第三十九話 監禁とか洒落にならん
拘束されて二日程。洞穴の岩肌をずっと眺めているだけで何も出来ない。食事とトイレは許されているが、暇すぎて欠伸が出そうである。そんな状況で、小原は今日の飯を作っていた。
「……なぁ小原」
「ん?なーに?」
「なんでこんなに時間が立ってるのに、二人はここに来ないんだ?」
ふと気になったことを聞いてみる。さらっと流したが、もうあれから大分時間が立っているのだ。クエストの途中なのにフラムとシオンがここに来ないのはおかしい。俺の問いに小原はクスッと笑うと、
「フラムさん達ならソーさんが怪我してるって言ったら、ソーさん抜きであの黒いやつを追いに行ったよ」
「え、それ大丈夫なのか?」
「大丈夫、私も行くから」
小原は腕輪を腕にはめてグーサインをする。あれ、ということは俺もしかして……
「じゃあ早速行ってくるから、留守番しててね」
「…………」
まぁそうなるよな…………俺は小原が作っていったスープのようなものを見る。――墨汁より黒い色をしていた。何が入っているのか見当もつかない。
「まずは腹ごしらえでもするか」
割と冷静になっている自分に驚きながら、俺は謎のスープを器によそった。
「……はっ」
あれ、寝てた?いつの間に……飯を食ってたはずなんだけど。確かあの黒いスープを……
「うっ」
何故か頭痛がした。脳が思い出すのを拒んでいるようだ。俺はあの後どうなったんだろう……と、疑問を抱いていると、
「あ、起きたの?」
「小原……」
いつの間にか俺の近くに座っていた小原が、こちらに顔を向けた。腕輪の手入れをしていたのか、片手に白い布を持っていた。小原はそれを懐にしまうと、俺の方に身体を近づけてくる。
「んー……体調は大丈夫そうだね。ちょっと顔色が悪いけど」
「ちょ、近いって」
あんまりその整った顔を近づけるな。人見知りが発動するじゃないですか。俺が少し注意しても、小原はそのままの距離で離れようとしない。
「そう言えば、フラムとシオンは?多分二日くらい会ってないから心配してると思うんだが」
仕方ないので話題を変えることにした。今更だが、俺はみんなでクエストを受けたはずなのだ。仮にもパーティーメンバーの姿が見えないとなれば、二人も心配するはず。
「大丈夫。フラムさん達ならソーさんの事も気にせずあの黒いやつを追ってるよ」
「おい」
頼むから心配してくれ。確かに戦力にならないんだけどさ。様子くらい見に来てほしい。
「……そういや、あの黒いやつは一体何なんだ?」
「あー……これはフラムさん達がギルドに報告してわかったことなんだけど、あれは≪カラドボルグ≫っていう伝承の魔物らしいよ。近くの遺跡に封じられてたはずなんだけど、いつの間にかそこからいなくなってたんだって」
「へぇ……」
そんなに凄いやつだったのか。ん、待てよ?……ということは、謎でもなんでもなかったのか。ちょっと残念だな。
「最近私も戦ってるんだけど、あいつ凄く強いよ。フラムさんだって毎回ボロボロになるんだから」
「え?」
マジか。あの戦闘力の高いあいつが……カラドボルグとかいうやつはとんでもなく強いらしい。なんでそんなやつに殴られたのに俺は無事だったんだろうか。
「……やっぱり、俺もいかないと」
「……ソーさん?駄目だよ、ソーさんはここにいなくちゃ」
身体を起こすと、小原の目のハイライトが消える。少し怖いが、いつまでもこんなとこで寝てるわけにはいかない。知り合いがピンチだというのにここで寝てるだけというのは寝覚めが悪いというものだ。
「……小原。そんなに俺を守りたいのか?」
「う、うん。もちろん……」
「それならさ、小原が俺を守りながら戦う……ってのはどうだ?」
「それは……」
おっ、少し揺らいでる。もう少し押してみよう。
「俺、サポート型だからさ。小原が守ってくれたら安心して戦えるのになー」
「ぐううっ」
俺は揺らぐ小原に向けて、手を合わせて頼み込む。
「頼む!こんなこと頼めるのはお前しかいないんだ!」
「……!」
無事陥落した小原を見ながら、小原は頼られるのが好きだったな……ということを思い出していた。
鎖が取れた俺は、久しぶりに二人に会うことができた。そんなに日は経ってないはずだが、あの暗い洞窟にいると時間が長く感じるのだ。不思議である。
「よう、待たせたな」
「……別に待ってないけれど」
「そうじゃな。二日間音信不通で寝てたやつなんて、うちのパーティーにはおらん」
あれ、歓迎されてないな……心無しか睨まれているような気もする。怖いって。
「ごめん、寝てた」
「この人を埋めましょう」
「うむ、首から下を埋めて魔物の餌にしてやろう」
「本当にすみませんでした」
危うくとんでもないことをされそうになった俺は速やかに土下座した。報連相ってほんとに大事なんだね……今度から気をつけよう。
「はぁ……全くあなたは……それで、何しにきたの?」
「クエストだよ。お前らがピンチって聞いたから飛んできたんだ」
「助っ人にしては弱すぎると思うが……」
五月蝿いやい。俺だって活躍して……るよな?なんだろう、急に自信無くなってきた。
「二人共、なんてこと言うんですか!」
おお、小原!そうだよな!俺が役立たずなんて事ないよな!よし言ってやれ!
「ソーさ……ユーさんは確かに魔物に殴られて気絶したけど!私の倍強いんだよ!多分!」
「……俺、ちょっと人生やり直してくる」
全くフォローになってない小原の言葉に、俺は人生をキャラメイクからやり直す事を決めた。次はムキムキのナイスガイにでもなれたらいいなぁ……
「待って待ってごめんユーさん!ユーさんはちゃんと強いから戻ってきて!」
「小原……」
「何小芝居してるのよ。ほら、手伝いに来たんなら早速行くわよ」
「お、おう!……あのフラムさん?首根っこ掴まないでくれます?このままだとちょっと死んじゃうというか」
「よし行くぞ!目指すは奴の首じゃ!」
「おー!」
「あ、あの!ユーさんの首が締まってますよフラムさん!白目剥いてますよ!」
俺はフラムに引きずられながらクエストの場所まで連れられた。
「――――!」
「≪フレイムバスター≫!」
フラムが槍を突き刺し、カラドボルグを燃やしていく。カラドボルグは残っている右手を振るいながら辺りを荒らしている。
「……なんか、あいつこの前と様子違うくない?」
「ユーさんが気絶したあの時から、暴走状態になってるんだって。あのままだと街が襲われちゃうから、正式に討伐依頼も出てるんだよ」
岩陰から小原と様子を伺っていると、小原がそんなことを言ってきた。最近フラム達があいつに挑んでいるのはそれが理由らしい。……状況の確認を終えた所で、俺は小原にずっと気になっていた事を聞いた。
「……それで、何で俺は鎖がついたままなの?」
「ユーさんが前に出たら殴られちゃうでしょ?だから私が止めとかなきゃ」
いや散歩する時の元気な犬か。そんな事しなくても、俺はもとから前に出る気など無いのだが……というか、小原がカラドボルグの方にいくのが早いんじゃないだろうか。
「あれ、シオンは?」
「シオンさんなら魔物を出した後そこで干からびたよ」
「うおおおお!?」
小原が俺の足元を指すと、ぐったりとしたシオンが倒れていた。広すぎる荒野はこいつと相性が悪いのか。……ていうか放置すんなよ。
「えっ、てことは今戦ってるのはフラムと魔物だけってこと?」
「うん」
「いやうんじゃねぇよ!俺達も参戦しないと……」
「駄目だよ」
くっ、力が強い……!後さっきからフラムの視線が怖い。うん、分かる。はよ参戦しろってことですよね。でも身動きが……
「……っ!小原!あのままだとフラムがやられる!俺が援護射撃するからあいつのところへ行け!」
「えっ、でもユーさんが……」
「だから、お前が守ってくれるんだろ……?」
「ユーさん……!うん、行ってくる!」
若干キメ顔をしながら言った台詞が功を奏し、小原が俺を放してフラムの下へ向かった。そして何故かフラムの視線が鋭くなった。なんでだよ。




