第六十四話 対弟特攻
そして、二日後。今日は食堂が休みのため、俺達はギルドに集まることになった。
「おい、見ろよ。高レベル冒険者のリエだぞ」
「あの青髪の姉ちゃん、美人だなぁ……見たことない顔だし、新人か?」
ギルドに着くと、そんなざわめきが聞こえてくた。どうやら何か冒険者達の興味を引くものがあるらしい。俺は何となく、皆が見ている方を見てみる。
「…………」
そこには、楽しそうに談笑しているアオイさんとリエがいた。アオイさんはいつものエプロン姿と違う、ローブのようなものを着ており、はたから見ると、冒険者同士が仲良く話しているように見える。見てくれが良いからなのか、二人は周囲の注目を一身に浴びていた。
「あら、おはようございます。ユウ様」
「うおっ!?……れ、レーヴィか。おはよう」
びっくりした。いつの間に後ろにいたんだろう。俺は、吃りながらもレーヴィに挨拶を返した。
「そろそろ約束の時間だと思ったのですけれど……二人は、まだ来ていないのですか?」
「いや、あそこにいるよ」
俺が二人の方を指差すと、レーヴィは首を傾げた。
「……アオイ様は、どちらに?」
「あのローブを着ているのがアオイさんだよ。ほら、リエと話してるだろ?」
「本当ですね。では、声を掛けに行きましょう」
「えっ、マジで?」
「?ユウ様は、アオイ様達と同行するのでは?」
「いや、あんな視線が集まってる所に行くのはちょっと……」
「まぁ、そうなのですか?それなら、わたしがアオイ様達をお呼びいたしましょうか?」
「……一緒に行こうぜ」
流石にそれは情けないので、俺は覚悟を決めて二人の元に行くことにした。
「……ふわぁ……やっとついたぁ〜」
とある町の一角で、桃髪の少年が軽く欠伸をする。彼はその場で軽く身体を伸ばし、姿勢を正した。
「ここが隣町かぁ〜綺麗な所だね〜」
少年――ナギはふわふわとした雰囲気で、辺りを見渡している。それに合わせて彼の近くに浮いている本も動く。通行人は珍しいものを見るような目でナギを見ていた。
(さて、目的の場所は〜……あっちだ〜)
ナギは辺りを見渡すのを止め、まっすぐと進んでいく。やがて彼の視線の先に、一つの建物が見えてくる。それは――この町にある鍛冶屋であった。
「それで、リエはナギの向かった場所に心当たりがあるのか?」
「ふっ、それは当然……ないに決まっているだろう!」
リエ達と合流した俺達は、町を歩きながらナギの向かった先について話し合いをしていた。流石に無策で探しに行くというのは無茶だと思ったからだ。しかし俺がリエにした質問は、まったく意味のないものだったということを悟った。
「自信満々に言うことじゃないだろ……やっぱり、しらみつぶしに探すしかないのか……」
「ユウ様、それは不可能だと思いますわ」
俺の提案をレーヴィが否定する。そうだよな。何処に行ったかも分からないやつをどう探せというのか、って話だもんな。
「レーヴィは何かあるか?」
「ええと……人探しなどしたことがないものですから……」
「そっか……うーん、じゃあどうすれば……」
「ふっふっふ……甘いですね、二人共」
俺とレーヴィが話していると、アオイさんがいきなり割り込んできた。なんだろう、この絶妙に腹の立つドヤ顔は。アオイさんは杖を揺らしながら、得意げにこんな事を言った。
「人探しなんて、普段ガルム探しに没頭している私にとっては朝飯前です」
なんでこの人は堂々としているのだろう。もう少し恥とかはないのだろうか。
「リエさん、弟さんの私物を持っていますか?もしくは髪の毛の一部とか」
「え?ええと……借りたままだったハンカチなら持っていますが……」
「それを貸してください。それに特殊な探知魔法を掛けて、弟さんの場所を割り出します」
「え、アオイさんそんな事出来るんですか?」
思わず口から出た言葉に、アオイさんはもちろん、と言わんばかりに頷いた。それはもはやストーカーとかいうレベルではないのでは?なんでガルムさんは逃げれてるんだよ。
「それを使えば、ガルムさんを簡単に見つけられるんじゃ……」
「ガルムには効果がないんです。探知魔法を何度使っても、巧妙に場所をずらし、その場から離れているらしく……」
ガルムさんってやっぱ凄いんだな。今度何かご飯でも奢らせてもらおう。
「……リエ様、アオイ様は一体どれほどの実力者なのですか?」
「わからん。わからんが……とんでもない力を持っていることだけは理解できる」
リエとレーヴィはヒソヒソと会話している。若干表情が引き気味なのは気のせいではないだろう。うん、俺も絶対敵に回したくない。
「では、リエさん。そのハンカチをこちらに」
「は、はい……」
リエはおずおずとハンカチを差し出した。対してアオイさんは懐から小さな杖を取り出すと、そのハンカチに軽く杖を触れさせた。すると、ハンカチが淡い光を放ち、一本の線を作った。
「この線を辿っていけば、弟さんが見つかります。一応私達以外には見えないようにしていますが、弟さんに勘付かれる前に弟さんを見つけましょう」
「「…………」」
アオイさん、二人が引いてますよ。
「すいませ〜ん、これくださ〜い」
「はいはい……あら、そんなにボロボロなものでいいの?武具だったら、他に良いものがあるわよ?」
「え〜そうなんですかぁ〜?僕、よく分からなくて〜……」
鍛冶屋についたナギは、早速目当てのものを買おうとしていた。しかし彼の手に持っているものは誰がどう見ても粗悪品だった。店員――シェリィはそれに気づくと、ナギに他の武具を勧める。
「こっちに来なさいな。わたしが一緒に選んであげる」
シェリィはナギを小さな子供だと思ったのか、優しい口調で話しかける。ナギは笑顔のままシェリィの言葉に従う。
「さて、あなたはそれが欲しいのよね?なら、これとか、これを選ぶと良いわ」
「わかりましたぁ〜ありがとうございます〜」
「分からない事があったら、また聞いてね。わたしは今日はそこのカウンターにずっといるから」
シェリィはそう言うと、カウンターの方へ戻っていく。ナギはシェリィから目を逸らすと、彼女が教えてくれたそれに目を向ける。
(うーん、悩む所だなぁ〜……なるべく綺麗な方が良いと思うけど〜……)
ナギはそんな事を考えながら、笑顔で武具を眺めていた。




