第五話 第二の敵
「本当にすみませんでした!」
朝、暇なのでギルドをうろうろとしてたら、見覚えのある金髪に声を掛けられた。言わずもがな、フラムのことである。一体どうしたんだろう。頭でも打った?
「……なんだ朝から。俺は謝られる覚えなんてないぞ」
「いや、これまでの私の醜い行いで迷惑をかけたので……あなたのおかげでようやく過ちに気付くことが出来ました!」
怖い怖い。キャラ変わり過ぎだろ。あの高飛車な金髪はどこ行ったんだ。
「そ、そうか……ていうか何で敬語?」
「恩師に無礼な口調で話すなど、言語道断でございます」
「えーと、怖いから止めてほしいんだけど……」
本当にこいつどうしたんだ?変なもんでも食ったのか?……と、俺が思っていると、フラムは腰の槍に手をかけ、
「はーはっは!油断したわね!隙あり!」
「≪ウオーター≫」
「へぶっ!?」
俺がそう言うと、フラムは頭から水を被った。ちなみに、今の季節は冬。つまり……
「寒っ!ちょっと!女の子に水かけるとか頭おかしいんじゃないの!?」
フラムはびしょびしょになって震えながら怒鳴ってくる。
「こっちのセリフだよ!お前とんでもない奴だな!変な口調になったかと思ったらいきなり襲ってきやがって!」
心臓止まるかと思った。そういえばこいつは訳の分からんことをしてくるやばい奴だった。アオイさんに簡単な初級魔法教わっといて良かった。俺はびしょびしょのフラムを炎魔法で乾かす。いやー便利だな。
「ったく……お前何しに来たんだ。邪魔するなら帰ってくれ。俺は忙しいんだ」
「さっきまでボーッと歩いてた奴が何言ってるのよ」
「そんで、なんか用か?」
戯言をスルーしてそう聞くと、フラムは何故か微妙な顔をしながらこう言った。
「……この前あなたに言われて考えたの。私のしてる事は正しいのかって」
「そうかー」
「何そのやる気ない返事……まあいいわ。……私は考えている内に分かったの。それは今の私じゃ分からないって。だから、あなたに聞きに来たの」
……えっマジ?そんなの俺も分からないんですけど。16の若僧に何求めてんだ。そんなに経験値ないよ?
「ねぇ……教えて。私のしたことは間違ってたの?」
「……さあ。少なくとも俺にとっては間違いだと思うけど」
そう言うと、フラムは少し暗い顔をする。これは選択肢ミスったか……?と俺が思っていると、フラムは何を思ったのかこっちをじっと見てくる。
「あなたって、変わってるわよね。意味深な言葉を残していったかと思ったら、飄々とした態度だったり……」
「そりゃどうも」
褒め言葉として受け取って置こう。言葉の感じ方は人それぞれだ。決して、変わってるという評価がショックだった訳では無い。断じて。フラムは俺の言葉に一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに真剣な顔になり……
「ねぇ、お願いがあるんだけど――」
「ここにいたのか。探したよフラムさん」
何かを言おうとしたところで、突然現れた奴に遮られた。
「な、何であなたがここに……!」
「何でも何も、君を呼びに来たに決まってるじゃないか。あの件、そろそろ決めてくれたかい?」
俺そっちのけで進む、フラムと不審者の会話。いや誰?見るからに嫌な奴だな……
「あの……」
「ん?誰だ君は。もしや彼女に付き纏う悪い虫か?」
いらっ。
「悪いけど、今は君の相手をしてる相手は……痛い痛い!膝を叩くんじゃない!」
不審者はそう言うが、俺は剣の鞘で奴の足を叩き続ける。誰がこんな変な女の悪い虫だ。お前の無駄にセットされた髪鳥の巣みたいにすんぞ。
「な、なんて野蛮なやつなんだ……フラムさん、こいつにの近くにいては危ない。よければ僕と一緒に来てくれないか?」
「誰が野蛮だこら」
あとさらっとナンパするなよ。しかもこいつずっと俺のこと馬鹿にしてくるよな。そしてイケメン。みても癒やされないイケメンはイケメンじゃないんだぞ。
「あなた……カブラギだったかしら。今は私忙しいの。他を当たって」
そう言ってフラムはシッシと腕をふる。本当に嫌そうな顔だ。ん?カブラギ?日本人みたいな名前だな……
「お前、名前何ていうんだ?」
「悪党に語る名はないよ。さっさと消えてくれ」
くっ、いちいちムカつく……!だがこいつのペースに乗せられてはいけない……!
「カブラギ…………お前、もしかして日本人か?」
「おや、まさか同郷だったとは……そうだよ。僕は冠城咲也。聖剣ジークフリートを与えられし勇者だ」
普通に名乗るんかい。さっきのは何だったんだ。……ひとまず、こいつも転生者ってことか……?
「……俺はユウ。よろしくな」
「……それは転生した人物の名前か?それとも本名か?」
「さあな。とりあえずそこの金髪を攫うんだったら止めとけ。どうみても脈ないから」
「さ、攫う!?そんなことはしない!」
おっ、話題を逸らすことができた…………こいつ、黒髪じゃなくて茶髪か。珍しい。カブラギは俺の言葉に戸惑いながらも、コホンと咳払いをし……
「フラムさん。どうしても僕のパーティーに入ってくれないのかい?」
「嫌よ。あなたのパーティーメンバーの女にあなたを誑かしたとか言って襲われたし」
うわー……まさかの女たらし……こういうやつ一番嫌いなんだが……ヤンデレ女とかに刺されないかなこいつ。
カブラギは「そんなことは聞いていないけど……後で叱っておくよ。それより、パーティー加入の件を……」とか言っている。何でいけると思ったん?襲ってくるメンバーがいるパーティーとか論外だろ。
「しょうがない、手荒な真似はしたくないけど……」
「≪ランダムスチーム≫!」
「あガガガッ!?」
俺は剣から煙を出してカブラギに被せる。剣には≪麻痺≫の文字があった。ラッキー!こいつもうちょっとで剣抜くとこだったからな!俺はフラムの手を引っ張ってその場を後にした。
「……何で助けてくれたの?」
「ん?嫌がる奴を無理矢理勧誘するのを見たくなかっただけだ。別にお前のためじゃない」
「そ、そう……」
あの後、素直についてきてくれたフラムと一緒になんとかカブラギから逃げることができた。……久しぶりに走ったわ。
「それで、さっきの話だけど……」
「おい、切り替え早いって。もうちょっと余韻持って来い」
さっきのさっきでよく続けられるな。自己中なやつだ。フラムは神妙な顔でこっちを見ながら、
「あなたと、パーティーを組ませてくれない……?」
「断る」
俺の言葉にフラムはえっ、と固まった。すぐに我に帰りこっちに攻め寄る。
「ええ!?どうして!?こんな美人がお願いしてるって言うのに!」
「別にパーティー作りたくないし。複数人必要なクエストだったらパーティーに仮加入すればいいし」
簡潔に理由を述べると、フラムはその場にへたり込む。断られるとは思ってなかったのだろう。
「じゃ、俺は帰るから。道中カブラギみたいなやつに気を付けてなー」
「えっ、ちょっと……!」
俺はフラムの声を背に受け、その場を後にした。




