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第四十二話 ブラコンも程々に



店から出た俺達は、目的もないのでなんとなくその辺を歩いていた。あれ、俺は今日ガルムさんの話を聞こうとしてなかったっけ……?なんで目的見失ってんの?

「そういえば、ユウさんに会うのは久しぶりですね。あれからレベルはどれくらい上がりましたか?」

「あー……4くらい上がったな」

「凄いですね。僕は最近、新しく高レベル冒険者になったという人がいると聞いたので会いに行ったのですが……何故か怖がらせてしまいまして」

へぇ、そんな話が……ん?新しい高レベル冒険者?……なんだろう、妙に覚えがあるような……。

「名前までは知らないのですが、黒い鎧を装備して拳で戦うそうですよ。あの物理防御の高いマンティコアを殴り倒したとも聞いています」

「へ、へぇ……」

それ、小原のことじゃないだろうか。あいつ、初対面の人と会った時怯えるし。……イズモさんって結構迫力あるしな。思わぬ身内の話が出てきて少し戸惑ってしまう。

「ユウさんは何か知っていますか?」

「知らない」

俺は首を横に振った。ま、まぁ小原と確定したわけじゃないし。もしかしたら本当に新しい高レベル冒険者が出たのかもしれないし。俺はイズモさんから目を逸らし、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ふっふーん、ガルム〜」

「はぁ……」

そこには仲睦まじい様子で――訂正する。一部険悪な雰囲気の姉弟が手を繋いで歩いていた。ガルムさんは嫌そうに顔をしかめ、アオイさんはルンルン気分で満面の笑みを浮かべている。

「……アオイさんってほんとにガルムさん大好きなんですね」

「え?そうですか?えへへ……」

何故照れる。褒めたつもりじゃ無いんですけど?……俺が不思議そうにアオイさんを見ていると、突如アオイさんは顔を曇らせた。

「……やっぱり、おかしいですかね」

「え?」

「この年にもなってまだ弟離れ出来てないなんて……って思いますよね」

アオイさんはガルムさんの手を握りながら、おどおどとした様子で俺を見る。初めて見るアオイさんの様子に、俺は少し戸惑ってしまう。

「え、いやそんなことはないと思いますよ?ねぇイズモさん」

「そ、そうですね。僕の姉も同じようなものですし」

思わずイズモさんに振るが、フォローしているのかどうか分からない回答が帰ってきた。それを聞いて、アオイさんはますます顔を曇らせる。

「……そうですよね。ガルムも迷惑そうですし、控えた方が良いですよね……もう、大人なんですから」

俯きながらそう言うアオイさん。……多分、この人も薄々気づいているのだろう。ガルムさんへの行動は、少しやり過ぎだと。アオイさんだって大人だ。流石にその辺は弁え……?

(いや、弁えてなくない?)

今日一日、全く遠慮していなかったアオイさんが思い浮かぶ。うん、全然弁えてないわ。むしろもう少し自重してほしいまである。そんなしょうもない事を考えている間も、アオイさんは俯いたままだ。そんなアオイさんを前に、どう声をかけようか迷っていると……

「……何らしくねぇこと言ってんだ」

ガルムさんが顔をしかめたまま、アオイさんを睨みつける。アオイさんはきょとんとした顔でガルムさんを見た。

「姉ちゃんが自分勝手でおかしいことなんていつもの事だろ。俺に迷惑をかけるのもいつもの事だ」

「ふぐぅ」

ガルムさんの容赦のない言葉に呻くアオイさん。そんな自分の姉を尻目に、ガルムさんは言葉を紡いでいく。

「……でも、姉ちゃんが優しいのも、その迷惑に全く悪気がないのも知ってる」

「!」

「……あー、その、なんだ。一応、その元気さに助けられるときもあるっていうか……ともかく、そんな落ち込むことはねぇよ」

「が、ガルム……!」

アオイさんは感極まったように涙ぐみ、先程と同じような笑みを浮かべた。

「ということは、膝枕とかもでき――」

「すまん、無理だ」

アオイさんは笑顔のまま固まった。


結局、アオイさんはガルムさんへの迷いを無くし、堂々とブラコンを極める事にした。ガルムさんが少し顔を青くしていたが、まんざらでもなさそうな表情をしていたので、一応受け入れようとはしているのだろう。

「ふふふ、ガルム〜」

「……姉ちゃん、ひっつきすぎだ。もう少し離れてくれ」

「嫌です。さっき傷つけた罰です」

ガルムさんが指摘しても、アオイさんは手を離す様子がない。あと距離が近い。すごく近い。そんな二人の様子に、俺とイズモさんは呆れたように苦笑する。

「……仲いいな」

「良いことじゃないですか。……これで少しは、ガルムがアオイさんに心を許すと良いですね」

「イズモさん、まるで私がガルムに心を許されてないみたいな言い方しないでください。ねぇガルム?」

「…………」

「な、なんで目を逸らすんですか?おーい、ガルム〜?」

アオイさんの追及は、ガルムさんと別れるまで続いた。


翌日。俺がいつもの食堂に向かうと、見覚えのある緑髪の男性がいた。――言わずもがな、ガルムさんである。ガルムさんは生気を失ったような瞳をしながら、目の前にある真っ赤なステーキを食べていた。

「……ガルムさん、どうしたんすか?白目剥いてますけど」

「ん?おお、ユウか……いや、姉ちゃんがたまには実家に帰ってこいって言ってきてな。昨日の今日だし、せっかくだから来てみたんだが……」

この店ってガルムさんの実家だったのか。ガルムさんはうんざりしたように頭を抱えながら、遠目でこちらをちらちらと見ているアオイさんを見た。……あ、ガルムさんに手振ってる。

「姉ちゃんがさっきからずっとこっちを見てくるんだ。しかも頼んだステーキも、俺の苦手な甘い味付けになってるし……」

なるほど。アオイさんのブラコンは相変わらずらしい。……というかエスカレートしている気がするのだが、気の所為だろうか。

「大変そうっすね。じゃ、俺他の席座るんで」

「待て、見捨てないでくれ」

面倒事の気配を感じて逃げようとしたのだが、ガルムさんに肩を掴まれた。ガルムさんは縋るような瞳でこっちを見てくる。

「このままだと俺の気が休まらん。姉ちゃんをどうにかしてくれねぇか?」

「俺、アオイさんに勝てる自信無いんですけど」

アオイさんめっちゃ強いじゃん。ガルムさんの方が勝てそうだと思うんだけど。レベル高いし。……まぁ、あのままだと俺の注文も取れなさそうだしなぁ。仕方ない。俺はカウンター席の方に向かうと、アカギさんに向かってこう言った。

「アカギさん、店員さんが腑抜けてますよ」

「そうか。おい、アオイ。ガルムが来て嬉しいのは分かるが、仕事しねぇと追い出すぞ」

「すみませんでした」

プレッシャーを放ちながらのアカギさんの一言は、アオイさんを一瞬で正気に戻した。仕事に戻るアオイさんを見ながら、俺はそのまま席に座ると、注文をしようとメニューを開いた。





 

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