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第三十一話 この世界で、君と


「ただいま……」

数日後。俺達は火山から元いた町に戻ってきた。俺は宿屋の自分の借りている部屋に入り、ベッドに寝転んだ。剣をベッドの近くに立てかけ、天井を見上げるように上を見る。フラムとシオンも自分の部屋に戻り、疲れた身体を休めるようだ。近くの公衆浴場に行くんだとか。

「それにしても、あれが2週間ちょっと前のことなんてな……」

俺はこの間に何処かに行っていたらしく、いろいろあって二人が探しに出たそうだ。申し訳ないのだが、あの時の記憶は全くない。だから、実感もわかないのである。その結果、皆に心配をかけてしまった。フラムとシオンは俺のその時の状況を知っていたらしいが、流石に口調が変わってデーモンとか言っていたのはすぐには信じられない。デーモンって何?魔界の帝王?

「……考えても仕方ないか」

疲れの溜まっていた俺は、身体を拭いてそのまま寝た。


翌日。俺はいつものように食堂に来ていた。なんとなく机に突っ伏していると、アオイさんが話しかけてきた。

「おはようございます、ユウさん。……あれ?今日はサオリちゃんはいらっしゃらないのですか?」

「……あー……えっと、数日前に帰っちゃいまして……アオイさんにお礼を言っておいてと言われましたね」

「え、そうなんですか?残念です。きょうだい談議をしようと思っていたのに……」

がっくりと肩を落とすアオイさん。まさか異世界に帰ったとは言えず、何だか申し訳ない気分になった。

「……またこっちに来たら合わせますよ。いつになるか分かんないですけど」

「本当ですか!?嘘ついたら高級メニューですよ?」

早まったかもしれない。大丈夫だ……嘘は言ってない。俺が注文を終えると、アオイさんはカウンターに戻っていった。

「はぁ……」

おかしい。身体に力が入らない。熱があるわけではないが、強い脱力感を感じる。どうやら、自分が思っていたより、ユウとサオリとの別れが効いているようだ。

「……何ため息ついてるのよ」

「うおっ!?」

椅子に持たれかかって天井を見ていると、突然声をかけられた。めっちゃびっくりした。俺は声の主に文句を言う。

「おい!急に声かけるなよ!びっくりするだろ!」

「大げさね。もっと普段から気を引き締めたらどう?」

声の主――フラムは呆れたようにこちらを見てくる。だってこんな早朝に声かけられるとは思わないじゃん。見ろよ、俺ら以外に客いないんだぜ。

「すいません、パンケーキを一つ」

「はーい、しばらくお待ち下さい!」

注文始めてんじゃねえ。後、アオイさんいつの間に来たんだよ。足音もしてなかったんだけど。……しかもまたパンケーキかよ。どんだけ好きなんだ。

「またパンケーキかよ。飽きないのか?」

「飽きるわけがないじゃない。パンケーキはいくらでも味変出来るんだから」

……それ飽きてないか?

「お待たせしましたー」

フラムと話していると、丁度注文した料理が来た。フラムの前にはパンケーキが置かれ、俺の前には……

「……サラダと唐揚げ」

どうやら、同じものを頼んでたのはフラムだけじゃなかったらしい。


食事を終え、やる気も出ないのでクエストにも行かずぶらぶらと歩いていると、後を追ってきたフラムに見つかった。隣を歩き出したのでついてくるつもりらしい。

「……何だよ」

「別に。辛気臭い顔してるから話を聞こうと思っただけよ」

辛辣ですね。もっと俺を労ってほしい。

「……もしかして、二人の事?」

「…………」

……いい勘してますね。何なの?俺ってそんなにわかりやすいの?もう顔隠そっかな。心読まれるの恥ずかしい。

「そうだよ。二人がいないからちょっと寂しくなったんだ。まぁその内良くなるよ」

はぐらかしたら追求されそうなので素直に答える。フラムは少し驚いた顔をすると、ニヤニヤとしながらこっちを見てきた。

「ふーん、そうなのね」

「何だよ、別にいいだろ?しばらく会えてない奴に出会えたんだから」

くっ、何だこの恥ずかしさ……!漫画で見た素直じゃないキャラは皆こんな思いをしてたのか……?だからツンデレって言葉が生まれたんだろうな……そんなどうでもいいことを考えていると、フラムが俺に手を差し出して来た。

「どうした?」

「寂しがりやと手を繋いであげようと思って」

「よし決めた、お前を眠らせて町の中に放置してやる」

これ以上馬鹿にされては堪忍袋の緒も切れるというもの。見てろよ、この剣の錆にしてくれるわ。

「残念、私は最近状態異常耐性のスキルを得たから並のものじゃ効かないわよ」

「くっ……」

くっ、こいつ……!俺が悔しげな顔をしていると、フラムはフフッと笑い出す。……宣戦布告ってことでおけ?

「ふふっ……貴方ってあまり冗談が通じないのね」

「おう、俺は真面目くんだからな」

何故か微妙そうな顔をされた。解せぬ。何だか阿呆らしくなり、俺は睨むのをやめた。冗談なら真面目にする必要はない。これは教訓だ。

「ちょっと、早く歩かないでよ」

「うっさい」

「あ、もしかして拗ねてる?」

「拗ねてませんけどー?」

そう、これは理不尽な仕打ちに対する抵抗。決して拗ねているわけではない。断じて。そう思いながら早歩きしていると……ふと、手のひらに温もりを感じた。見てみると、フラムが俺の手を握っていた。

「……宣戦布告ってことか?」

「ち、違うわよ。さっき言ったじゃない」

さっき……?真面目くん……違うな、もうちょい前だわ。あっ、寂しがり屋と手を繋いであげようって奴?

「……あの子達がいなくても、私達がいるじゃない」

「……フラム」

なるほど。さっきのはこいつなりの優しさってことか。……それにしては毒があった気がするんだけど。でもちょっと嬉しいな。そんな友達あんまりいなかったし。

「ありがとな」

「っ!?」

素直にお礼を言うと、フラムが赤くなった。……どうしたんだこいつ。そんなに動揺すること言ったか?

「……え、ええ!感謝しなさい!」

フラムは動揺しながら胸を張って威張る。その上から目線がもうちょい直ったらな……と、手のひらの温もりを感じながら思う。……何気に俺、家族以外と手繋ぐの初めてかもしれん。

「それで、今日はどうするの?」

「ん?適当に歩いて、帰って寝るだけだけど」

「……クエストに行けとは言わないけど、もっと他にやることはないの?」

「ない」

この世界の本は高くて買えないし、寝るくらいしかやることがないのだ。唯一の趣味が消えて残念だが、その代わりやらないといけないこともないので楽である。大人ってこういう感じ?俺がそう言うと、フラムはため息を吐きながら、

「なら、シオンも誘って何処かに出掛けましょうか」

「おう、いってらっしゃい」

「何言ってるのよ、貴方も来るの」

「え」

「ふふっ、せっかく休むんだったら寝るだけじゃ勿体ないでしょ?」

フラムは笑いながら俺の手を引く。まだ呆然としながらそのまま手を引かれるが、俺の心には確かに喜びの感情があった。――照らされた陽の光は、俺達を優しく包んでいた。





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