第六話 高飛車なあいつ
「いた!ユウ!」
朝から俺を呼ぶ大きな声が聞こえた気がする。うん、気のせいだろう。ちょっと疲れているのかもしれん。野菜でも頼もうかな。ビタミンで回復しよう。そう考えながらアオイさんにサラダを頼み、俺はパスタみたいなやつを食べる。美味い。
「すみません、パンケーキを一つ頂けるかしら」
こいつ目の前に座りやがった。いやいや気にするな、関わってはいけない。俺は鋼の心でパスタを食べる。やがて、アオイさんがパンケーキとサラダを持ってきて、「あれ?お連れさんですか?」と聞かれたので「違います」と答えておいた。当然首を傾げられたので「気にしないで下さい」と言っておいた。俺は机に向き直りサラダを食べる。美味い。
「うわっ、ここのパンケーキ美味しいわね……!こんなところにこんな店があったなんて……」
あれ?今この野菜動かなかった?確かに新鮮なサラダ頼んだけど、そこまでは求めてないよ?
「……ねぇ、さっきから何で無視するのかしら。私じゃなくてサラダに目を向けてるのが腹立つわね」
「……うわ!?マンドラゴラ!?ちょっとアオイさーん!サラダにマンドラゴラが入ってたんですけど!」
「えっ!?すいません!≪レーザー≫!」
アオイの魔法でマンドラゴラが貫かれる。こ、怖ぁ……死ぬかと思った……マンドラゴラはよく見られる植物系魔物で、その叫び声を聞くと自我を失うのだとか。アオイさんはマンドラゴラを回収すると、それを持ってキッチンへ向かった。危ないのできちんと処理するらしい。
「ふう……びっくりした……」
「……ねぇ」
少しビクッとした。地を這うような低い声が前から聞こえた気がする。恐る恐るそちらを見ると、鬼の形相をしたフラムがいた。……やっぱり声かけないと駄目か。無視は諦めて声をかけることにする。
「なんだよ、俺は朝飯で忙しいから用事は聞かないぞ」
「あなた、最初にかける言葉がそれなの?無視して申し訳ないとか思わないの?」
「思わない。母さんがだる絡みするやつは無視しろって言ってたから、俺はそれを守ってるだけだ」
「あなたのお母様、どういう教育してるのよ……」
確かに。それに俺じゃなくて弟に言った言葉だ。それは逆効果ではないかと聞いてて思った。俺の言葉にフラムはため息をつきながら、
「はあ……朝からこんなに疲れるとは思わなかったわ。……んぐっ、このパンケーキほんとに美味しいわね……」
「だろ。店長の自信作らしいからな」
「ここならお代もお手軽だし、ここに通おうかしら……」
やめてほしい。俺も気に入ってる店なのに、お前がいたら気まずいんだけど。俺が嫌そうな顔をしていると、フラムはこちらを見ながら、
「ところで、この前の話は考えてくれた?」
「考えたもどうも、断った訳だが」
「か・ん・が・え・て・く・れ・た?」
その言い方怖い。もしかしてこいつなかったことにする気なのか。俺は小さくため息を吐くと、
「お前といると、カブラギとかいうやつに巻き込まれそうだからやだ」
「なっ!?そんな理由!?ちょっと待って、カブラギを締めてくるから!」
止めろよ、もっとややこしくなるだろ。……俺はフラムをなだめて落ち着かせた。
「……どうしてそんなに俺に執着するんだ。俺は何でもない冒険者だぞ。別にレベルも高くないし」
俺がそう言うと、フラムは真剣な様子で話し出す。
「今までの私は、家柄ばかり気にして、ただ上に立つことだけ考えてた。でもあなたのおかげでそれは間違いだって気付いたの」
……一応、俺の言葉が効いたということか。
「だから、私は自分の正しさを見つけたい。そのためにはあなたが必要なのよ。私の見方を変えたあなたが……」
え?俺が……必要?
≪あなたはもう必要ない!私には――がいるの!≫
……そんなこと、始めて言われたわ。こいつ、本当に変わりたいと思ってるんだな。俺の助けが必要なほど。……しょうがないな。
「ん」
「え?何、急に手を出して……」
「協力してやるってことだよ。鈍い奴だな」
俺の言葉に、フラムは一瞬ポカンとした顔をしたが、すぐに表情を笑顔に変えた。そして俺の手を取る。……最後に女の子の手触ったのいつだったっけ。
「ありがとう!パーティー誕生ね!」
「ちょっ、声でかいって。ここお店だぞ」
フラムは少し顔を赤くした。すぐにコホンと咳払いをして、パンケーキを頬張る。そんな彼女を、俺はパスタを食べながらしばらく見ていた。
「……なあ、一つ気になるんだけどさ」
「何?」
「お前っていくつなんだ?」
「レディに年を聞くのは失礼じゃない?」
夕方の帰り道。俺はフラムと並んで宿屋まで歩いていた。なんか気まずくて、出た話題がこれだ。しょうがないじゃない、人見知りなんだもの。フラムは微妙な顔をしながらこっちを見て、
「……17よ。あなたの一つ上ね」
「え?そうなの?ていうか何で俺の年齢知ってるんだ?」
「それは、その……」
え?何その反応。絶対やましいことしてるじゃん。というか年上なのか……凄いタメ口だったけどまあ別にいいか。
「……フフン、まあとにかく、私は年上だからこれからはもっと敬いなさい」
「もっと敬える人になってから言おうね」
「…………」
フラムが掴みかかってくるのを必死に防いでると、宿屋が見えてきた。
「じゃあ、俺こっちだから」
「あら、奇遇ね。私もこっちよ」
…………。
…………というわけで、宿屋に到着。俺の隣には金髪碧眼少女が立っている。マジかよこいつ宿一緒だったのか。
「まさか、同じ宿だったとは思わなかった……」
「ねぇ、もう少し喜んだ反応をしてもいいんじゃないかしら。仮にもパーティーメンバーなんだから」
落ち込む原因がお前にあるのを分かって欲しい。こういうところで知り合いに会うと気まずくなるんだよ。
「じゃ、また明日」
「何そそくさと逃げようとしているのよ」
腕をガッと掴まれた。離せっ……!別に話すこともないだろ……!
「なんだよ。俺さっさと寝たいんだけど」
「そんなことより、明日の予定を決めましょう。初パーティーでの仕事なんだから」
「勝手に予定入れるな」
フラムは聞く耳をもたず、どんなクエストがいいか、どんな陣形を組むかとかを矢継ぎ早に話してくる。陣形て。俺ら二人だろ。
「というわけで、明日はこのクエストを受けようと思うのだけれど」
「高難度クエストじゃん。もっと無難なやつ行こうぜ」
「私は高レベル冒険者よ。このくらい余裕に決まってるでしょ」
フフン、と胸をはってギルドのクエスト用紙を見せてくるフラム。いや、明らかにレベル50とか書いてるんだけど。俺38足りないんだけど。――ちなみに、レベルと言うのは数値が上であるほど強いものであるが、具体的には30を越えると高レベル、40を越えると高レベルの上の方になるらしい。レベル12の俺には縁の遠い話だ。
「お前、レベル50越えてるのか?」
「いいえ、前40になったばかりね」
本当に大丈夫なの?平均26だよ?俺RPGゲームはレベル気にせずガンガン進めるタイプだけど流石にこれは止めるよ?
「せめてもうちょっと下げよう。俺まだレベル低いんだよ」
「レベル40の私に何回も勝っておいて低レベルなの?今まで何してたの?」
こいつ、パーティー解散してやろうか。
「初クエストだからこそ、成功率の高いのにしようぜ。俺はまだ死にたくないからな」
俺がそう言うと、フラムは渋々ながらも納得してくれた。俺はクエスト用紙を手に取ると、その中から平均26で受けれそうなクエストを選んだ。
「ほい、これで満足か?じゃ、俺は寝に行くから」
「え?ちょっ、ちょっと……」
「おやすみー」
俺はそう言い残して、自分の部屋に向かった。




