第三十二話 すみません知らない人です
私は小原エイカ。今年十六歳になったばかりの高校生である。突然だが、私は先程不慮の事故で死んでしまった。
「……あれ?ここ、何処?」
死んだ、はずなのだが……私は、五体満足で妙な所にいた。なんだろここ……白黒で四角い……そうやって辺りを見渡していると、目の前にいきなり人が現れた。
「うわっ!?」
「ふぅー、遅刻するところでした……あれ?もしかして亡者の方ですか?」
亡者……確か死んだ人のことだっけ。私、ほんとに死んじゃったんだ……
「ううっ、そうです……」
「な、泣いてる……?大丈夫ですか?見たところ死んだばかりでしょうから、まずは落ち着いてください」
金髪の女の人はハンカチを手渡してくれて、何故か椅子まで用意してくれた。
「……そうですよね、これが普通の反応ですよね……」
女の人は何か呟いているみたいだったけど、小さすぎて聞き取れなかった。
「……あの、ありがとうございます」
「いえいえ、仕事なので。……さて、若くして死んだあなたに二つ選択肢を与えましょう」
……こ、これは!?死んだ友達に教えてもらった異世界転生展開!?ラノベ好きの友達が言っていたあれ!?
「一つは、天界に行き亡者として永遠の時を過ごす。もう一つは、別の生物に生まれ変わる」
「どっちも嫌です」
全然違った。よく考えたら、死んだらそこで終わりだよね……期待して損した。
「……そ、そうですか。それなら、あなたにもう一つ選択肢を与えましょう。それは、あなたのいた世界とは別の世界にそのまま転生するというものです」
「!」
ほ、ほんとにあった。疑ってごめん私の友達!ぼっちの私に仲良くしてくれてありがとう!
「それでお願いします!」
まだ私は生きてやりたいことがある!こんなところで終わるわけにはいかない!
「それなら、こちらから特典をお渡しして、そのまま転送という形になります」
「はい!」
私は天使の人に案内されて、特典を選びに行った。
人生とは、何が起こるかわからないものである。例えばゲームばっかりしていた人がいきなり勉強に目覚めたり、平々凡々だったやつがいきなりめちゃくちゃイケてるやつになったりする。そう、だから……
「せいっ!おりゃ!……フラム!シオン!こっちの配分おかしくないか!?」
「キシャアア!」
「うわっ!?ちょっと待って!食われる!」
「おかしくないわよ―!もうちょっとでシオンの魔法が……あっ」
「どうした!?何かあったのか!」
「……シオンが丸呑みされたわ。ちょっとそっちに行ってくる!」
「おい、もう帰ろうってえぇ!」
……日本でぬるま湯に浸かってた俺が、クエストでこんなに苦労することになるのも普通のことなのである。
「……なぁ、あんだけ頑張ったのに蛇二匹は割に合わなくないか?」
街に戻ってきた俺達は、疲労感を漂わせてトボトボ歩いていた。横には土まみれのフラムと、何かねっとりとしたものが所々付いているシオン。クエストの失敗は明らかであった。
「しょうがないじゃない。まさかグランドスネイクがあんなに子供を生んでるなんて思わなかったのよ」
グランドスネイクは、その名の通りでかい蛇だ。生物を見つけたらなんでもかんでも丸呑みにし、それを養分として子供を生んで繁殖していく。しかも一匹で。
「いや、なんで子供の蛇まで丸呑みしてくるんだよ。俺の膝丈くらいしかないのに」
「グランドスネイクの子供は口と胃袋が大きいのよ」
怖い。流石は異世界だ、生物の次元が違う。俺はフラムから目を放し、先程から無言のシオンに話しかける。
「シオン?大丈夫か?報告終わったらすぐ風呂にいけよ?」
「…………」
「駄目ね。さっきの蛇がトラウマになっているわ」
「駄目ね、じゃねーよ。もっと他にクエストはなかったのか?」
俺の問いに、フラムは首を横に振った。
「最近は強い魔物が増えているらしくて。これでもマシな方を選んだのよ」
「ふーん、他は何だったんだ?」
「マンティコア、パーフェクトゴーレム、っていったところね。どちらも推奨レベルが60を越えているわ」
「……蛇でよかったな」
少なくとも、二体狩れたのはラッキーと思うべきか。
「……はぁ」
ため息を吐きながら、料理を口に運ぶ。今日の飯はサンドイッチだ。そろそろ米が食いたいところだが、そんなものはない。だから肉と野菜のサンドイッチを食うしかないのだ。切ない。
「なにため息吐いてるんですか。ご飯は元気に食べるものですよ」
「……あっ、アオイさん」
話しかけてきたのはお盆を持ったアオイさん。アオイさんは俺達の様子を見て首を傾げた。
「あら、フラムさんは?」
「あいつなら蛇にリベンジしに行きました」
フラムは帰ってきて装備を整えると、「ちょっとあの蛇を狩ってくるわ」と言ってどっかに行ってしまった。ふっ軽だ。そしてもう一人は……
「……シオンさんはどうしたんですか?」
「蛇怖い……蛇怖いのじゃ……」
ぶつぶつ言いながら身体を震わせている。お前の食ってる唐揚げさっきの蛇って言ったらどんな反応するんだろ。まぁ冗談だが。
「蛇に丸呑みされたらこうなりました」
「丸呑み……もしかしてグランドスネイクですか。確か、魔道士を好んで飲み込むんですよね。あのときはほんとに苦労しました……」
「えっ、アオイさんも呑み込まれたことあるんですか?」
アオイさんも、そんな失敗をすることがあるのか。意外だな。凄腕と聞いていたから向かう所敵なしとかだと思っていたのだが……
「ええ、中が気持ち悪かったので身体の中を凍らせて内蔵を砕きまくりました」
知ってた。そりゃあアオイさんだもんな。蛇に飲まれたくらいでなんともないよな。それにしても倒し方グロ過ぎるだろ。
「あっ、お客さんが来ましたね。また後で。シオンさん、元気出ると良いですね」
アオイさんは注文を取りにいった。そう言えばこの店ってアオイさんしか店員さんいないよな……ワンオペ?
「……アオイは一体どうなっているんじゃ」
「おっ、正気に戻ったか。まぁ今日は安静にしとけよ」
「うむ……ありがとなのじゃ」
シオンは唐揚げを食べながら飲み物を飲む。そう言えば、この世界は飲酒年齢とかどうなっているんだろう。俺でも飲めたりするのだろうか。そんなことを考えていると……
「……ソーさん?」
「ん?」
なんか今、懐かしい名前が聞こえたような。辺りを見渡してみると、こっちを見てる黒髪の眼鏡少女がいた。さっきのお客さんだろうか。あれ、あいつどっかで……
「ええ!?ソーさんだー!」
黒髪眼鏡少女はこちらに歩いてきて、俺の手を取った。
「ちょっ、あんた誰だよ。俺はソーさんとかいう名前じゃないぞ」
「いやいや、ソーさんじゃん!その暗い瞳と平坦な声はソーさんしかいないって!」
引っぱたいてやろうか。誰が暗い瞳だ。日本人ならみんなそうだろ。え、違うの?
「ええと、お知り合いですか?」
「知らない人です」
「ええっ!?」
眼鏡少女がショックを受けた。いや、知らない人だよ。俺の記憶に無いんだから知らない人だろ。
「あっ、そうか。ソーさんには眼鏡外した方で会ってたっけ……よいしょ」
眼鏡少女が眼鏡を外す。眼鏡であまり彼女の目が見えなかったのだが、これではっきり見えるようになった。なんというか、可愛らしい雰囲気の少女という感じだった。……やっぱり何処かで……あっ。
「……小原?」
「そうそう、小原エイカ!中学校の時よく遊んでたじゃん!」
「えっ、マジ?」
小原エイカ。俺の数少なすぎる友達である。というか彼女しか友達はいなかった。別々の高校に上がってちょっと連絡を取るくらいには仲は良かった。まぁ親がそういうの厳しかったからほんとにちょっとなんだけど。……いや、そうじゃねぇ!もっと違う問題があるだろ!
「お前なんでこんな所にいるんだ?」
「あはは……事故に巻き込まれまして……」
「そ、そうか」
マジか。今度は本当に死んでるパターンか。それにしても、あの小原が事故……?
「やっぱりお知り合いだったんですね。今料理を取って来るのでどうぞごゆっくり」
「はい!ありがとうございます!」
元気だ。あの頃とあんまり変わらないな、こいつは。そんな風に懐かしく思っていると、小原が向かいの席に腰掛けた。
「……なんじゃお主は」
「あっ、ソーさんの知り合いですか?私、小原エイカって言います」
「儂はシオン。よろしくなのじゃ」
シオンが唐揚げを食いながら挨拶をする。小原はにこにことしながら、俺の隣に座った。
「ふふっ、まさかソーさんに会えるなんて。ラッキーだね」
「……小原、ソーさんはちょっと……」
それ、本名もじったやつだから。言いふらされたら俺の名前がバレる。
「えー、なんで?」
「俺、ちょっと諸事情で名前がユウになって。出来たら、新しいあだ名にしてくれないか?」
「?うん、わかった!友達の頼みだもんね!」
「……ちょろいの」
シオンは小声でそう言った。うん。俺もそう思う。こいつは将来絶対詐欺にかかると思ってた。
「じゃあ、ユーさんで!」
小原は嬉しそうにそう宣言した。




