第四十一話 ブラコン姉、現る
その後、無事クエストの報酬を受け取り、俺達は火山からいつもの町に帰ってきた。
「あー、しんど……」
「全く、情けないわね。これしきの長旅で疲れるなんて、それでも冒険者なの?」
「うるせぇ。俺はお前らみたいな元気の塊じゃないの」
フラムに悪態をつきながら、俺は他の元気の塊を見る。
「ふふふ……久しぶりの研究対象じゃ。これからは忙しくなるぞ……!」
先程からカラドボルグの右腕に頬ずりしているシオン。こいつはカラドボルグの右腕をギルドに引き渡そうとしたとき泣いて嫌がったため、許可を得て持ち帰ってきたのだ。未知の魔物の右腕なんて危険極まりないが、本人が大丈夫そうなので大丈夫なのだろう。
「?ユーさんどうかしたの?」
きょとんとした様子で首を傾げる小原。その瞳はあの時のような光を失ったものではなく、活力に満ち溢れている。視線をそのまま向けてみると、少し顔を赤くした。
「そ、そんなに見ないでよユーさん。私に何かついてる?」
「いや、別に。元気そうだなと思って」
「うん!レベルがたくさん上がったからね!」
マジか。この短期間でまた強くなったのか。そういえば俺もレベル上がったんだよな……後でスキルでも覚えようっと。
「そういえば、ユーさんのレベルってどれくらいなの?」
「おっ、そういえば今日はいつもの店で飯でも食おうかと思ってたんだが、一緒にどうだ?」
「えっ、いいの!?」
目を輝かせる小原。危ない危ない。こんな低いレベルを見られるのは流石にな。別に見せてもいいのだが、小原は多分もうちょっと高いレベルを予想してると思うし……少し気恥ずかしい。
「…………」
そして何故か怖い目で見つめてくるフラム。何だ。俺は何を間違ったんだ。正反対から温度差のある視線に挟まれ、俺はなんだかいたたまれない気持ちになった。
翌日。久しぶりにガルムさんに会いに行くことを決めた俺は、いつも通り貰った手紙でガルムさんに指示された場所に向かっていた。
「えーと……この辺りか」
待ち合わせ場所についた俺は、辺りを見渡し、ガルムさんを探す。すると、ガルムさんらしき人影を見つけたので、思わず駆け寄ってみると……
「やっと見つけましたよガルム!ああ、久しぶりの弟成分……!」
「あ、あのアオイさん。どうかそれくらいで……」
アオイさんが、どこか白い顔をしているガルムさんに抱きついていた。ガルムさんと一緒にいたのか、アオイさんを宥めようとしていたイズモさんと目が合う。俺はぐっとサムズアップして、笑みを浮かべた。
「今日はガルムさん忙しいみたいなので、俺帰りますね」
「ま、待ってくださいユウさん!」
いつも冷静なイズモさんが、焦ったように呼び止めてきた。
「……それで、一体何があったんですか」
「ユウさんを二人で待っていたら、偶然アオイさんが来て、こんなことに……」
イズモさんは横のガルムさんを指す。死んだ魚のような顔をしていた。一体あの短時間で何をされたのか。
「ここがガルムがいつも来ているお店……」
当のアオイさんはというと、俺達が(あのままだといろいろやばいため)適当に入った店の中を興味深そうに見つめていた。ガルムさんの腕を掴んでいる手は離さなかったが。
「……なんで姉ちゃんがここにいるんだよ」
それは絞り出すような、掠れたガルムさんの声。それに対してアオイさんは実に嬉しそうに答える。
「たまたまお店が休みだったんですよ!だからガルムを探しに行こうと思っていたんですが……まさか最初に来た所でガルムに会えるとは思いませんでした!」
なんと運の悪い。ガルムさんはアオイさんと絶対に会わないような時間帯とルートを選んでいたはずなのに。……ガルムさんを気の毒に思った俺は、アオイさんに声を掛ける。
「とりあえず、ガルムさんを離してあげてください」
「嫌です」
拒否られてしまった。どんだけガルムさんに会いたかったんだ、この人は。
「なぁ、姉ちゃん」
「なんですか?」
「離せ」
「ちょっとよく聞こえませんね。というかアオイお姉ちゃんと呼んでといつも言ってるじゃないですか」
「…………」
ガルムさんが見たこともない表情になっている。明らかに嫌悪感を感じるのだが、心なしか少し怖がっているようにも見える。本当にアオイさんは普段ガルムさんに何をしているのだろう。
「……イズモさん、何とかしてくれよ」
「何とかと言われましても……流石にアオイさん相手では分が悪いですから」
マジか。どんだけ強いんだよアオイさん。そんな会話をしているうちに、料理が運ばれてくる。
「……ガルムさん、何ですかそのスープ」
「?これがどうかしたか?」
ガルムさんの前にあるのはとんでもなく赤いスープだった。なんか赤い湯気が立っているし、どう見ても危険物にしか見えない。アオイさんがジト目でガルムさんを見る。
「……ガルム、また辛い料理を頼んだんですか?そんなもの食べたらお腹を下しちゃいますよ」
「姉ちゃんが嫌いなだけだろうが。俺は好きで食ってるんだよ」
「むぅ、まだ甘い物が食べれないんですか?」
「うっせ」
……気まずい。なんというか、喧嘩をしてる人を見ているような気分だ。イズモさんも同じ気持ちなのか、そっぽを向きながら料理を食べていた。
「あ、ガルム。食べさせてあげましょう。さあ口を開けてください」
「自分で食うからやめろ!」
「じゃあお姉ちゃんの料理あげますから」
「いらんわ!」
ガルムさんが顔を青くしてアオイさんを見る。……あれ、なんか怖がってないか?ガルムさん震えてるし。俺はガルムさんから目を離し、アオイさんの方を見る。……とても嬉しそうである。少し怖い。そんなアオイさんに、俺はとても気になっていた事を聞いてみた。
「……アオイさん、普段ガルムさんに何してるんです?」
「?そうですね……普段と言っても少し前の事ですが……」
アオイさんは真剣な表情をして、指を立てる。
「膝枕とか」
ビクッとガルムさんが震えた。
「マッサージとか」
ガルムさんの震えが強くなった。
「後は――」
「や、止めてくれ!頼むから!」
「すいませんアオイさん、止めてください」
ガルムさんが顔を真っ青にしている。照れではなく怖がっているようなその様子に、俺はシンプルに怖くなったので待ったをかけた。
「……あの、アオイさんは一体何をやったんですか?やばいことやったんなら兵士さんのとこ行きましょう」
「ま、待ってください、何ですかその反応。私はただ微笑ましいエピソードを語っただけですよ!」
微笑ましいエピソードで恐怖を感じる人がいるのはおかしいだろ。
「……あの、ガルムが震えているのですが」
「イズモさん、そっとしておこう。多分触れちゃ駄目なやつだ」
ガルムさんが完全に気力を無くしている。平静を装おうと赤い激辛スープを……いやなんで激辛スープ飲んで平静保てるの?――――その後も、アオイさんのブラコンぶりは続いた。その結果。
「あの……他のお客様のご迷惑になりますので……」
かなり騒がしくしたため、普通に店員さんに注意されてしまった。納得が言っていない様子のアオイさんを、俺とイズモさんは少し引いた様子で見ていた。




