第六十一話 剣は堅く
しばらくして、シェリィさんが戻ってきた。
「お待たせ。触媒に使う剣がなかなか見つからなくて……材料はちゃんと保管してあるから、この剣を使って二日くらいで作っちゃうわね」
「ありがたい。代金はこれくらいで良いか?」
「大丈夫よ。受け取っておくわね」
シェリィさんはシオンから代金の入った袋を受け取ると、何故か俺の方を見る。
「そういえば、あなたは初めて見るけれど……シオンのお友達?」
「はい、そうですけど」
「……面白い形の剣を持っているのね。ちょっと見せてもらってもいいかしら?あ、その間店に並べてある武器とか見てていいから」
俺は素直にシェリィさんに従い、腰に下げていた剣を渡す。これ重いんだよな……身体が軽くなったわ。
「へぇ……ユウさんの剣ってそんな感じなんですね。なんか禍々しいというか……」
「見た目の割に重たいわね。形状も今まで見たことのないものだわ」
アオイさんとシェリィさんが混沌剣を興味深そうに眺めている。……やっぱり禍々しいのか、それ。俺は言われた通りに武器を見ていると、武器の近くに値札のようなものが置かれているのが見えた。
「シオン、ここって武器も売ってるのか?」
「そうじゃな。シェリィ殿が仕事外で作ったものが、格安で売られておる。どれも品質が良くて使いやすいぞ」
「ふーん。じゃあこの人形とかは?」
「それはシェリィ殿の私物じゃの。仕事場に置くと燃えてしまうから、店先に飾っとるらしい」
シオンはそう言いながら、置いてある武器を手に取り、まじまじと眺める。俺はロボットみたいな形の人形から目を逸らし、武器を眺めることにした。見た目はどれも違うが、値段は皆同じくらいであった。手に取ってみると、軽すぎることも重すぎることもなく、手に収まるような安定感があった。
「いいな、これ。俺買ってみようかな……」
「武具を増やすのか?良いとは思うが、ユウの体力では……」
「おい」
どんだけ虚弱だと思われているのだろう。それなりに力はあるんだぞ。あの剣を使い始めてからだいぶ力がついたからな。あれ重いし。
「剣一本だけだと戦いにくいだろ。魔法だって弱いのしか使えないし、剣を奪われたら終わりだぞ?」
「……なるほど、それなら短いナイフを持っていたら良いと思うぞ。お主では剣二本では戦えないじゃろう?」
「……まぁ、確かに」
シオンのアドバイスに俺は手に持っていた剣を置いた。ナイフか……良さそうではあるが、俺の戦闘スタイルが暗殺者みたいになりそうだな。ただでさえ状態異常付与なんて陰湿な戦い方なのに。
「お待たせ。剣、返すわね」
「あ、どうも」
武器を眺めていると、後ろからシェリィさんに声をかけられた。手に持っていた剣を返してもらい、剣を鞘にしまう。
「とても参考になったわ。見せてくれてありがとう」
「いえいえ、役に立てたなら良かったです」
面と向かって礼を言われたので、俺も丁寧な言葉で返す。初対面の人に剣を見せただけでお礼を言われるとは。ちょっと緊張した。
「そういえば、あなたの名前は……」
「ユウって言います」
「ユウね。あなたは普段、どんな戦い方をしているの?」
「普段……この剣で状態異常を付与したり、普通に切ったり……それくらいです」
「なるほど……やっぱりその剣は、そうやって使うのね。どうやって手に入れたの?」
「えっと……それはですね……」
……どうしよう。天使に貰ったと言うべきなのか?今までの感じからして、嘘だと疑われることはないだろうが……
「ふーん。やっぱり、天使からの贈り物なのね」
「……!?」
ドキッとした。心を読まれたというレベルではない。そっくりそのままである。俺が驚いた顔をしていると、シェリィさんは面白そうに笑った。
「わたし、ちょっと勘がいいの。それに、そんな戦い方が出来る武器なんて、人間にはまだ作れないわ」
「えっ、そうなんですか?ユウさんって天使の推薦者だったんですね……なんだか意外です」
……その意外とはどういう意味だろうか?やっぱり弱いってこと?……それにしても、天使の存在って皆知ってるんだな。もしかしたらこの世界にミリアさんみたいな人がいたりするのかもしれない。
「天使って、皆知ってるんですか?」
「まぁ、そうですね。ギルドとかには、天使と連絡が取れる人もいるみたいですし……天使が実際に存在する町もあるらしいですから」
「天使や神を崇める宗教もあるし、それなりに地位もあったりするのよ。冒険者ギルドに推薦が出来るくらいには凄い存在ね」
俺の疑問に、アオイさんとシェリィさんが答える。天使ってそんな感じなのか。身近なのか遠い存在なのかよく分からないが……取り敢えず、馴染みのないものということはなさそうだ。閑話休題。
「それで、それがどうかしたんですか?」
「その剣、まだ強力な力を秘めているみたいなの。鑑定魔法を使ってみたけど、今その剣の持つ力はほんの一部。全体の三割くらいかしら」
半分くらいはわたしの予想なんだけど、とシェリィさんは付け加えた。……嘘だろ、この剣まだなんかあるの?やっぱりこの剣使うのやめようかな……もうこれ以上トラブルが起こるのは嫌なんだけど。
「まぁ、わたしが言いたいことは……その剣には気をつけたほうがいいってことよ。得体の知れない力には、リスクが伴うからね」
シェリィさんはそう言って、何処か遠い目をしていた。
「……あの、すみません」
用事が終わり、店を後にしようとしていた時。俺はさっきの茶髪の少女に声をかけられた。そういえば、この人誰なんだろう。シェリィさんの妹とか?
「あら、エメルナ?どうかしたの?」
シェリィさんが不思議そうに首を傾げた。どうやらこの人はエメルナというそうだ。背丈は俺より少し低いくらいで首まで伸びている茶髪に、綺麗な緑色の瞳をしていた。
「あ、さっきのお茶をくれた子じゃないですか。そういえばこの子誰なんですか?」
「この子はエメルナ。去年くらいに孤児院から引き取ったのよ。戸籍上は私の娘ってことになってるわ」
「へー……あ、こんにちはエメルナちゃん。私、シェリィちゃんの友達のアオイと言います」
「こ、こんにちは……」
「それで、どうしたのエメルナ。何か用かしら?」
「えっと、そこの男の人に……」
「ユウに?どうしてユウを……あっ」
エメルナさんの言葉に、シェリィさんは何かを察したように言葉を止めた。そして何やら笑みを浮かべると、アオイとシオンの肩を掴んだ。
「二人とも、ちょっと奥に来てくれる?シオンに造る武器について意見が欲しいの」
「……そうなのか?意見が欲しいならここで話しても……」
「ありがとう二人共!さぁ行きましょうか!」
「えっ、待ってください、私もエメルナちゃんと話がしたいんですけど……」
二人は無理やりシェリィさんに連れて行かれた。何故だろう、今凄い誤解が生じた気がするんだが。……まぁ、気のせいだろう。
「えっと、エメルナ、さん?」
「……エメルナで構いません。たぶん、私の方が年下なので……」
「あ、そう?それで、俺に用っていうのは?」
単刀直入に聞くと、エメルナは俺の方をじっと見つめてくる。……え、何?なんか付いてる?そんな事を考えながら、しばらく見つめあっていると。
「……あの、あなた……ユウさんは、私の顔を見たことがありませんか?」
「え?」
……見たことがあるも何も、初対面のはずだが。いや、小原みたいに元の世界で面識があったとか……?うん、ないな。
「いや、ないけど……」
「そうですか……」
「なんでそんな事聞くんだ?エメルナとは初対面だろ?」
俺がそう聞くと、エメルナは何故か悲しそうに俯いた。えっ何?地雷踏んだ?
「……実は、私には家族がいたんです。あなたみたいな顔つきの、大切な家族が」
「…………」
いた、というのは、彼女が孤児だったからだろう。孤児院とか言ってたし、親やきょうだいを失っていてもおかしくない。……俺に似ているというのはよくわからんが。
「だから、あなたを見ていると……その家族を思い出すんです。まるで、家族に再会したみたいで」
「……そうか」
「……変ですよね。初対面で、こんな事を言うなんて」
「いや、別にいいけど……」
家族、か。俺にとっての家族はユウとサオリだが、そういえば俺にも本当の両親がいたんだったな……今は何処で何してるのか分からないが。まぁともかく、家族に似ていると言われて、悪い気はしなかった。変な人だなとは思うが。
「……あの、もし良ければ、また私と会ってくれませんか?」
「まぁ、俺で良ければ……」
「あ、ありがとうございます」
こうして、俺はエメルナとよく分からない約束をしたのだった。
帰りの馬車の中、俺は二人に質問攻めにされていた。
「それで?エメルナちゃんと何を話してたんですか?」
「何もないですって。おすすめの武器を教えられただけですよ」
「いやいや、シェリィ殿は色恋の類だと言っておったぞ。男女が話したいことと言えば、それに違いないと」
シオンとアオイさんは目を輝かせてこちらを見ている。……どうやら、シェリィさんは変な誤解をしていたようだ。やっぱり、女の人って色恋沙汰が好きなのだろうか。会話の内容的に色恋の欠片も無かったが。重い話を聞かされただけなんだけど。
「ほんとにおすすめの武器を聞いてただけだぞ。ほら、このナイフとか」
あの後、武器を買うという目的を思い出した俺は、エメルナにおすすめの武器を聞いたのだ。それがシオンと話していたナイフのような武器だったので、俺は購入を決めた。銀色の刀身に黒い柄で出来たナイフであり、見た目より軽いので、結構気に入っている。
「なんじゃ、ほんとに武器の話をしてたんじゃな……」
「なんか普通ですね」
シオンはがっかりしたように肩を落とす。あとアオイさん、呆れたような眼差しを止めてください。
「へー……綺麗なナイフですね。流石シェリィちゃんです」
「造形がしっかりしとるな。さらに重量も少ない……これが普通のナイフと同じ素材を使っているとは思えんのう」
俺の話に興味を失った二人は、いつの間にか俺から奪ったナイフを眺めていた。なんだろう、なんか複雑な気分だ。
「はぁ……」
来たときと同じように、俺は馬車に背を預け、そっと目を閉じた。




