第三十三話 明るいぼっち
俺の友達、小原エイカに会ってから数日。俺はまたクエストに来ていた。もちろん、蛇はなしで。
「それで?今回はなんの魔物なんだ、フラム」
「ふふん、それはお楽しみね」
「いや、教えてくれよ」
対策出来ないだろうが。そういうのはクエストじゃなくて日常生活とかでやって欲しい。トラブルを招きそうなサプライズはいらん。
「冗談よ、今回の目標はオークナイト!推奨レベル40程度の大物よ!」
オークナイト?オークって確か豚頭のあいつだよな……強いのか弱いのかよくわからんやつ。いや、ナイトって何?
「オークナイトってなんだ?聞いたことないけど」
「オークナイトは、金属製の鎧や武器を身に着けたオークよ。凄く知能が高くて、高レベル冒険者と互角を取れる個体もいるわ」
ガチ強いやつじゃねぇか。確かに蛇以外とは行ったけど、もうちょいマシな奴はなかったのかよ。と、俺が不安そうにしているのを感じたのか、シオンが安心させるようにそう言った。
「大丈夫じゃ、オークナイトは人間の騎士道と似たようなものをもっているのか、戦意を失ったものを殺そうとしないのじゃ」
なるほど、死ぬことはないってことか。……ん?待てよ?
「なら倒す必要は無くないか?魔物に困ってるからクエストが出てるんだろ?」
俺が出した問いに、同じくシオンが答える。
「……正常な個体は、の話じゃからな」
「なんだよ、どっちにしろやばい奴じゃん!俺ほんとに大丈夫なのかよ!」
「「大丈夫大丈夫」」
俺の低いレベルを忘れたらしい二人が声を揃えて言う。……でも、マンティコアとかは無理だしなぁ……仕方ない。
「わかったよ。その代わり無理そうになったら撤退だからな」
「もちろん。私も死にたくはないもの」
「うむ、儂は天才魔族じゃから大丈夫じゃ」
二人はぐっとサムズアップをした。
「あいつがオークナイトか?」
「ええ、そうね。頭に黒くなっている鎧があるから、間違いないわ」
そう言って木陰から豚頭の魔物を指すフラム。シオンから聞いた話だと、オークナイトは自ら防具を拾う習性があり、見つけたらなんでも拾ってしまうらしい。それで時々呪われた装備を身に着け、暴走する個体がいるのだとか。いや、怖いよ。なんだよ呪われた装備って。
「よし、シオン、作戦通りで頼むぞ」
「任せるのじゃ!≪メガスポーン≫!」
大型の魔物がオークナイトに飛びかかる。それを察知したのか、オークナイトがこちらを向いた。……顔がいかつい。
「…………!」
「来たぞ!」
オークナイトはシオンの魔獣を切り裂き、盾と剣を構えてこちらに走ってきた。身のこなしが熟練の兵士のようで、本当に勝てるのか不安になってくる。
「≪ランダムスチーム≫!」
勢いよく突進してきたオークナイトが煙に包まれる。毒の状態異常を引いたのか、オークナイトは苦しそうに身をよじった。そこを逃さず斬る。最も、俺の腕力なんてたかが知れているので、斬るのは俺ではない。
「せいやあああ!」
「…………!?」
フラムがオークナイトの黒い鎧を思い切り叩く。黒い鎧は砕け、オークナイトは糸が切れたかのように動かなくなった。
「よし、やったな!」
「……まさか、こんな倒し方があるとはの」
オークナイトを見て驚くシオン。そう、オークナイトは普通こんな倒し方をしないらしい。だいたいは呪いの武具ごと倒されてしまう。しかし、俺にははっきり言ってそんなことは出来ない。だからこう考えた。――呪いの武具を壊したらどうなるのかと。思ったより上手く行ってよかった。
「ねぇ、オークナイトが起き上がっているわよ」
「えっ」
見ると、意識を取り戻したのかオークナイトが先程の所に立っていた。オークナイトはこちらに歩いてくる。やばい、やられる……?と、剣を構えたところ……
「失礼、あの黒い武具を破壊したのは貴殿か?」
その後の紳士な発言にあっけに取られた。今の誰?えっ、もしかしてオークナイト?
「うっかり呪いの武具を拾ってしまって困っていたのだ。感謝する」
「あ、はい」
え、オークナイト……?めちゃくちゃ紳士じゃん。人間の言葉ペラペラじゃん!ふと、フラム達の方を見ると、戸惑ったような顔をしていた。
「えーと……助かったなら良かったです」
「本当にありがとう。良かったら貴殿の名を教えてくれないか」
「ユウって言います」
「ユウ殿か。死ぬはずだった私を救ってくれたこと、礼を言う。それでは、私はここで」
そう言ってオークナイトは去っていった。声がすげぇダンディーだったな……と思った。
紳士なオークナイトと別れて、ギルドに。どうやらあの方法でも倒したという判定になるらしく、無事に報酬が貰えた。流石は高レベルのモンスター。報酬も高レベルだった。財布が重くなった俺は、いつもの通り食堂に。なんだろう、最近食べるくらいしかやることがない。虚しい。
「おう、どうしたんだ?ユウ。そんな暗い顔してよ」
「あっ、アカギさん」
席について顔を上げると、アカギさんが料理を持ってきてくれた。今日はアオイさんが厨房らしい。この店ってなんで従業員が二人しかいないんだろう。不思議だ。
「いやー最近暇になることが多くてですね……」
「そうか。だったらこの店の手伝いでもするか?」
「え、いいんですか?」
「いいってことよ。丁度人手が足りなくてな」
「あー……」
納得。
という訳で、エプロンを着けて接客業をすることに。大丈夫かな?経験ないんだけど。変なことしたらどうしよう。
「店員さん、ちょっと注文したいんだけど―!」
「おい、飯はまだか!」
「はい、ただいま!」
そんな事を思っているうちに大繁盛である。なんともタイミングの悪い。一応、アカギさんにレクチャーを受けたのでなんとかなっているが……
「おい、ユウ!注文の品を早く運べよ!」
「はい!」
大変だ。日本でバイトしてる高校生もこんな感じなのだろうか。
「うわっ!サラダにマンドラゴラが!」
「ユウ、早く駆除するんだ!」
「ええっ!?」
……こんな感じ……ではないよな。そうして、マンドラゴラを駆除したり、お客の注文を受けたりと、俺はとにかく頑張った。
「ふー……疲れた……」
「お疲れさん。よく山場を乗り切ったな。もしかして、こういう仕事をしたことがあるのか?」
「いや、ないです」
「そうなのか。それでも良い働きぶりだった。少しだが給料も出るからな。それでゆっくりしてくれ」
マジか。なんだか得した気分だ。軽いノリで引き受けたのにいいのだろうか。アカギさんはそこで話を切ると仕事に戻っていった。さて、俺も夜まで引き受けるって言ったし、もう少し頑張るか。
「あの、注文したいんですけど……」
「はい!ただいま……?」
呼ばれた方に行くと、見覚えのある黒髪少女が座っていた。少女はこちらを見ると、目を見開いて驚く。
「えっ!ユーさん!?」
「小原?なんでこんな所に」
「そ、そりゃ私だってご飯くらい食べるよ。丁度仕事終わりだし」
「仕事?お前が?」
「どういう意味かなユーさん?」
いや、お前めんどくさがりじゃん。俺はお前が「休日はだらけるのが一番だよね」って言ったの忘れてないぞ。
「むー……私だってやるときはやるんですー」
「悪い悪い。それで何の仕事?」
「それはもちろん冒険者!」
なるほど。まぁこいつ運動神経はいいからな。何で帰宅部だったのか謎なくらいにはいい。
「つまり、同業者ってことか」
「そうなの!?じゃあ協力してよユーさん!どうしても一人じゃ受けれないクエストがあってさぁ!それをやらないとお金が尽きるの!」
小原が突然大声を上げたので、回りにいた一人二人の客がこっちを見てくる。そう言えば業務中じゃん。俺は慌てて小原を宥める。
「わ、わかった。その話はまた後でな。今仕事してるから。注文をくれ」
「う、うん。えっと、このパンケーキを……」
お前もパンケーキかよ。




