第三十六話 消えぬ過去、新たなクエスト
≪――再起動完了。状態を確認次第、出撃を開始する≫
それはゆっくりと身体を起こすと、太い腕に付いた大剣を振るう。機械で出来た細い四つ足は、気力に満ちたかのように光っており、顔にある一つの瞳をキョロキョロと動かす。一連の動作を終えるとそれは戦車のようにゆっくりと動き出す。
≪――目標を発見次第、殲滅を開始する≫
それは足元にあった花を無情にも踏み潰した。
市場を後にした俺は、特にやることもないのでぶらぶらと歩いていた。その後ろには武器を抱えて目を輝かせているフラムと、少し疲れているようなシオンがいる。
「……シオン、俺のお菓子やるよ」
「ありがとなのじゃ……」
「大丈夫か?体力ないならもう少し外に出たほうがいいぞ」
「…………」
何故だろう、シオンの表情が厳しくなった気がする。お前が言うなということだろうか?確かに俺はあんまり外に出ないけどさ。まぁ、それよりも……
「……お前、そんなに持ってて重くないのか?」
「え?全然平気よ。槍の二本や三本」
先程買った槍を三本程持っているフラムは力を見せつけるように槍を少し高く持ち上げて見せる。どうやらいらん心配だったようだ。うーん、でも危なっかしいな。
「一本持ってやるよ。足元見えなくて転んだりしたら危ないだろ」
俺は半ば強引に比較的軽そうな槍を取る。そんな俺の行動を意外に思ったのか、フラムが驚いた表情をした。
「あ、ありがとう……」
「おう、また槍が刺さりそうになったら危ないしな」
「……こ、今度はそんな事しないわよ」
フラムはそっぽを向く。先程のアレを思い出したんだろう。恥ずかしいのか少し耳も赤い。ちなみに俺はまだ肝を冷やしている。味方に刺されて死ぬとか洒落にならん。
「それにしても、フラムってあんなに武器が好きだったのか?」
「ええ。小さい頃に、両親に見せられた凄く奇麗な武器があって……それから武具を集めるようになったの」
「へー」
そんな過去があったのか。何かにハマるきっかけってほんとにいろいろあるよな。もしかしたらこいつの鍛錬好きというのにもそういう話があるのかもしれない。
「ちなみに、俺が持ってるこれってどんな槍?」
「それはただの予備ね」
さっきの感動を返せ。
宿の部屋に戻った俺は、いつも通りベッドに座って剣の手入れをしていた。壊れることのないくらい頑丈な剣だが、汚れがあるとあまり斬れないので磨くくらいはしないといけない。唯一の救いは磨いてる時にどこも切れないことだ。安心安全な剣である。
「ふぅー……終わった」
磨き終わった剣を鞘にしまい、ベッドの近くに立て掛ける。俺はぐーっと伸びをして、ベッドに倒れ込んだ。そのまま天井を見上げる。
(……そういや、あの神様と最近話してないな)
なんとなく考えついたのは、この剣に宿っているらしいあの謎の神。思えば、この剣が黒くなってから変な夢を見ない。
(消えた……とか?でも剣が使えなくなったわけじゃないしな……うーん……)
いろいろと考え込んでいると、睡魔が襲ってくる。ド深夜だもんな、今。まぁ、わからない事を考えても仕方ない。睡魔を受け入れるように、俺はゆっくり目を閉じた。
「遅くまで何をしていたの!早く帰って来なさいっていつも言ってるでしょ!」
そう怒鳴って俺の頬を殴る義母。腫れる程ではないが、生易しいわけでもないので普通に痛い。この人がどんな風に俺を見ているのかがわかる。あれは敵を見る目だ。
「……すいません、ちょっと野暮用がありましてね」
「あの子達のために家事をやることより大切なことがあるわけ無いでしょ!」
まただ。またこの人は俺に仕事を押し付ける。十三の身にこれは厳しいのでは無いだろうか。まぁそんな事を言えばまた怒鳴られるのだが。
「……最近帰りが遅いぞ。何かやましいことでもしているんじゃないか?」
義母の横からすっと出てくる義父。相変わらず俺に対する信頼はゼロのようだ。ここまでするなら何故俺を引き取ったのか謎ですらある。
「別に、いつも通りじゃないですか?」
「時計を見ろ。十分遅い」
十分なんて誤差だろ。帰宅するときに少し遅くなったりするのは普通のことじゃないか。と心の中で悪態をつく。
「もういいですか?こっちは家事と勉強、やらないといけないんで」
「…………」
「待ちなさい!まだ話は終わってな――」
何かを言われる前に、俺は自室に駆け込んだ。
「……またか」
窓から差す日差し。それがちょうどベッドの所に当たり暖かくて心地よい。気持ちの良い朝に対して、俺の気分は最悪である。
(またあの頃の夢かー……最近はなくなってきたんだけどな)
何度も何度も見てきた悪夢。不思議と怖さというものは無くなってきて、今ではちょっとうざいっていうくらいの感情になった。昔の記憶ならせめて俺のきょうだいを映して欲しい。
「……ユウとサオリ、どうしてるかな」
日本に残してきた弟と妹。俺みたいに親から無理難題を課せられてないだろうか。いや、ないな。だってあの人達二人を大切にしてたもんな。昔から愛されてた二人と、昔から嫌われてた俺では比べ物にならないだろう。
(だから俺はここに残った。俺の居場所はもうないから)
二人にいったその言葉。あれは紛れもなく俺の本心であり、ずっと目を背けてきた真実だ。でも、そう思ったからこそ今の俺がある。見知らぬ世界に戸惑うこともなく、常識外れの出来事も驚くだけで済む。それが普通のことなのかはわからないが、元の世界に帰らなくても俺が平常心でいられるのは俺にとってこれが普通だからだ。……って、朝から何を考えてるんだ俺は。
「……寝よう」
幸い用事もなかったので、俺はそのまま二度寝することにした。
昼。なんとか三度寝することはなく起きた俺は、フラム達から呼び出しをくらい、ギルドに来ていた。
「あっ、来たわね。ユウー!」
フラムがこちらに手を振ってくる。……どうやら先に来ていたらしいフラムは、ギルドにある椅子に座っていた。その近くにはシオンと小原がいて、三人で机を囲んでいた。……ん?なんで小原が?俺は不思議に思いながら三人の下へ。
「なぁ、フラム。なんで小原がいるんだ?」
「今回受けるクエストは四人以上じゃないと受付拒否されるの」
「ほう」
そんなに難しいクエストを受ける気なのか。……あれ、なんで俺にその要件伝えてくれなかったん?俺パーティーメンバーだよね?まぁいいけどさ。
「一体どんなクエストなんだ?」
「最近、この近くに謎の魔物が現れるらしいの。それを調査するクエストよ」
ふーん、謎の魔物か……この世界は割と未知の領域にある事が多いのかもしれない。でも、なんか俺、その未知の領域に触れる事が多いような……気のせいだろうか?
「内容はわかったけど、それの何処が難しいんだ?」
俺がそう言うと、フラムが呆れた様子で、
「未知の魔物なんてどれくらいの強さがあるか分からないし、何をしてくるかもわからないでしょ」
「なるほど」
「そうじゃぞ。未知は冒険者にとって一番の敵じゃ」
「へー、そうなんですね!」
フラムに続いて教訓めいたものを言うシオンと、相槌をうつ小原。何だか上司と部下みたいになってるな……
「それで?何かその魔物の特徴とかないのか?」
「そうね……目撃者の情報によると、そいつは全身が真っ黒だったそうよ」
「大剣を持っておったと聞いておるな」
「とにかくでかいらしいよ」
「いっぺんに言うんじゃねぇよ」
聖徳太子じゃないんだ俺は。
「……とにかく、でかくて黒くて大剣を持ったやつを探せってことだな」
「そういうことよ!」
ほんとに良いのかそれで。




