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第五十一話 裏切り者



その後、マルベリーの所へ戻ってきた俺達は、事態が無事に解決したことを報告しに来た。

「よくやってくれた、シオン。そして、フラム殿とユウ殿。妾達の問題を解決してくれたこと、礼を言うぞ。後で報酬も支払おう」

マルベリーは微笑むと、満足そうにそう言った。一方、シオンはマルベリーを不満そうに見つめている。こいつは治療を終えたあとからずっとこの様子だ。

「……どうした、シオン?何か言いたい事がありそうじゃな」

マルベリーの言葉に、シオンは少し驚いたようにたじろぐ。しかし、すぐに調子を戻すと、マルベリーにこう言った。

「……母上。何故儂を呼んだんじゃ?今回の件は、別に儂以外の魔族でも解決出来たことじゃ。何より、母上は儂以上に魔物の生態に詳しい。儂を呼ぶ必要など無いはず」

シオンの言葉に、マルベリーは目を細める。彼女らの間に冷たい空気が立ち込み、剣呑な雰囲気となる。

「……妾は、シオンを信頼しておるからな」

「嘘じゃな。母上なら、儂に会うたびにもっと精進してみろと冗談目かしく言うはずじゃ」

シオンは視線を厳しくして、マルベリーを見つめる。

「……もう一度聞くぞ。何故、儂を呼んだ?」

≪へぇ、これくらいじゃ騙されないかぁ≫

「!?」

「え、だ、誰の声?」

突如聞こえた声にフラムが辺りを見渡すが、俺達の周りにはマルベリーとマゼンタしかいない。しかもマルベリーは瞳が虚ろとなり、俯いたまま動かなくなった。

「貴様!母上に何をしたんじゃ!」

≪軽い催眠だよ。魔族の集落に君を呼んでもらうために暗示をかけた。それだけさ≫

シオンは辺りを見渡しながら、声の主を探す。しかし、それらしき人物が見つかることはなく、シオンは辺りに視線を彷徨わせる。

≪そう焦らないでよ。僕は君に会いたかっただけなんだ。()()()()()()()()()()()()である君にね≫

「……っ!」

シオンは悲痛な表情を浮かべる。今まで見たことのないようなシオンの表情に、俺とフラムは思わず言葉を失った。謎の声はそんなシオンの姿を見たのか、高笑いをあげる。

≪ハハハハハ!面白い!君ってそんな表情するんだ。ますます興味が湧いたよ!……さて、そろそろ終わらせるとしようか。僕の実験を!≫

謎の声がそう言うと、突如声が止み、変わりに笑い声が聞こえてくる。ドアを開けて外に逃げようとしたが、何かが引っ掛かっているのか開かない。その間に笑い声はますます強くなり、騒音のようになっていく。頭がガンガンと鳴り響いて、思考能力も奪っていく。

(なんだこれ、立ってられねぇ……!)

意識が遠のいていく。俺の勘がこれはヤバいと訴えかけてくる。しかし笑い声がうるさ過ぎて、抵抗も出来ない。二人の方を見る。フラムは俺と同じようにふらふらとしていて、今にも倒れそうである。しかし、シオンは、微動だにしない。それどころか、例のあの剣を持ち、目まで閉じている。一体どうしたのだろう。――しばらくシオンを見つめていると彼女は剣を抜き、俺の方に走ってきた。……っておい!?何してんの!?そう思ったときには既に、シオンは俺の眼前に迫っていた。俺は思わずしゃがみ込み…………その後、()()()()()()()()()()()()

「ガハッ!?」

誰かの声を皮切りに、笑い声が止む。俺は朦朧とした意識でシオンを見た。――そこには、身体の一部を斬られ、血を流しているマゼンタが立っていた。マゼンタの右手には剣が握られており、苦しそうに顔を歪めている。……あれ、まさかあいつ……

「何故、僕の事が分かった……?」

「……母上の時と一緒じゃ。お主は姿を完璧に再現していたが、中身が違う。儂の知っているマゼンタは少なくとも、儂のことなど褒めたりせんし、頼ったりせぬわ。奴は儂が大嫌いじゃからな」

「ははっ、なるほどね……最初から分かっていたのか」

俺は出会った時のマゼンタを思い出す。確かにシオンには優しかったよな、こいつ。俺達には厳しかったけど。マゼンタ――の姿をしたものは、傷を抑えながらシオンから距離を取る。やがてその姿が陽炎のように揺らめくと、偽マゼンタは大柄な白髪の女性に姿を変えた。その姿に、俺は見覚えがあった。

「あなた……!私の家のメイドじゃない!?」

俺が言うより先に、フラムはそう叫んだ。……そう、こいつはフラムの家に行った時に門を開けたメイドにそっくりだった。服装もメイド服だし、ほぼ間違いない。

「おや。君は、あの時のお嬢様そっくりだね。妹さんは元気にしているかな?」

「……あなた、何故こんな所にいるの?」

「何故と言われても。僕は本物のメイドじゃないからね。あそこには潜入してただけだし、目的も達成したし」

「目的……じゃと?」

シオンが剣を構えながら、白髪の女性に距離を詰める。女性は余裕ぶった笑みを浮かべながら、臆さずにシオンの剣を見つめる。

「僕はこう見えて、呪いや魔法が大好きでね。よく書庫や遺跡を巡っては、禁じられた魔法とかを見つけたりしているんだ。最近はそれの効果を確かめるために実験を繰り返し、実に楽しませてもらってるよ」

女性の言葉に、シオンが剣を眼前に突き立てた。シオンは普段とは違う冷たい表情で女性を睨んでいる。

「実験とは、なんじゃ?まさかとは思うが……魔族と魔物を使った融合魔法ではあるまいな?」

「その通りだよ。まぁ、出来るのは弱いのばっかりだったけどね。前に使った呪いの方が良いのが出来たよ」

シオンの纏う雰囲気がより冷たくなる。そんな彼女に対して、女性は面白そうに笑うだけだ。

「グラスイーターを利用した呪い。そこのお嬢様も見たことがあるんじゃない?」

「……!?」

フラムが驚愕の表情を浮かべた。……まさか、レーヴィがグラスイーターの心臓になったのって……

「あれは、あなたがやったの……?」

「そうそう。大変だったんだよ?彼女をわざと孤立させるようにして人を恨むようにして、その感情をグラスイーターと融合させる≪鍵≫にしたんだ。これはとある書に記された禁呪でね。大昔に使われたものなんだ」

「……そんなものを、レーヴィに……!」

フラムは女性を睨み、槍を構える。一触即発の雰囲気になり、重い空気がこの場を包む。まさに戦いが起ころうとしたその時、轟音が鳴り響いた。

「!何!?」

「何事じゃ!?」

二人が外の方を見た。俺も一緒になって外を見る。

「……何だ、あれ」

――そこでは、異形の怪物が暴れていた。馬の足に人の上半身、腕は刃物のように鋭く、鳥の頭と翼を持ち、遠くから見てもとても大きい事がわかる。

「マゼンタ、だっけ?彼も実験の対象者の一人さ。僕が一週間前に成り代わった時、魔法をかけてあげたんだ。ただまぁ、ちょっと混ぜすぎて暴走しちゃったんだけど」

女性はそう言うと、怪物――マゼンタの元へ一瞬で移動する。そして彼にまたがると、まるで馬を操るように彼を動かす。遅れて、魔族達の悲鳴が聞こえてくる。それを聞いて、シオンが走り出した。

「……私達も行きましょう。あの人を野放しにしておけないわ」

「……分かった」

フラムの言葉に頷き、俺達は女性の元へ向かった。


 

 

 








 


 

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