第五十五話 姿違えど兄
――光が収まり、辺りの視界が明瞭になっていく。兄の後ろに身を隠していたサオリは恐る恐る謎の者がいた所を見た。すると、謎の者の姿がどこかに消えていた。辺りを見渡して見ても、何か怪しい人物がいる様子はない。どうやら助かったようだ。
(なんだったんだろう……)
サオリは首を傾げた。この世界で目を覚ました時に出会った謎の黒尽くめの者。彼または彼女はサオリを見つけると、剣を構えてにじり寄って来たのだ。当然サオリは走って逃げ回った。そして兄に出会い、助けを求めた。
(……あっ)
そうだ。兄。自分の大好きな兄は大丈夫だろうか。サオリはすぐそばにいた兄の方を見た。光が当たっていただけだが、何か害のある光かもしれない。サオリは思わず声をあげていた。
「お兄ちゃん!大丈夫……!?」
返事はない。というか、あの光のせいで目がチカチカして、視界が少し悪い。サオリは目をこすって兄の方を見つめるが、陽炎のようになっていてよく見えない。やがて、視界がはっきりとしていくと、兄の背中姿が見えるようになった。サオリは再び声をあげ、兄に駆け寄る。
「お兄ちゃん!」
「…………」
しかし、兄からの返事はない。サオリは兄の肩を掴むと、身体を揺さぶった。
「お兄ちゃん!しっかりして!」
身体を揺さぶりながら、サオリは少し違和感を感じた。その、いつにもまして、兄の身体が華奢というか……そんな事を思っていると、声が聞こえた。
「……だれ、あんた」
どこからか聞こえた高い声に、サオリは辺りを見渡す。どれだけ辺りを見渡しても声の主は見当たらない。すると、サオリの手が払い除けられた。サオリは目の前の兄の方を見る。――先程より明瞭になったサオリの視界には、どこか見覚えのある少年が立っているのが見えた。
「さわるな。おれはおとながきらいなんだ」
無感情な瞳。ぼさぼさの黒髪にサオリの腰までの身長。そして、薄汚れた服。その全てに、サオリは見覚えがあった。
「……お兄ちゃん?」
――そこにいたのは、サオリが初めて出会った時の兄だった。
「ここ、どこだ?おれをつれもどしにきたのか?」
「……えっと、その」
兄の言葉に、サオリはぎこちない返しをする。兄の瞳には一切感情がなく、いつも優しい兄とは大違いだった。
(――小さいお兄ちゃん、可愛い……!)
ただ、兄愛好家であるサオリには微塵も気にした様子はなかった。むしろご褒美だと思っていた。ぎこちない返しも、兄の可愛さを受け止めきれていないだけである。
「な、撫でても……いい?」
「いやだ。めがこわい」
「こわっ!?」
サオリは酷くショックを受けた様子で膝をつき、地面に手をついた。子供の純粋な一言が心に来たのか、サオリは悔しそうに震えていた。
(お兄ちゃんに怖いって言われるなんて…………ショック)
サオリは追加ダメージを受けていた。兄から悪口を言われたことはなかったので、それがサオリにクリティカルヒットしてしまったのだ。
「ううっ……怖い……私、怖い……」
「ど、どうしたんだよ?からだがふるえてるぞ?」
兄が心配そうに覗き込んできた。しかし、サオリはショックを受けた様子で震えるばかりである。――混沌とした状況の中に、通りかかる人影があった。
「……サオリちゃん?えっ、サオリちゃんよね……?」
サオリが声のした方に顔を向けると、そこには不思議そうな顔をしたフラムがいた。
サオリちゃんを見つけた私は、取り敢えず食堂まで連れて行くことにした。一緒にいた少年は……何故かとても警戒されてしまったが、なんとかして食堂に連れてきた。
「……久しぶりね、サオリちゃん。会えてうれしいわ」
「私も。会えてうれしい」
サオリちゃんは私の奢りのパンケーキをむしゃむしゃと食べている。再会した時は地面に手をついて泣いていたのだが、元気が出たようで良かった。
「それで、一体何があったの?」
私がそう聞くと、サオリちゃんはかいつまんで説明してくれた。目が覚めたら知らない所にいて、黒尽くめの者に襲われたこと。黒尽くめの者が光を放ち、ユウを小さくしてしまった、と。……いや、どういうこと?
私はなんとなく、シオンと遊んでいる少年――ユウに目を向ける。
「ほれ、三秒数えたら、カードが一枚から七枚になるぞー」
「すげー!どうやってるんだ!?」
「それは秘密じゃ。儂の技を簡単に明かすわけにはいかん」
「「…………」」
ユウは目は死んだままだが、シオンのカードさばきで笑顔となり、テンションが明らかに先程とは違う。サオリちゃんと再会した時に、シオンにも会わせようと彼女を呼んだのだが……呼んで正解だった。サオリちゃんと私では小さいユウを陥落出来なかっただろう。かなり警戒されていたし、下手をすれば逃げられていたかもしれない。閑話休題。
「あの子、本当にユウなの?」
「間違いない。あの顔はどう見てもお兄ちゃん。出会った頃のお兄ちゃんにそっくり」
サオリちゃんは鼻息荒くそう言った。何故興奮しているのかは分からないが、妹であるサオリちゃんが言うのだからそうなのだろう。……こうしてユウを見てみると、ちょっと可愛いかも……コホン。
「とにかく、ユウをどうにかしないと。あのままだとクエストも受けれないわ」
「うん。小さいのも可愛いけど、私は優しいお兄ちゃんに会いたい」
サオリちゃんが若干ずれたことを言っているが、とにかく目的は一致したようだ。私達は再び、ユウの方を見る。
「あー!負けたのじゃー!」
「ねえちゃん、トランプよわいな!」
「ぐぬぬぬぬ……次はポーカーじゃ!」
「「…………」」
シオンとユウはどうやら、ずっとカードゲームをしているようだ。先程の手品はやめたらしい。……なんだかシオンが涙目になっている気がするが、気のせいだろうか。
「おれのかちだ!」
「ぐぬぬぬ……!」
またもや負けたシオンが悔しそうに身体を震わせている。私とサオリちゃんは呆れた様子で二人を見るのだった。




