第三十四話 幼馴染、ただし最強
「――ソーさん、どうしたのそれ」
「ん?これか?ちょっと擦りむいてな」
そう言って彼は笑う。明らかに殴られたような傷であるそれを、顔に作って。
「そう言えば、聞いたか?今度あのラノベの新刊が出るんだってよ」
「えっ、ほんと!?これは買いに行かないと……!」
しかし、まだ中学生だった私は、それに気付くことは無く……目先の希望に目を奪われていた。
「小原、俺よりもラノベハマったよな……」
「えっ、そうかな。こんな風に友達と趣味を共有することってなかったから……嬉しいかも」
「……良かったな。何か悩み事があったら俺に言えよ」
ソーさんはこの時、何処か昏い目で私を見ていたような気がする。
「う、うん」
私は戸惑いながらも頷いた。
「さて、今日はどうする?放課後に本屋でもよるか?」
「もちろん!」
「……そうか」
そう元気に返事をする私。――この平穏がいつか壊れるなんて、私は予想できるはずもなかった。
突然小原に言われた、クエスト協力要請。断る必要もないので、俺はフラムとシオンを誘ってその頼みを受けることにした。
「……小原、どうしたんだ?」
せっかく二人を連れてきたというのに、小原は気の抜けたようにぼーっとしている。俺が声を掛けると、小原はハッと我に帰った。
「あ、えっと。ユーさんって、知り合い多いなー……って思って!」
「お、おう」
そう言えばこいつはぼっちだった。友達の友達に合うのは気まずいのだろう。わかる。俺もぼっちだったしな。
「改めて紹介するよ。パーティーメンバーのフラムとシオンだ」
「こんにちは、貴女が小原ね。私はフラムって言うの」
「天才魔族のシオンじゃ」
「は、はい!よろしくお願いします!私のことはエイカって呼んでください!」
おお、小原が頑張って話しかけてる。前は大分人見知りだったのに。俺と初めて会ったときも、「あ、あの……」って感じでめっちゃ声吃ってたし。
「エイカ、じゃな!」
「よろしく、エイカ」
「は、はい!」
小原は屈託のない笑顔で微笑むのだった。
「それで、クエストの内容はなんだ?」
「えっと、マンティコアの討伐だよ。このクエスト二人以上じゃないと受けれなくてさ」
クエストの内容はあのマンティコアらしい。……いや、マジかよ。マンティコアってあの推奨レベル60の大物だろ!?俺のレベルようやく20になったくらいなんだって!
「俺、そんなにレベル高いわけじゃないんだけど。小原はレベルどれくらいなんだ?」
「そうだね……46くらいかな」
たっか。えっ、小原が来たのは最近のことだったよな?何で抜かされてるの?才能の差?
「ユーさんは?」
「えっ?そうだな……小原よりかは低いかな?」
「そうなの!?ユーさんなら絶対高いって思ってたけど……」
小原の純粋な視線が痛い。だって俺弱いじゃん。強い剣を持ってるだけで本体は貧弱だよ?
「俺はそんな凄いやつじゃないよ。小原のほうが運動神経もいいし、強いんじゃないか?」
「うーん……強いて言うなら、私の≪チート≫のせいかも」
小原は手に着けている腕輪を見せてくれた。何やら黒い宝石が中央に飾られており、造りはとてもシンプルなものである。これが……チート?
「何だこりゃ?」
「≪黒曜の腕輪≫だって。この腕輪のギアを回すと、一瞬で黒い鎧姿になって、身体能力が格段に上がるらしいよ」
「……らしい?」
どういうことだろう。お守りみたいなことなのか?と、小原は俺の疑念を打ち破るようにギアを回した。
≪メタモルフォーゼ≫
「……!?」
突如、声が響いた。それが俺の耳に届いたと同時に、小原の姿が変化する。先程の言葉通り、小原は黒い鎧に包まれていて、赤い瞳を付けた仮面のようなものを身につけていた。
「……もしかして、エイカなの?」
「凄いの!くーるな格好じゃな!」
「えへへ……あっ、マンティコアはあっちみたいですよ!行きましょう!」
「こ、小原!早い早い!」
俺があっけに取られていると、身体能力が上がった小原はマンティコアの方に向かってしまった。……一瞬で姿が見えなくなったんだけど。
「何ぼーっとしてるの。エイカを追いかけるわよ」
「……お前ら、何でそんなに冷静なんだよ」
「似たようなものを見ているからの」
おい、何で俺の方を見るんだよ。
「キュルルルルルアアア!!」
「はあっ!」
走っていった小原に追いつくと、もう戦闘が始まっていた。小原は腕輪から何かを放ってマンティコアを撹乱させている。マンティコアはいつかのキメラと殆ど姿は変わらないが、魔力がとても高く、キメラより強い技を放ってくるらしい。ブレスとか状態異常とか。押し倒すことはしてこないが、好き嫌いなく何でも食べて生命を維持するらしい。人間も例外ではない。
「ていっ!」
「ギュア!?」
「……エイカ、マンティコアを圧倒しているわね」
「凄く強い力で殴っているようじゃな。マンティコアは物理防御が硬いはずなのに効いておるぞ」
呆れたようにそういう二人。……うん、俺達はいらなかったのではないだろうか。
「エイカ、危ない!≪フレイムブレイク≫!」
「キュルル!?」
小原の横からマンティコアの爪が降りかかるが、フラムがそれを叩き落とす。訂正しよう、いらないのは俺だけだ。
「≪スポーン≫!エイカ!こいつに乗って高く飛ぶんじゃ!」
「ありがとうございます!たあっ!」
シオンも何か役に立とうとしたのか、魔物をジャンプ台として提供した。小原は言葉通りそれを踏み台にすると、高く高く飛び上がる。
「……≪オニキスフィニッシュ≫!」
小原はマンティコアに向かって飛び蹴りをかます。小原はそのままの勢いでマンティコアを貫くと、くるっと回転して着地した。すると、マンティコアが爆炎を上げて爆発する。
「ええー……」
日本の特撮ヒーローみたいなデタラメ光景に、俺は唖然とするしかなかった。
「――クエスト達成、おめでとうございます!こちら、マンティコアの討伐賞金となります!」
「ありがとうございます」
小原は賞金を受け取って俺達に分ける。同じ量ずつに配分するはずだったが、あまりにも俺が役に立たなかったので大半は他の奴らに譲った。
「いいの?そんなに少なくて」
「働きのいい奴が多く貰うべきだろ。気にすんな」
小原は申し訳無さそうにこっちを見てくるが、俺の方が申し訳無いのでさっと引き下がる。いや、それにしても……
(俺の周りの人って強い奴多すぎだよな)
あまり考えたことは無かったが、もしかして俺の弱さは相当酷いのかもしれない。今まで会った転生者は明らかに俺より強かったし。その上一番身近な小原まであれとなると――――この話は止めよう。悲しくなってきた。
「……ユウ、何で目元を手で押さえてるの?」
「目にゴミが入ってな」
「ふーん」
ふーん、で流されてしまった。フラムはなんとなく俺と小原を見つめると、俺の方に顔を寄せてきた。
「……エイカって、確か貴方の友達なのよね?なら、あのめちゃくちゃな戦い方の秘密を知ってたりするのかしら」
なるほど、そういえばこいつは武闘派だった。あんなものを見せられたら気になるのは当然だろう。ぶっちゃけ俺も気になっている。あれ装備してあの凄いキックやってみたい。
「あの腕輪から鎧が出てきて一瞬で装備されるんだと。そうすると身体能力が上がるみたいだ」
特に秘密にしなくてもいいかと思い、俺は小原から聞いたことを簡潔に述べた。フラムは納得したように頷く。
「……凄いわね。私でもそんなことは出来ないわ」
「そんなことないだろ。お前なら飛び蹴りの一つや二つ出来るって」
「……貴方は私を何だと思っているの?」
身体能力抜群の脳筋。




