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第四十九話 おかしな集落と愉快な魔族



というわけで、俺達はシオンの魔法で魔族の集落にやってきた。

「……なんだここ」

第一声の感想はそれだった。集落には奇妙な形の建物が並んでおり、草木の色もおかしい。目に悪い色をしている。俺は思わず、シオンの方を見て――

「ってうおお!?」

その場から飛び退いた。俺の視線の先には、地に伏したフラムとシオンの姿があった。よく見てみると、フラムは青い顔をして何かを我慢するように顔を歪めていて、シオンは白目を向いて倒れている。

「お、おいどうしたんだよ。いったい何が……」

「――来てくれたんだな!シオン!」

聞こえてきた声の方を見ると、マゼンタがこちらに向かって走って来ていた。シオンの元にたどり着くと、マゼンタは驚きの表情を浮かべた。

「……シオン?おい、寝てないで起きてくれ……あっ」

マゼンタがシオンを揺すると、彼は何かに気づいたように揺するのを止めた。その様子に、俺はなんとなく声をかける。

「……あのー、シオンはどうしたんすかね」

「……魔力切れだ。これはしばらく動けないな……そっちの金髪女は転移酔いだな。早く何か食わせないと吐くぞ」

「おおおい!?フラム、早く口を開けろ!俺のお菓子分けてやるから!」

「う、うぷ……もう無理……」

「諦めんな!ほら、アカギさんの新作だぞ!人の目もあるんだし、こんな所で吐くんじゃない!」

フラムに無理やりお菓子を食わせていると、マゼンタが呆れたような目でこちらを見ていた。


フラムの嘔吐を防ぎ、シオンの目をなんとか覚まさせると、マゼンタが言った。

「……シオン、まさかとは思うが、転移魔法の使い方を忘れたんじゃないよな?あれはちゃんと手順を踏まないと、魔力の消耗が激しくなるんだぞ?」

「……忘れたわけではないぞ。二人も連れて来るから、魔力を多く使っただけじゃ」

こいつ、魔法を使うときに凄い慌ててたけどな。やり方忘れたとか言って混乱してたし。……というか、俺は特に何もおかしいところはないな……ラッキーと思うべきだろうか。

「よし、シオン。族長の家に向かうぞ。事は一刻を争うんだ。そこのお前達も付いてこい」

「えっ!?な、何故あんな所に……!ああ、引っ張らないで欲しいのじゃー!」

「ちょっ、シオン!?フラム!肩貸してやるからしゃんとしろ!俺達も行くぞ!」

「分かったわ……うっ」

吐きそうなフラムにお菓子を食わせながら、俺は必死にマゼンタを追いかけた。


「よく来たのぅ、シオン。背も大きくなって……」

族長の家にたどり着いた俺達は、紫髪の美女に出迎えられた。シオンやマゼンタより大きく立派な角をつけており、俺より遥かに身長も高かった。

「妾が族長のマルベリーじゃ。娘がいつも世話になっておる。ユウ殿、フラム殿」

「は、はい。……って、娘?」

俺は気まずそうにしているシオンを見た。マルベリーは妖艶な笑みを浮かべて楽しそうに笑う。

「そうじゃ。そこにいるシオンは正真正銘妾の娘。二人の事は手紙で聞いておるぞ。娘と仲良くしてくれてありがとう」

「ちょっ、母上!」

「娘はどうも、人付き合いが苦手のようでなぁ……小さい頃は、知り合いは隣の家の子のマゼンタくらいじゃったし、いつ友達が出来るのかと心配し……」

「や、やめろ!儂は別に、人付き合いが苦手というわけでは……!」

「集落を出る前なんて、よく一人で部屋に籠もってどうやったら他の人と仲良くなれるかと試行錯誤を」

「母上!」

シオンは顔を真っ赤にして叫んだ。……こいつ、そんなに友達がいないのを気にしてたのか。これからはイジるの止めてやろう……

「おっと失礼。ユウ殿、フラム殿。巻き込んでしまって申し訳ないが、どうか妾達に協力してくれぬか?もちろんシオンもな」

俺とフラムは頷いた。シオンは顔を真っ赤にしてそっぽを向いていたが、渋々頷いた。マルベリーは満足そうに笑うと、マゼンタの方を向く。

「マゼンタ、例の場所に案内してやるのじゃ」

「了解です、マルベリー様」

マゼンタは俺達に手招きして、そのまま歩き出した。俺達は素直に彼について行った。


「ええ……」

俺達が連れてこられたのは、集落の近くの草原だった。そこには、異様な光景が広がっていた。

「アハハハハ!風よ!私は風になっているわ!」

「いやー、最初は蜘蛛の足なんて気持ち悪かったが、慣れると便利だな!」

「おい、誰だよ俺の尻尾を踏んだやつは!」

羽を生やして空を飛ぶ魔族の女性、蜘蛛の足を生やして素早く動き回る魔族の男性。魔族のような角を生やした狼。他にも異形の魔族達が、楽しそうに草原を駆け回っていた。

「えっと……何これ」

「どう見ても、緊急事態というようには見えないわね」

俺とフラムはそう呟いた。ぱっと見はとても恐ろしい光景だが、魔族達は皆テンションが高く、とても楽しんでいるように見える。

「緊急事態というから、仕方なく来たけれど……帰ってもいいかしら」

「なっ!?待つのじゃフラム!これはちゃんと緊急事態じゃぞ!?」

先程まで顔を青くして絶句していたシオンが、慌ててフラムを止めた。どうやら緊急事態ではあるらしい。

確か、シオンが言ってたよな。魔族は普通の人間と大差はないって。異能とやらを持ってるらしいが、そこはどうなのだろう。

「……マゼンタ、これはどういうことじゃ。何故こんな人数が魔物化しておる」

「……魔物化?」

俺が思わず呟くと、シオンが丁寧に説明してくれた。

「魔族は生まれつき魔力が高く、異能という特殊な能力を持っておる事は前に話したじゃろ?儂の魔物を召喚する術もそうじゃ」

シオンが手のひらに小さな魔物を召喚し、すぐに消す。そして、真剣な表情のまま話を続ける。

「魔族には魔物の血が流れておる。この血は少し特殊でな。魔力に強く反応し、魔法の威力や効力を強める。……しかし、時折それが暴走することがあるのじゃ」

シオンは異形の魔族達の方を見る。そして悲しそうに顔を歪めた。

「それによって起こるのが、≪魔物化≫じゃ。これは一種の病気のようなものでな。身体が徐々に魔物のようになり、最終的には魔物になってしまうのじゃ」

今は治療法がちゃんとあるが、とシオンは付け加える。……いや、なにそれ怖すぎない?そんな事が自分の身体に起きたら、恐怖で震えてしまいそうなものだが……

「アハハハ!楽しいー!」

「おお、身体に筋肉がついてきた!これならものを運ぶときに苦労しないな!」

「ハハッ、お前それオーガの筋肉じゃねぇかよ!」

そんな事はなかった。異形と化した魔族達は実に楽しそうに話をしていたり、空を飛んだりしている。……そういや、魔族って頭のおかしいのが多いんだっけ。なら俺の常識が通じるはずもない。

「……なぁ、あれほんとに魔物化してるのか?凄い楽しそうなんだけど」

「た、多分そうじゃ。症状は似ておるし……」 

「いや、違う」

シオンの言葉に、これまで空気と化していたマゼンタが口を挟んだ。マゼンタは鋭い目つきで異形の魔族達を見つめる。

「……彼らは魔物化していない。マルベリー様はそう言っていた。魔力が暴走した痕跡もないし、彼らは数日前からあの姿になったんだが、そこから魔物化が進む様子もない」

「……なんじゃと?なら、彼らは一体……」

シオンが異形の魔族を見つめていると、マゼンタは鋭い目つきのままこう言った。

「それを判別するのが、オレ達に任された仕事だ。行くぞ」

マゼンタが魔族達の元へ歩いていったので、俺達もそれについて行った。



 






 

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