第七話 初パーティー
「くそっ、あの女……何故僕に靡かない……!」
翌日、日課の散歩をしていたら、路地裏で茶髪のイケメンを見かけた。しかも荒れている様子。どうしよう、ガルムさん呼んでこようか。あの人めっちゃ強いし。……ていうか、この人見覚えあるな。
「……カブラギ?」
「はっ、君は……!……奇遇じゃないか。僕になにか用かい?」
「別に」
お前に用あるわけ無いじゃん。
「そうか……ならどこかに行ってくれないか。僕は忙しいんだ」
「オッケー」
言葉通りに俺はカブラギの横を通り過ぎる。ある程度距離を取ると、
「何だったんだ……それにしても、あの金髪女、なぜ僕のチートが通じない……」
という言葉が聞こえてきた。その言葉を、俺は脳の片隅に置いておいた。
「おはよう、ユウ」
「おはよう。……お前朝からパンケーキとか、胃が重くならないか?」
いつもの食堂。俺は散歩のあとここに来るのだが、今日は先客がいた。こいつ、本当に行きつけにしようとしてるな。俺の言葉にフラムは呆れた顔をしながら、
「朝からパンケーキを食べるのがいいんじゃない。何故そんな中年男のようなことを言うの?」
とか言ってきた。誰がおじさんか。……弟にもそう言われてたわ。兄さん、本当に16歳?って言われてたわ。
「失礼なやつだな。別にいいだろ」
俺は頼んだサラダとパンを食べる。パンにはジャムみたいなのが塗っていて果実の部分があるのがまたいい。
「なんだか、とても食べざかりの男の子とは思えないメニューね」
「お前のパンケーキ取るぞ」
「駄目よ、これは私の」
そう言って皿を遠ざける。取るわけ無いだろ。俺が食い意地張ってるみたいな反応やめろ。
「それで?クエストにはいついくんだ?」
もう面倒臭いので、本題に入る。フラムはパンケーキを口いっぱいに頬張りながら、
「ほほへ……んぐっ、これを食べたら行くわ」
「えっ早。準備とかしないのか?」
「大丈夫、オーガくらい槍で一発よ」
そう、俺達の受けたクエストはオーガ討伐。日本で言う鬼みたいな見た目をした、人型の魔物だ。
「でも、俺推奨レベル達してないんだぞ。本当に大丈夫なのか?」
「私は余裕で超えてるから大丈夫ね」
無理矢理過ぎるだろ。……まあ、これも経験か。俺はサラダにドレッシングをかけて食べる。それを見てフラムが、
「なんだか草食動物みたい……」
俺は食器片手にフラムに掴みかかった。
「ううっ、怖かった……」
フラムが何故かぐずぐずと泣いている。あの後、騒ぎを聞き付けたアオイさんに怒られたが、後悔は不思議となかった。
「さて、オーガってどこにいるんだ?」
「ううっ、グスッ……」
…………。
「お前、あんなことしたくらいで泣き過ぎだろ。いつも強気なのに」
「だって!まさかユウが私にあんな恐ろしいことをしようとするなんて……」
危うい言い方するなよ。フォークでパンケーキ取ろうとしただけだろが。確かにナイフも構えてたから1歩間違えたら通報されたかもしれないけどさ。
「ほら、そんなのいいからオーガの場所教えろ。俺まだこの辺り詳しくないんだよ」
「切り替えが早すぎると思うのだけれど……オーガならもう見えてるじゃない、あれよ」
?あの木か?でかいなあの木。
「オーガって木で出来てるのか?」
「違うわよ、あれの後ろよ、後ろ」
どれどれ…………なんか赤いのがいるんですけど。それもでかいの。しかも紫の文様がついてるんだけど。戦闘民族?
「おい、あれ絶対やばい奴だろ。二人じゃ無理なやつだろ」
「確かに私の知ってるオーガとはちょっと違うけど、あのサイズなら倒したことあるから余裕よ」
フラグ立てようとしてる?こいつのせいで一気に不安になったんだが。
「よし。行くわ!」
「えっ、ちょっと待てよ!」
俺の叫びも虚しく、フラムはオーガに向かって走っていった。フラムは槍を取り出して構えるとその先端をオーガに突き刺す。
「グアッ!?」
「覚悟しなさい!≪フレイムバスター≫!」
刺したところから炎が出てきて、オーガを包み込む。オーガは苦しそうに体を震わせている。いやこれ、俺いるのか?フラムは槍を引き抜くと、こっちに向かってガッツポーズをする。
「ふふっ、私の勝ちね」
「グアアア!」
油断してるフラムの後ろに、オーガは腕を振るい……
「え?きゃあああ!?」
あわや、オーガの拳が当たるかと思われた、そのとき。
「ぐあっ」
気付けば俺はその攻撃を庇っていた。痛っ!剣を盾にしたのに痛いって、どんだけ馬鹿力なんだよ!オーガの攻撃に俺は吹き飛ばされる。
「ユウ!?」
「油断してんじゃねえよ!早くトドメをさせ!」
痛む腹を押さえながら、そうフラムに叫ぶ。フラムがオーガにもう一度槍を突き刺すと、オーガはうめき声をあげて倒れた。フラムは槍を持ちながら、こっちに駆け寄ってくる。ちょっ、刃物はしまえよ!
「ユウ!?大丈夫!?」
「なんとかな。怪我もないし、剣も無事だし」
あんな一撃を受けたというのに、ひびも入ってない。よほど硬い金属でできてるんだろうな。にしても……
「あのオーガ、思ったよりタフだったな。俺もあれは死んだと思ったのに」
「ええ、私の≪フレイムバスター≫をうけて生きてるなんて始めてみたわ。内臓を焼いてるはずなのに……」
「そんなエグい技だったんか」
こいつを怒らせるのは止めておこう。俺はそう思った。俺は顎に手を当てながら、ふと気になったことを聞く。
「あのオーガ、紫の文様みたいなものがついてたけど、あれは普通なのか?」
「いいえ、オーガは赤一色のはずよ。あんな文様は始めてみたわ」
やっぱりそうか。ギルドの依頼書の絵に文様なんてついてなかったもんな。
「……とりあえず帰ろう。この事をギルドに報告しようぜ」
そう言って、俺達は帰路についた。
「ぐぬぬ……あれは失敗だったか……」
「まぁまぁ、僕からみても彼らは手強かった。あなたの≪作品≫は素晴らしいものですよ」
「そうか。そうじゃろうな!なんてったって儂は天才だからな!」
茶髪の男――カブラギ――に乗せられてドヤ顔をするのは、古風な服装をした紫髪の少女。名をシオンと言う。彼女はカブラギのパーティーに所属している、≪配偶者≫の一人だ。
(なんて単純な女だ。褒めるだけでここまで調子に乗るのだから)
カブラギは自らの持つ、≪チート≫を使い、異性を操る力を手に入れた。外面は人当たりのいい好青年だが、本性は欲にまみれた一人の策士である。
「カブラギ様のためならば、あの程度の魔物は簡単に生み出せる!何故なら儂は天才だから!」
「そうですね、魔族であるシオンさんの力、いつも頼りにしていますよ」
カブラギはそう言うが、その顔は少し引きつっていた。シオンは魔族と呼ばれる種族の者であり、魔族はそれぞれが特殊な能力を持ち、魔物を操るのに長けている。変人だらけの魔族の中で飛び抜けて変わっているのがシオンであった。カブラギは用心棒をさせるために彼女をパーティーに入れたのだが……
(魔物を操る力や創り出す力は魅力的だが、この性格だけは問題だな……)
そこがカブラギの気にする問題点だった。カブラギはチートの力で性格改変もできるので、ある程度は自分好みに出来るのだが、シオンだけは何故か無理だったのだ。
「ふむ、そろそろ魔物の開発をしよう。カブラギ様、また今度来ておくれ!」
「はい、楽しみにしていますね」
カブラギは身を翻してその場をあとにする。カブラギはふと、首から下げたペンダントを見る。これが数日前彼の拾った、≪チート≫だ。
「……僕の野望を叶えるために、もう少し役に立ってくれよ」
カブラギの顔には、歪んだ笑みが浮かんでいた。




