第四十八話 魔族の危機
翌日。いつも通り食堂で朝飯を食っていた俺は、シオンにめちゃくちゃ絡まれていた。
「フラムの実家に行ったじゃと!?何故儂にも教えてくれなかったんじゃ!」
「だって、お前クエスト断ったじゃん」
「そうじゃったー!うう、もっとクエストについて聞いておけば……!」
頭を抱え出したシオンを見ながら、俺は目の前のスイーツを頬張る。金が入ったのでちょっと高いのを選んだのだが、これがまた美味い。やっぱ凄いな、アカギさんのスイーツ。
「……お前がフラムと仲良くしたいのは知ってるが、そんなに家に行きたかったのか?」
「当然じゃ!家に遊びに行く、というのは仲良く出来る機会の一つじゃぞ!」
そういうものか。そんなに人んちに遊びに行ったことないから分からんかった。シオンは悲しげに目の前のパンケーキを……俺も大概なのだが、こいつは何故朝からジャム乗せたパンケーキ食ってるんだろう。流行りなのだろうか。
「そんなに行きたかったんなら、フラムに言えばいいじゃないか」
「えっ!?いや、さすがにそれは……ちょっとな……」
なんでこいつは頬を赤らめているんだ。一体何を想像したのかは知らないが、こいつの感覚は人と少しズレているようだ。
「……何か失礼な事を考えておらんか?」
「いや、別に?」
危な……だからなんで心読めるんだよ。そんなに顔に出てた?俺は胡乱げな目を向けてくるシオンから目を逸らしながら、俺は話題転換をすることにした。
「そういや、最近ずっとクエストに来てないよな。あの右腕はそんなに凄いやつなのか?」
俺の言葉に、シオンはハッとした顔になり、真剣な表情になる。切り替え早いなこいつ。
「……そうじゃな。あの右腕には未知の部分がとても多かった。研究だって、この前終わったばかりなんじゃ」
え、研究終わったん?凄いなシオン。こういうのって一年とか二年くらいかかるんじゃないの?知らんけど。
「研究、終わったのか?」
「そうじゃ。……あの右腕は未知の金属で出来ていた。あれは刃物みたいな材質じゃが、刃こぼれすることもなく、武具の素材にすれば最高の品質になる。軽くて硬いし、金属としても最高レベルのものじゃ。何故魔物にそんなものがついていたのかは知らんが、これは世紀の大発見じゃろう」
シオンは早口でそう述べた。あのカラドボルグってやつは、とんでもないものを右腕に着けていたらしい。……俺、よくそんなのに殴られて無事だったな。それを聞いた俺は、ふと気になったことを尋ねてみる。
「で、その右腕どうしたんだ?」
俺の言葉にシオンは、懐からあるものを取り出した。
それは、一振りの細身の剣だった。
「武具にしてもらった。あの形のままでは持て余すだけじゃし、知り合いの鍛冶師に頼んで加工してもらったのじゃ」
シオンが少しだけ鞘を抜くと、銀色の光を放つ綺麗な刀身が見える。シオンは剣を鞘にしまい、懐に戻した。
「すげぇな……」
「ふふん、そうじゃろうそうじゃろう。この剣は儂が設計図を作って出来た形でな……」
「お前、俺とフラム以外に知り合いいたんだな」
シオンが俺に掴みかかってきた。
店を出た俺達は、並んでその辺をぶらついていた。シオンが不機嫌そうな顔でこちらを見つめてくるが、普通に俺のせいなので文句も言えない。
「……悪かったよ。お前がそんなに友達がいないことを気にしてたとは……」
「気にしとらんわ!お主が変なことを言うからじゃろうが!」
プンプンと怒るシオンを尻目に、俺は先程の細身の剣に目を向けた。シオンの腰にかけられているそれを見ていると、服装と相まってなんだか侍みたいだ。俺はふと、シオンに気になったことを聞いてみる。
「そういえば、お前って剣使えるのか?」
「儂を誰だと思っているのじゃ。天才高レベル研究者のシオンじゃよ?剣術くらい身につけておるわ」
シオンは自信満々にそう言って胸を張る。なら何故あんなに体力がないのか気になるが、さらに怒らせてしまうので聞くのは止めた。
「それにしても、あんなでかい右腕がその細い剣になるなんてな……」
「加工すると、割と小さくなるらしくての。その代わり強度は別格じゃぞ?元の姿より硬いはずじゃ」
シオンはそう言って、剣をこちらに渡してきた。……軽いな?俺は力が強いほうではないのだが、羽みたいな軽さに感じる。俺が怪訝な顔をしていると、シオンが得意げに語ってくる。
「凄いじゃろう?それはその金属の特性を生かした形状になっておってな。空気抵抗も受けづらいし、柄の部分も持ちやすいようにしておる」
口早に剣の凄さを語ってくるシオンに剣を返すと、俺は自分の剣を持ってみた。……重い。さっきの剣とだいぶ違うな。俺も剣違うの買おうかな。
「確かに凄いな。でも、なんでこんな剣を作ろうと思ったんだ?シオンは魔法が使えるし、使う必要無いだろ」
「……まぁ、儂もそろそろ、戦える手段を増やしたいと思ったのじゃ。相手が魔法の効かない相手では足手まといになるからのう」
シオンが遠い目をしながら言った。……確かに、いつかの蛇と戦った時、いつの間にか食われてたもんな。なら、そう考えても不思議じゃない。そんな事を考えていると、いつの間にかシオンの声が聞こえなくなっていることに気づいた。
「…………」
「……ん?どうした、急に黙って」
そう聞いてみるが、シオンは答えない。というか、なんか表情が暗いような……?
「あっ!こんな所にいたんだな、シオン!」
シオンの顔を見ていると、聞き覚えのない声が聞こえてきた。振り返ってみると、ピンク髪の男がそこに立っていて――俺は驚愕の表情を浮かべた。男がシオンに近づくと、シオンも同じく驚愕の表情を浮かべた。
「……マゼンタ!?何故こんな所に……!?」
マゼンタと呼ばれた男は、シオンの顔を見て安堵の様子を浮かべた。よく見てみると、なかなかの美形で、所謂クール系イケメンという顔をしていた。――そして、とりわけ目を引くのは、シオンと同じような大きな角を生やした頭。……そう、この男は魔族だったのだ。マゼンタは真剣な表情になると、シオンの手を取る。
「シオン、今すぐ集落に戻ってきてくれ。緊急事態なんだ」
「緊急事態!?えっ、一体どうしたんじゃ!?」
「話は後だ。お前は転移の魔法が使えただろ?なら、今すぐ集落に……」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
なんかシオンが拉致られそうになったので、慌てて止めた。マゼンタは苛立ったような顔でこちらを見てくる。……こっわ。
「なんだお前は。今忙しいんだ。部外者は首を突っ込むな」
「部外者じゃねぇ。そいつは俺のパーティーメンバーなんだよ。いきなりいなくなったら困る」
「……なるほど。確かにそうだな……パーティーメンバーは他にいるか?そいつらにも連絡をしておいてくれ。オレはシオンを連れて帰る」
「ちょっ、待ってほしいのじゃ!」
マゼンタの言葉に、シオンは声を荒げた。マゼンタがシオンの方を見ると、困ったような表情をしていた。
「……いきなりの事で何がなんだか分からんのじゃが、せめてパーティーメンバーも連れて行かせてほしい。いなくなって、余計な心配をかけたくないのじゃ」
「……分かった。オレは先に行っているからな」
一瞬のうちに、マゼンタは姿を消した。シオンは回れ右をして走り出す。俺も慌ててそれについていく。
「おい!どこに行くんだよ!」
「フラムを呼んでくるぞ!そして皆で儂の集落に行く!」
俺達が行くことは確定なのか。いや別にいいけどさ。でも……
「フラムはこの時間だと多分食堂だ!そっちは食堂と反対だぞ!」
「!?」
シオンは慌てて走る方向を変えた。




