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第五十六話 彼の闇



翌朝。フラム達はユウを元に戻す方法を探すため、ギルドに連れてきた。

「あっ、フラムさん!おはようございます!」

「おはよう、エイカ。今日も早いわね」

フラムはギルドにいたエイカに挨拶した。珍しく眼鏡をかけている彼女は、フラムの元に駆け寄ってくる。

「はい!クエストを受けるのが日課なので!……あれ?フラムさん、そちらの子は?」

エイカはシオンの後ろに隠れているユウを指す。大人に警戒心を抱く彼にとって、元気の塊であるエイカは刺激が強かったのかもしれない。

「……この子はユウよ。訳あってこんな姿になっちゃって……」

「え?ユーさんなんですか?……言われてみれば、ちょっと面影があるような……」

エイカがユウを見つめると、ユウはさらに身を隠してしまう。エイカを睨んでいる様子から、ユウはエイカの事は覚えていないようだ。

「ユウ、この人はエイカよ。あなたの友達でしょう?」

「しらない。おれにともだちはいない」

切ない事を宣言するユウに、エイカは悲しそうな表情になる。彼女はユウにそーっと近づくと、視線を合わせるために屈み込んだ。

「私、小原エイカっていうの。よろしくね」

「?な、なんだよきゅうに」

「ほら、たまたま見つけた綺麗な石!これあげるよ」

「あ、ありがとう……?」

ユウは首を傾げた。エイカはニコニコとしながら石を手渡す。

「綺麗でしょ、それ。光を当てたら光るんだよ」

「すご!?ほかには?ほかにはある!?」

「んー、あとは私の腕輪しかないかな。これ、変身出来るんだよ」

「すげー!」

ユウは目を輝かせて、エイカの腕輪を見る。……シオンの時といい、ユウはどうやら珍しい物が好きらしい。

「……誰、あの人」

声のした方を見ると、サオリが訝しげな表情で――人見知りのためだ――エイカを見つめていた。すると、サオリに気づいたエイカがこちらへ歩いてきた。

「あなた、はじめましてだよね?私、小原エイカっていうの。よろしくね」

「……谷口、サオリ。よろしく」

「谷口……ひょっとして、ユーさんの妹さん?」

エイカの言葉にビクッとするサオリ。その反応で正解だと判断したのか、エイカは思わずサオリの方を見つめる。

「ユーさんに、こんな可愛い妹がいたなんて……」

「お兄ちゃんのこと、知ってるの?」

「うん。昔からの友達だよ。私も元の世界で死んじゃってさ、この世界でユーさんに再会出来たんだ」

そう言って笑いかけるエイカ。サオリを見つめながら、エイカは話を続ける。

「私はサオリちゃんの事、ちょっと知ってたんだよ?ユーさんがよく、サオリちゃんの事を自慢してたんだ。とっても頭のいい可愛い妹がいるんだっていつも言ってた」

「そ、そんな……照れる」

サオリは顔を赤くし、もじもじと身体を縮こまらせる。エイカはそれを見ながら、笑顔で話を続ける。そんな二人を、フラムとシオンは遠巻きに見ていた。

「一瞬でユウだけでなく、サオリちゃんとも距離を縮めるなんて……凄いわね、エイカ」

「そうじゃな。儂は集落で子供の扱いに慣れていただけじゃが、エイカは二人の好む話題を見極め、一瞬で距離を縮めたのじゃろう」

「……ユウはともかく、なんで初対面でサオリちゃんの好みを把握できたの?」

……エイカがユウの話を事細かく覚えており、彼に関する事を全て記録しているからだが、フラムには知る由もなかった。


「……情報は、特になかったわね」

人を小さくする魔物がいるかと、受付の人に聞いてみたけれど……特にそんな情報はなかった。

「やっぱり、自分達で探さないと駄目?」

サオリちゃんが首を傾げながらそう言ってくる。――サオリちゃんが教えてくれた、黒尽くめの怪しい奴。サオリちゃんによると、そいつの放った光でユウは小さくなってしまったらしい。魔物ではないだろうかとも考えたが、受付の人はそれを否定した。

「……サオリちゃん、そいつの特徴を教えてほしいの。見つかるか分からないけれど、私達で探すしかないわ」

私がそう言うと、サオリちゃんは不安そうな顔をした。……確かに、襲われた奴を自分で探すなんて怖いわよね。

「大丈夫だよサオリちゃん!いざとなったら、私が守るから!」

ぐっと拳を握りしめるエイカ。それを見て、サオリちゃんは安心したように笑顔になった。恐るべし、エイカの実力。

「分かった。じゃあ、そいつの特徴を教える」

サオリちゃんはそう言って、私達に黒尽くめの怪しい奴の特徴を教えてくれた。サオリちゃんによると、黒い角と羽を持ち、怪しげな仮面をしている奴だったらしい。……聞くからに怪しい奴ね。

「よし、そいつを探しましょう。私達なら、すぐに見つかるわ」

私の言葉に、皆は頷いた。


「……いないわね」

町の中や、サオリちゃんのいた場所。手分けして他にもいろんな所を探したが、サオリちゃんの言う怪しい奴は見つからなかった。

「やっぱり、何も手がかりがないのは厳しいんじゃないですか?町だってかなり広いですし、黒尽くめの奴を探すのは無茶なんじゃ……」

……エイカが言う事は正しい。何人もの人が行き交い、集まる所からたった一人の怪しい奴を見つけるのは困難だろう。手がかりだって、怪しい奴の特徴しか知らないのだ。

「でも、そいつを見つけないと、ユウはずっとあの姿のままよ。それだとユウが困るでしょう?」

「私は正直、あの姿でもいいと思いますけど……目が死んでますけど、可愛いじゃないですか」

……確かに。い、いやいや、揺らいでは駄目よフラム。今のユウには避けられているし、会話も出来ないわ。早く元に戻さないと……

「おい」

「!?」

後ろから声を掛けられて、ビクッと身体が震えた。振り返ってみると、いつの間にかユウがそこにいた。ユウは不機嫌そうに私を睨む。

「さっきからユウ、ユウって……おれはそんななまえじゃないぞ。おれには――――ってなまえがあるんだ」

「…………」

……そういえば、ユウというのは偽名だった。彼が自分で言っていたじゃないか。こうして彼の本当の名前を聞くと、彼が別の世界から来たということを実感させられる。

「ご、ごめんなさい。でも、私はあなたをユウと呼んでいたから……」

「そうなのか?……へんなの。もとのなまえとぜんぜんちがうのに」

ユウは不思議そうに首を傾げる。――その瞳は黒く濁っており、強い警戒心を宿していた。……思えば、彼は一体どういう幼少期を過ごしていたのだろう。サオリちゃんの話によると、ユウに出会ったのは彼が三歳の時らしい。……彼は三歳の時、一体どういう環境にいたのだろう。両親はいないと言っていたし、こんな風にずっと警戒心を抱きながら、一人で生きてきたのだろうか。……だとしたら、なんて酷い話だ。

「……なんだよ、おれのかおをじっとみつめて。なんかついてるのか?」

強気な態度でそう言う彼の瞳は、不安そうに揺れていた。きっと、見知らぬ地に来て、精一杯虚勢を張っているのだろう。なんとなくだが、そう感じた。

「いいえ、なんでもないわ」

私は彼にそう告げると、皆の方を見る。

「皆、少し休憩しましょう。そして、作戦を立て直して……」

「フラムさん!後ろ!」

エイカの叫びに、慌てて後ろの方を見る。――そこにいたのは、一言で表すと怪物だった。禍々しい黒い角に翼、そして怪しさを助長するような異形の仮面。――例の黒尽くめの怪しい奴が、そこに立っていた。怪物は私達には目もくれず、ユウの方を見ていた。怪物に見つめられて恐怖を感じたのか、ユウの顔色が青くなる。

「ユウ!」

私は槍を構えると、怪物に斬りかかる。しかし、怪物は剣で槍を受け流し、こっちに斬撃を放ってきた。まともに食らってしまい、私はその場を転がる。

「≪オニキスブレイク≫!」

エイカも怪物に蹴りをかまそうとするが、簡単に避けられてしまう。怪物は怯えるユウに近づくと、彼の方へ手を伸ばし……

「お兄ちゃんに近づかないで!」

突然現れたサオリちゃんの体当たりで地面を転がった。その隙にシオンがユウの前に立ちはだかり、剣を構える。

「姿を現しおったな、怪物め!子供を攫おうとする輩など、儂の剣の錆にしてくれるわ!」

シオンが力強くそう言うと、怪物は立ち上がる。サオリちゃんの体当たりの衝撃か、仮面にはひびが入っていた。怪物は剣を持っていない方の手で指を鳴らした。――瞬間、私達のいる場所が変わった。いつかの火山に似たその場所には、私達四人とユウ、そして怪物だけがいた。私はなんとか立ち上がると、怪物の方を睨む。

「あなたが、ユウをこんな姿にした奴ね……!悪いけど、彼をもとの姿に戻してもらうわ!」

私は槍を構え、敵の動向を伺う。すると、怪物は何を思ったのか、仮面を投げ捨てた。癇癪でも起こしたのだろうか?ともかく、これで奴の素顔が……

「……え?」

「ど、どうしたんですかフラムさん。そんな驚いたような顔をして」

「嘘じゃろ……?」

「シオンさんまで……あの人、知ってる人なんですか?」

ちらりとサオリちゃんの方を見てみると、彼女は口を開いたまま固まっていた。私とシオンと同じように、とても驚いているのだろう。何故なら――

「ユウの……弟君……!?」

怪物の顔は、ユウの弟君にそっくりだったのだ。







 

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