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第六十話 鍛冶師


あの夜から数日。俺はいつも通り冒険者として生活していた。もちろんただのんびりと生活しているわけではない。ユウ達に与えられた()。そして、俺がどのように生きるのかということだ。後者はなんとも哲学的だが、いつか答えを出すつもりだ。それよりも問題なのが、ユウ達の罰のことだ。無理やりこちらの世界にきてしまった罰として、あちらの世界の()()()()()()()が、全て消されてしまったのだそうな。罰を執行したスレイプニールという男は、ユウがもう一度無理やりこちらに来るような事がなければ、罰が消える可能性があると言っていた。……よく考えてみれば、俺に出来ることなくね?そもそも罰が実際に執行されているのかも確認できないし、執行されていたとしても、俺がそれを消すことなど不可能だ。複雑だが、これは放置ということになる。

「ユウさーん、そろそろ着きますよー」

「起きろ。もうすぐじゃぞ」

結局いつも通り過ごすことになるのだが……まぁ別に悪いことではない。ユウ達の事は気にかかるが、目の前の出来事に集中しなければ……

「めっちゃぼんやりしてますね。氷でも当てます?」

「ちょっと待っとれ。えい」

「痛っ!?」

手の甲を強く叩かれ、思わず声をあげる。俺を叩いたであろう人物――シオンの方を向くと、何故か目を逸らしていた。

「おい、今叩いたのシオンだろ」

「き、気のせいじゃろう。虫にでも刺されたんじゃないか?」

「アオイさんどうなんですか?」

「シオンさんが叩きました」

「ちょ!?アオイ!?」

アオイさんの裏切りに狼狽えるシオン。うん、相変わらず嘘下手だなこいつ。

「…………」

「な、なんじゃその残念なものを見るような目は!だいたい、お主が儂らを無視してぼーっとしとるからじゃろうが!」

……あれ、そんな事してたのか。じゃあ俺も悪……いや、ちょっと待って。

「確かに、俺も悪かったけどさ。お前一体何を使って俺を叩いた?手とかで叩いたにしては痛すぎるぞ?」

「剣の柄」

「待てやコラ」

硬いとこに硬い物ぶつけるなよ。腕折れるかと思ったわ。俺がシオンを睨んでいると、アオイさんが間に入ってきた。

「まぁまぁ、馬車の中ですしそれくらいで。どっちもどっちということで、ここは収めませんか?」

「……そうですね。止めるか、シオン」

「……そ、そうじゃな。不毛な争いは好まんからの」

俺達は揃ってそう言った。……断じて、アオイさんの笑顔がなんか怖い感じだからではない。俺達は争いを好まないものであるからして(以下略)


馬車を降り、俺達は隣町にあるとある鍛冶屋を目指して歩いていた。なんでもシオンの知り合いがいるらしく、その人はこのあたりで一番の腕を持つ有名な鍛冶師なのだとか。シオンが剣を新たに作ってもらいたいとのことで、その付き添いとして俺が来た。まぁ、いい加減剣一本で戦うのは無理だと感じてきたので、新しい武具を作ってもらいたいというのもある。

「……アオイさん、なんか楽しそうですね」

「そりゃそうですよ。久しぶりに友達に会えるんですから」

アオイさんはそう言って、鼻歌を歌いながら俺の前を歩く。いつもの店でシオンと鍛冶屋の話をしている時、「そこ、私の友達が経営してるところです」と言って会話に入ってきた。久しぶりに友達に会いたいと言って、俺達についてくることになった。ちなみにフラムも誘ったのだが、ちょっと予定が合わないと言って断られた。武具が好きだからか、断るときにめっちゃ悔しそうにしていた。

「店、大丈夫なんですか?今日は休みじゃないんですよね?」

「エイカさんを臨時で雇いました。兄さんもいますし、大丈夫ですよ」

小原に頼んだのか。……何故だろう、なんだか凄く嫌な予感がするのだが……ま、まぁ大丈夫だろう。うん。俺はアオイさんから目を逸らし、隣を歩くシオンの方を向く。

「なぁ、鍛冶屋にはあとどれくらいで着くんだ?」

「もう少しじゃ。あそこは町の奥の方にあるからの」

「そうなのか…………もしかしてあれか?」

俺の目線の先にある大量の武具が外に置いてある建物を指差す。建物の煙突らしいところから煙が出ていて、いかにも鍛冶屋というような建物だった。

「そうそう、あれじゃあれ」

「わぁ、前より大きくなってますね。シェリィちゃん、稼いでるんですね……」

アオイさんが関心したように頷いている。確かこの人は日頃売り上げが少ないとか言ってたな……たまには高いメニューでも頼もう。そんな事を考えてるうちに、鍛冶屋の前に着いた。

「おーい、シェリィ殿ー」

「あら、その声はシオンね。ドア開いてるから、入って来なさいな」

シオンが店に向かって呼びかけると、中から女性の声が聞こえてきた。シオンは言葉の通りドアを開け、中に入る。次いでアオイさん、俺の順に店に入った。

「いらっしゃい、椅子があるから適当に座っていて」

そう言って俺達を出迎えてくれたのは、綺麗な青髪と赤い瞳を持つ女性だった。その人はアオイさんの方を見ると、驚いたような表情をした。

「あ、アオイ?何であなたがここに……」

「シェリィちゃん、お久しぶりです。二年ぶりで――」

「あなた、武者修行の旅に出たんじゃなかったの?「私が倒せない魔物を探しに旅に出る」とか言って、二年前にイチの町を出たって聞いたけど」

「な!?何でそれを……!?」

「鍛冶師仲間が教えてくれたの。あれから丁度二年経つけど、もう帰って来てたのね」

「そ、そうですね……」

見ると、アオイさんが顔を真っ赤にして目の前の女性――シェリィさんから目を逸らしている。……武者修行してたとか、アオイさんから聞いたことないんだけど。

「アオイさん、修行とかしてたんですね?」

「え、えーと……若気の至りと言いますか、溢れ出る向上心と言いますか……」

「そうなのか?二年前は店の開店で忙しかったと……」

「ちょっとシオンさん、その話は止めましょうか!」

アオイさんはシオンと俺の腕を掴み、店の角に連れてきた。

(……当時ちょっと自分に酔ってて、そういう感じのことを言ってしまったんです。シェリィちゃんにバレると恥ずかしいので、黙っていてくれませんか?)

(ああ、なるほど……大丈夫ですよ、口は固いんで)

(わ、分かったのじゃ)

アオイさんは俺達を離すと、シェリィさんの方を向く。シェリィさんは首を傾げていた。

「どうしたの?急にヒソヒソ話したりして」

「な、なんでもないですよ!そんな事よりシオンさん、シェリィちゃんに用があるんですよね!?」

「う、うむ。シェリィ殿に新しい剣を作って欲しいのじゃが……」

「あら、そうなの?シオンには前も作ったはずだけれど……」

「そうなんじゃが、やはり一本だと感覚が狂うんじゃ。儂はもともと二刀流じゃからな」

「なるほどね。じゃあ前貰った素材が少し余ってるから、それで作りましょうか。あ、お茶を淹れてきて貰うから、楽にしておいて」

シェリィさんはそう言って、一度奥に戻っていった。というか、シオンって剣二刀流で使えるんだな。なのに何故体力は無いのだろう。

「……何か失礼な事を考えておらんか?」

「いや、別に」

なんで心が読めるんだよ……俺は訝しげな目を向けてくるシオンから目を逸らし、壁際に置いてある椅子に座る。アオイさんも隣の椅子に座り、シオンはアオイさんの隣の椅子に座った。

「……おっ、あの槍見てみろよシオン。変わった形してるぞ」

「あれは投擲用の槍じゃろうな。投げて魔物や動物に当てるんじゃ。刺さったらそれなりに効果があるぞ」

「ふーん、あの剣は?」

「……≪サンダー≫の魔法が込められた剣じゃな。あの剣を振って、雷を呼ぶんじゃ」

「凄いな。ちなみに俺でも使えるのか?」

「えっと、魔法武器は所持している人の魔力を使うので……ユウさんでは、あまり威力が出ないと思います」

「えっ」

アオイさんから衝撃の事実を告げられ、思わず固まってしまう。……どうせ貧弱ですよ俺は。こんな風に話をしながらシェリィさんを待っていると、店の奥から茶髪の少女が出てきた。

「いらっしゃいませ……お茶を淹れてきました」

「おお、わざわざすまんの」

どうやら先程言っていたお茶を運んできてくれたようだ。シオンがお盆からお茶の入ったコップを一つ取り、アオイさんは二つ取って、一つを俺に渡してくれた。

「ありがとうございます。ほら、ユウさん」

「どうも……ってあっつ!?何でアオイさん素手で持ててるんですか!」

「す、すみません」

茶髪の少女が頭を下げる。俺は尋常ではない熱さのお茶をアオイさんに返し、手に息を吹きかけて冷まそうと試みる。

「…………?」

うん、無理だな。お茶出してくれた人も首傾げてるし、これ以上は止めよう。

「…………」

あれ、なんかめっちゃ見てくるんですけど。というか睨んできているような……ちょっと怖い。

「あの、なんでしょうか」

「……ハッ!?いえ、なんでもありません!」

茶髪の少女はそう言うと、奥の方に戻っていった。一体なんだったのだろうか。

「あ、アオイさん。さっき渡したお茶……」

「え、なんですか?」

アオイさんの方を見ると、既に空になっているコップを二つ持ち、きょとんとした顔をしていた。……どうやら俺のお茶は無くなったらしい。



 






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