第五十話 半魔半人
「うぇーい、そこの兄ちゃん!あたしと飲みにいかない?まぁ、この身体じゃ店に入れないんだけど!」
「おいおいしっかりしろよ!マゼンタが持ってきてくれたジュースあったろ?それで酌にしようや!」
異形の魔族達に近づいた俺は、彼らにめっちゃ絡まれていた。下半身が蛇のようになっている女性に肩を組まれ、身体の一部を蝙蝠のようにした男性が意気揚々とジュースを勧めてくる。彼らは一様にテンションが高く、陰成分の高い俺は消されそうである。溶けそう。
「……それで、いつからその身体になったんじゃ?」
「二日前くらいだ。おかげで身体がでかくなって建物ぶっ壊しちゃって。マルベリー様が皆外で過ごすように言ったんだよ」
「なるほど……二日前……」
シオンの方を見ると、上半身を魚のようにした魔族に話を聞いていた。端から見ると頭が馬鹿になりそうな光景だが、彼女らは真剣である。
「ねーねー、お姉ちゃん冒険者なの?」
「僕、お話聞きたい!」
「え、えーと……そうね……」
フラムは身体の一部が金属のようになっている魔族の子供達に絡まれ、タジタジとしている。多分微笑ましい光景のはずだが、絵面が不気味すぎる。
「……何をやっているんだお前らは。遊んでないでシオンの手伝いをしてくれ」
マゼンタが呆れたように俺とフラムを見る。そんな事を言われても、身動きが取れないのだから仕方ない。というか手伝いと言っても、何を手伝えばいいのかも分からない。
「ちょっとマゼンタ、邪魔しないでよ。今あたし達がこの子で遊んでるんだから」
「えー、お姉ちゃんの話聞きたい!」
そんな事を思っていると、俺とフラムに絡んでいる魔族達がマゼンタを睨んだ。マゼンタはため息を吐くと、疲れたように呟く。
「何度も言っているが、このままの姿だと集落に入れないんだぞ?早く元の姿に戻りたいだろう?」
「いや、別に」
「だよねー、力強くなったしでかくなったし、あたしこのままでもいいかも」
「ゴーレムの腕、かっこいい!」
マゼンタの言葉は全く響かず、魔族達はむしろこの状況を楽しんでいるように見える。……もしかして、頭がおかしいというより、楽観的が過ぎるのかもしれない。
「……何やっとるんじゃお主ら」
「おお、シオン!久しぶりだな!元気にしてたか!?」
「高レベル冒険者になったって聞いたけど、どんくらい稼いでるのさ!お姉さんに教えて!」
「シオンお姉ちゃんだー!」
「わーい!」
「ちょっ、お主ら!撫でるな!抱きついてくるな!」
魔族達の標的が変わり、今度はシオンがもみくちゃにされる。嫌がっているように見えるが、満更でもなさそうな表情をしている。
「……なんか、凄い人気だな」
「シオンは族長の娘だからな。昔から集落の奴らと関わる機会が多かったのさ。魔物研究者としても優秀で、皆彼女を慕ってるし、頼りにしている」
……マジか。普段のシオンからは想像できないな。こんなに慕われているんだったら、友達くらい簡単に出来そうだが……まぁ、そこはいろいろあるのだろう。
「ええい、離せー!まだ調査が終わっとらんのじゃ!話は解決してからで……!」
魔族に絡まれているシオンを、俺はしばらく見つめていた。
「はぁ、はぁ……やっと、調査が終わったぞ……」
ゼェゼェと息を吐き、地面に手をつくシオン。魔族達はマゼンタに追い払われて別の所へ行き、今この場にいるのは俺達だけである。
「……シオン、お疲れ。お菓子やるよ」
「大丈夫?立てる?」
シオンは俺の差し出したお菓子を掻っ攫い、フラムの手を取って立ち上がる。大分もみくちゃにされたのか、髪がボサボサで疲れたような表情をしていた。
「……ありがとうなのじゃ……おい、マゼンタ。彼らがああなった原因は分かったぞ」
「本当か!それで、何故彼らはあんなことに……」
「……≪融合≫じゃ」
シオンの言葉に、マゼンタは首を傾げた。シオンは真剣な表情で話を続ける。
「キメラやマンティコアなどが使う、融合の魔法が施されておった。普通は、対象の生物を自らに取り込むときに使うものじゃが、彼らに掛けられたのは少し特殊でな。魔物と魔族がむちゃくちゃな比率で混ぜられておった」
「つまり、魔物化ではなく、何者かが彼らに魔法を掛けたと?」
マゼンタの言葉に、シオンは頷いた。
「その可能性が高い。幸い、儂はこの魔法を解く方法を知っておる。すぐに治せるじゃろう」
「ほ、本当か!ならば早速……!」
シオンはマゼンタの言葉に頷き、俺達の方を見た。……何か嫌な予感がする。思わず逃げ出しそうになったが、シオンががっちりと肩を掴んできて動けない。シオンは怖い笑みを浮かべて、こう言った。
「この魔法を解くには、複雑な手順を踏まねばならん。当然、手伝ってくれるじゃろ?」
さっきサボってたんなら動けるよな?という副音声まで聞こえた。これはキレてらっしゃいますね……俺は少しビビりながら、
「も、もちろん」
声が裏返った。恥ずい。
「と、当然じゃない」
フラム、お前もか。
「ふぅ……これで終わりじゃな」
「あれ?元に戻っちゃったー」
「ありがとな、シオン!やっぱ元の身体が一番だ!」
それからしばらくして、シオンの仕事が終わった。最初は身体を治すのを渋っていた魔族達だったが、シオンが魔物の姿でいることの恐ろしさを事細かく伝えると、手のひらを返すように身体を治すことに賛成した。ちなみに俺とフラムは、ずっと使いっ走りにされていた。治療に使う薬の材料を集落に取りに行ったり、身体を治したことによって分離した魔物を倒したりした。正直辛すぎてどうにかなりそうだったが……
「兄ちゃん達もありがとうな!」
「今度こそ飲みに行こうよ!あ、もちろんシオンも!」
嬉しそうな魔族達を見て、なんか元気が出た。ていうかまた絡まれてるんだけどどうしたらいい?俺、酒とか飲めないと思うんですけど。
「ちょっ、何してるのよ!ユウを連れて行こうとしないで!」
と思ってたら、フラムが俺から魔族達を剥がす。思わず抱き寄せられるようになってしまい、なんか柔らかい感触が……っておい。
「あらー、仲いいわね!」
「おお……」
「!?」
魔族の人がにやにやしながらフラムを見つめると、フラムの顔が尋常じゃない程赤くなる。……えっ、大丈夫?心配になるくらい真っ赤なんですけど。
「〜っ!」
「ぐはっ」
フラムがサッと離れたので、前のめりになって字面に倒れ込んでしまった。ふと、顔を上げてシオンの方を見ると、哀れむような表情でフラムを見ていた。
「……実験は成功みたいだね」
彼女は目の前の元に戻った魔族を見ながら、小さく呟いた。魔物と混ざっていた魔族達は、今や完全に元通りだ。
(やはり、噂通りの実力みたいだ。族長の娘……シオンという魔族は)
彼女は近くにいるシオンの方を見ると、口元を隠しながら笑みを浮かべる。自分は今、とある目的のために潜伏しているのだ。万が一にも正体を暴かれるわけにはいかない。
(……そろそろ頃合いかな。剣も見つけたわけだし、次の実験を始めるとしよう)
彼女はユウが下げている黒い剣に視線を落とす。それを見ると、身体の中から高揚感が湧いてくる。
(さて、一体何が起きるだろう……実に楽しみだ)
彼女は未だに口元を隠しながら、ユウ達に視線を戻した。




