第六十三話 新たな####
「……まさかまたお前と出会うとはな」
「いやこっちのセリフだ。お前捕まったんじゃなかったのかよ」
リエの睨みながらの台詞にツッコむと、レーヴィが驚いたようにリエの方を見た。うん、そんな反応になるよな。
「……最近になって釈放された。その間にクエストを受けられなかったからな。金もないし、今はバイト生活だ」
「へーそうなのか」
「なんだその棒読み気味の返事は!聞いてきたのはお前なのだから、もっと興味を持って――」
「リエさーん、仕事中ですよー?」
「は、はい!すみませんでした!」
俺の適当な返事にキレたリエは、いきなり現れた怖い笑顔のアオイさんに連れて行かれた。
「……よっ」
「……なんだお前か。もう夜も遅いし、そろそろ食堂が閉まるぞ」
もうすっかり日も暮れた頃。俺は食堂の中でバイト帰りのリエと鉢合わせした。
「なんだよ、お前が言ったんだろ?話に興味を持てって。俺は話の続きが気になったから待ってたんだよ」
「……ストーカー?」
「いや違う違う」
なんでこんな奴のストーカー呼ばわりされなければならないんだ。全くもって不服である。
「いや、こちらのレーヴィさんがな?冒険者の先輩である川崎姉の話を聞きたいっていうから」
「なるほど、なら何故お前がいる?」
「こんな時間に(十一歳の)女の子を一人にするわけなにはいかないだろ?」
俺もそうだが、未成年の少女をこんな所に置いておくわけにはいかない。だからわざわざアオイさんに許可を貰って一緒に待っていたのだ。
「女の子……」
「ん、どうしたレーヴィ?顔が赤いぞ?」
「な、なんでもありませんわ」
「…………」
レーヴィにすっと目を逸らされた。リエは何故か俺の方をうんざりしたような表情で見てくる。なんだその顔は。
「まぁ、レーヴィの頼みを聞いてやってくれよ。このポテトもつけるからさ」
「……はぁ……少しだけだぞ」
リエは心底嫌そうにレーヴィの隣に座った。正直俺も嫌ではあるが、自分の後輩からの頼み事だ。無下にするのもなんか嫌だし。
「……それで?お前は何の話を聞きたいんだ?」
「あなた様の、冒険者としての経験をお聞きしたいのです。わたしは冒険譚などが好きなので」
「そうか……しかし、そこまで面白い話はないぞ?」
「構いません。わたしはあなた様のお話を聞きたいのです」
「ふむ……とはいえ、私が魔物を瞬殺した話ばかりするのも…………そうだ、そこの男との話をしてやろう」
「おい、そこの男ってなんだ」
「是非!是非それでお願いしますわ!」
リエは俺の言葉をスルーし、目を輝かせているレーヴィの方を向く。それから、リエの話が始まった。
「この男とは、とある剣を巡って争ったんだ。私達をより強くするために、私とこいつは死闘を繰り広げた」
「違うだろ」
ほとんどこいつが一方的に襲ってきたんだけど。そんな終生のライバルみたいな関係じゃなかっただろ。
「いろいろあったな……町中で戦ったり、宿屋に突撃したり、よく分からない子供に魔物だらけの僻地に飛ばされたりした」
「宿屋に……突撃?」
おっと、レーヴィちゃん。そこだけ切り取るのは違うんじゃないかい?もっと気になる所あったよね?……というかイズモさん、リエをそんな所に飛ばしたのか。よく生きて帰ってきたな、こいつ。
「どういうことですか、ユウ様?」
「こいつが強盗に来たんだよ。俺は市民の義務として、こいつを通報しただけだ」
「…………」
若干怖い目をしていたレーヴィは、俺の一言でなりを潜めた。目の前の人物がシンプル犯罪者だったことに引いているようだ。
「まぁ、結局私は負けたがな。それで兵士に通報されて、数ヶ月間拘置所にいたんだ」
「なるほど……それで、あなた様はここで働いているのですね」
「そのあなた様っていうのは気に入らんな。リエでいい。そこの男も川崎姉、ではなくそれで呼べ」
「じゃあお前もそこの男っていうの止めろよ。俺にはユウって名前があるんだ」
「……分かった。では、話はこれでいいか?明日もバイトなんだ。早く帰らせてくれ」
リエはイライラしたようにそう言うが、俺も、こいつにずっと聞きたかった事があるのだ。俺はリエの方を見て、それを尋ねることにした。
「……そういや、弟の方はどうしたんだ?」
「……っ」
リエは口に運ぼうとしていたポテトを机に取り落とした。すぐにそれを拾い、口に放り込む。俺の問いに、リエは俺から目を逸らしながら答えた。
「……ナギなら、私を置いて何処かに行った」
「……えっ」
衝撃の事実に、俺は固まった。レーヴィはよく分かっていないのか、首を傾げている。
「拘置所から出て、私達の住んでいる宿屋に帰ってきたら……書き置きが置いてあってな。そこには、「リエがいなくて退屈だから、しばらく旅にでま〜す」と書かれていたんだ……!」
リエは涙目になりながらそう言うと、机に突っ伏した。しばらくすると、すすり泣く声が聞こえてくる。やばい、なんか知らんが一番の地雷だったようだ。……しかしなんだろうこの感じ。めちゃくちゃ見たことある光景なんだけど。
「リ、リエ様?どうかなさったんですか?」
「ううっ……ナギぃ……」
「その……なんかごめんな」
「止めてくれ……余計惨めになる……」
リエが机の上ですすり泣いていると、店の奥から誰かが歩いてきた。
「ユウさーん?そろそろ店を閉めるんですけど……おや?」
アオイさんが、リエの方を見て首を傾げた。少し間を置いて、彼女が泣いている事を理解すると、アオイさんは引き気味にこう言った。
「……修羅場?」
「違います!違いますよアオイさん!」
その後、アオイさんの誤解を解くのに三十分かかった。
アオイさんに事情を説明した俺達は、閉店間際にも関わらず店の中にいた。というのも、リエの話にアオイさんが食いついたのだ。
「……なるほど。リエさんの弟さんがいなくなったんですね。可哀想に……まるで私とガルムみたいですね」
「いや、ガルムさんとはたまに会ってるじゃないですか」
「何を言うんですかユウさん。弟とは常時共にいたいものなんですよ?」
さも当然かのようにそう言われてしまい、俺は反応に困ってしまう。まぁ確かに、一緒にいられるなら一緒にの方が良いよな。
「というかお前、そんなに弟の事が大切だったのか?」
「……ああ、そうだ。何せあの可愛さだ。多少のわがままくらいは許してしまうあの抱きしめたくなる暴力的な可愛さ……ナギのおかげで私は頑張れているんだ」
暴力的、というか暴力そのものだと思うんだが。あいつ眼鏡取ったら超怖いし。……というか、リエもアオイさんと同じタイプだったんだなぁ……なんで俺の周りってブラコンしかいないわけ?
「わかります。わかりますよリエさん。私もガルムの事を見ると抱きしめたくなったり、○○○したりしたくなって……」
「ちょっと待ってくださいアオイさん」
ここには十一歳のお嬢様がいるんですよ?何放送禁止レベルの用語をぶち込んでるんですか?……ほら、リエがちょっと引いてるじゃん。
「○○○……とは?」
「レーヴィ、それを公衆の面前で口にしちゃ駄目だ。もちろん、親御さんの前でも」
「そうなのですか?わかりましたわ」
うん、めっちゃびっくりしたわ。この子躊躇いなく言いやがったよ。親御さんに聞かれたら大変なことになるぞ。俺がレーヴィに指摘をしていると、放送禁止用語をぶち込んだアオイさんは、慈しむようにリエの手を取っていた。
「リエさん……あなたの悲しみ、私の心に伝わりました。良ければ一緒に、弟さんを探しませんか?」
「えっ……いいんですか、先輩……」
「もちろんです。ユウさんも手伝ってくれますから」
「えっ」
なんか勝手にメンバーに入れられたんだけど。俺の意思はないんですかアオイさん?……まぁ、暇だし良いんだけどさ。それに、きょうだい関連のトラブルなら、俺も放ってはおけないし。
「ユウ様が手伝うのなら、わたしも手伝いますわ!」
レーヴィが高らかに宣言した。それを見て、リエは少し涙目になっていた。
「ありがとう、二人共……あと、ユウ」
「おいこら」
おまけみたいに言うんじゃねぇよ。
「それじゃあ、リエさんの弟さんを探すために!頑張りましょう!」
「「おー!」」
「おー……」
アオイさんが宣言すると、リエとレーヴィがそれに続く。少し遅れて、俺も続いた。……アオイさんって、普通に良い人なんだよな。異常な程ブラコンな点を除けば。
「おいアオイ!店の片付けサボって何やってんだ!」
「す、すみませーん!」
とか考えていると、アオイさんがアカギさんに怒られて奥に戻っていった。……締まらない人だな。




