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第四十三話 インテリ妹



わたしは優秀だ。生まれながらにして魔法の才を持ち、本から得た多大な知識を有している。しかし生まれつき身体が弱く、家の役に立つことは出来ていない。それは、家が代々続く騎士の家系であるから。わたしの家は「攻撃こそ最大の防御」というような家訓があり、他の騎士の家系とは違い、守りではなく攻めに重きを置いている。要するに、脳筋なのだ。父は「力こそ全て」と言って魔法になど目もくれず、五十を越えた今も身体を鍛えている。母はそんな父を助けるために自らも身体を鍛え、家臣達を鍛えている。

「……はぁ」

対するわたしは、頭がいいだけの貧弱な魔道士。当然家族からは距離を置かれ、使用人達からは馬鹿にされている。今もこのベッドからほとんど離れられず、ひたすらに窓の外と本を眺める生活だ。

「あーあ、つまんないの。わたしも外に出れたらな……」

何度も本を読んで、外の世界のことを知った。外の世界はこんなところよりもっと素晴らしくて、きらきらしている。――孤独なわたしは、外というものに憧れを持っていた。

「……姉さまは、今どうしてるのかしら」

わたしには姉がいる。今のわたしくらいの年に武の才に目覚め、家の権威を高めるために高レベル冒険者となった――わたしの嫌いな姉。姉さまは脳筋な父に愛され、母も彼女を称賛した。そんな()()な姉とわたしは、いつも比べられていた。だから、わたしは姉を嫌った。これ以上みじめな思いをしたくない。わたしの方が何倍も優秀なんだ。姉に会うたびに、わたしの胸中はそんな昏い感情で埋め尽くされる。

「最近、変な噂も立っていたし……何かやらかしたのかしら。……だとしたらいい気味だわ」

わたしはそう言いながら、窓の外に目を向ける。ああ、景色が綺麗だ。やはり外の景色はいい。穏やかな気持ちになる。イライラする気持ちを、打ち消してくれ――

「……あら?」

今、何か変なものが目に写ったような。いや、そんなはずがない。うちの屋敷は大きいのだ。周りは庭園になっているし、花しか見るものはないはず。わたしは目を凝らして、違和感を感じた所を注視する。そこにいたのは、わたしと同じ金髪碧眼の……()()

「なっ!?……けほけほ」

思わず声を荒げてしまい、咳き込む。もう一度目を凝らし、女性をじっと見る。――そして、信じがたい事実を認めることになった。

「姉さま……」

そこには、わたしの嫌いな姉が立っていたのだ。


「……でけぇ」

俺の目の前にある屋敷を見て、俺はポツリと呟いた。

「わー……大きいね」

俺の後ろに立っていた小原が、俺に続くようにそう言った。だよな。大きいよな。

「あなた達、何ぼーっとしてるのよ」

屋敷の門の前に立っていたフラムが、呆れたように言ってくる。

「屋敷とか初めてみたわ。こんなでかいんだな」

「だよね。私の家の近所にも、こんな大きい建物なかったよ」

小原と一緒に頷きながら、改めて屋敷を見る。……いや、うん。でかすぎるだろ。住宅地にある一軒家の四倍はあるんだけど。

「実家をそんなに見つめられるのは、ちょっと恥ずかしいのだけど……」

フラムが若干顔を赤くして言った。そう。この馬鹿でかい屋敷はフラムの実家なのだ。周りが庭園で囲まれており、街の中でも一際目立つようになっている。

「ここが、クエストが出た場所なんだよね?どこも変な所はないけどなぁ……」

辺りを見渡す小原。――久しぶりにクエストを受けようとした俺は、フラムにとあるクエストを提案された。それは、屋敷の異変を調べてほしいというもの。実質何でも屋みたいな冒険者のクエストには、時々こういう物がある。そんなわけで、特に断る理由もないので、このクエストを受けてみたのだが……

「まさか、フラムの実家がクエスト出してたとはな」

「……私も驚いてるわよ。ちょっと掲示板を見ていたら、私の家が写っていたのだから」

何それ。恥ずかしすぎない?俺だったら絶対関わりたくないな……

「それで、いつになったら門は開くんだよ。さっきからずっと待ちぼうけだぞ」

「……おかしいわね。家に連絡はしておいたし、そろそろ開けに来てくれるはずなのだけど……」

フラムが首を傾げていると、突如、風が吹いた。何事かと思ってそっちを見ると、そこにはメイドが一人いた。

「お待たせ致しました、お嬢様。少々準備に手間取ってしまい、迎えが遅れてしまいました」

「いいわよ、別に」

「……ユーさん。今、この人どこから来たの?」

「わからん」

本当に今どこから来たの?屋敷から出てきたんだよな?ていうか何普通に会話進めてるんだよ。小原と俺がメイドに怪訝な視線を送っていると、メイドは気にした様子もなく門を開いた。

「ふんっ」

ええ……この人腕力で門開けたんですけど。まさかこの人、人間じゃない?めっちゃしっかり閉まってたと思うんですが。

「さぁ、お客様方。お嬢様。お入りください」

何もなかったかのように振る舞うメイドに、俺と小原は少し引きながら中に入った。


「待っていたよ!君達がクエストを受けてくれた冒険者だね!」

屋敷の中に入ると、豪華な服装に身を包んだムキムキの男性に出迎えられた。金髪碧眼ではあるが、明らかに服装と体格が合っていない。

「私はフラムの父、グレイドという!高貴な騎士の家系の二代目だ!娘が世話になっているね!」

グレイドさんは耳に響くような大声で喋り、サムズアップした。フラムの方を見ると、恥ずかしそうに身を縮こまらせていた。

「……お父様、恥ずかしいから少し声を抑えて」

「おっと、すまない。少し昂ぶってしまってね。なにせあの内向的な娘がパーティーを組んでいる人を連れてくると言うのだから」

「は、はぁ……」

俺と小原がフラムの方を見ると、フラムはさらに顔を赤くしていた。……内向的だったのか。その割にはコミュ力高かったと思うんだけど。

「そ、それで、屋敷の異変ってなんですか?」

小原がグレイドさんに問うと、グレイドさんは神妙な表情になり、俺達にこう言った。

「こっちに来てくれ。実際に見せたほうが早い」

グレイドさんは俺達に背を向けて歩き出した。


「ええ……」

グレイドさんに連れられて、やって来たのは庭園。見たこともないような花が通路を除いた所を埋め尽くすように植えられており、石造りの噴水が中央に鎮座していた。……語彙力が無くてこんな紹介しか出来ないが、取り敢えずびっくりするくらい凄い庭園だった。しかし、そんな庭園を台無しにするようなものが、そこにいた。

「フシュルルルル」

「シュアアアア」

綺麗に咲いている花の中に、一際目立つ花のようなものが四つ。身体から生えている触手のようなものが蠢いており、なんというか、こう……とても気持ち悪い。小原とフラムも同じ感想だったのか、庭園のアレを見て顔をしかめている。

「あれは、グラスイーターという魔物でね。周りの花を養分として生きているんだ。やつの生えたところでは、徐々に花が枯れ、最後には瘴気を生み出し、ここを人の住めない場所にしてしまう」

思っていた以上に怖いやつだった。何その時限爆弾みたいなやつ。俺が若干グラスイーターから距離を取っていると、グレイドさんが悲しそうな表情で花に触れた。

「……この庭園は、家族の思い出の場所なんだ。何としても守りたい。だから……」

「任せてください!私達がなんとかします!」

正義感の強い小原が強く宣言した。続いて俺達も頷いた。





 

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