言によってかき消された。




