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第三十話 別れ、そして始まり


「……という訳で、こちら天使のミリアさん」

「いや、どういう訳?」

翌朝。サオリからいきなり呼ばれたかと思えば、天使を紹介された。いや、嘘でしょ?ほんとに天使いたの?

「えっと、ミリアと言います。お久しぶりですね」

「え?どっかで会いました?」

そう言って、ミリアさんの姿をよく見る。……あっ、もしかして……

「俺が死んだときに出会った天使さん?」

「はい、その通りです」

ミリアさんはそう言うと、背中に羽のようなものを出す。そして頭に輪っかを出すと、あの時と瓜二つの姿になった。

「おお!本当に輪っかと羽が!これは一体どういう原理で……!」

「や、止めてください!もう触られるのはごめんです!」

興奮したシオンがミリアさんに近づくが、何かを思い出したのかミリアさんは怖がるように拒絶する。……なんでサオリは目を逸らしているんだろう。何かやったのか?

「……こほん、話が逸れましたね。改めまして……こんにちは。谷口ユウ様と谷口サオリ樣を元の世界に迎えに来たミリアと申します」

「…………元の……世界に?」

なるほど。つまり、二人が元の世界に帰る手段が見つかったということか。いやー良かった良かった……

「えええ!?マジですか!?」

「マジです」

冷静に返してくれるミリアさん。対して俺は動揺しまくりである。嘘だろ……!こんなあっさり見つかるのかよ!なんか思ってたのと違うんですけど!……まぁ楽で良いんだけどね?

「よ、良かった……!やったなふたり共!帰る手段が見つかった……ぞ……?」

喜ぶ俺に対して、微妙な表情をしている二人。あ、そうか……帰ったら二人とはお別れなのか……ちょっとデリカシーがなかったかもしれない。俺は素直に「ごめん」と言った。

「……私、お兄ちゃんと一緒に帰りたい」

「え、ええ!?だ、駄目ですよ!この人はあっちでは死んだことになっているんですよ!?」

「兄さんが死んでいるのを知っているのは僕の友達くらいなので大丈夫ですよ」

サオリの一緒に帰りたい宣言にミリアさんが驚く。……ユウ、なんてことを言うんだよ。まるで俺に知人が少ないみたいじゃないか。……その通りです。

「そ、それならこの人を別の生物に生まれ変わらせればなんとか……」

「ちょっと待って」

まるで俺が了承しているかのような進み方だ。あと天使があっさり言いくるめられてどうする。それに、別の生き物に生まれ変わるのはシンプルに嫌だ。だからここに来たのに。

「……お兄ちゃん、私達と帰りたくないの?」

怖い。何が怖いって目に光が灯っていないのが怖い。すいません、俺に情状酌量の余地を……!

「兄さん、前に僕が言ったこと、考えてくれたよね?」

……もちろん覚えている。あの時、俺はユウに元の世界に戻らないか提案された。……でも、考える時間なかったんだよな……あの白髪野郎めっ!

「……待ってくれ二人共。俺も急過ぎて何が何だかわからないんだ。ちょっと俺に考える時間をくれ」

「……うん、わかった。兄さん、どんな結果になっても、僕は兄さんの意思を尊重するからね」

俺はそれだけ聞くと、その場を後にした。


「……あー……」

どうしたもんかな。まず、帰ったときのメリットをあげてみる。ユウとサオリと別れなくて済む。以上。そしてデメリット。人間以外の何かになる。またあの馬鹿親に会うことになる。――フラムやシオン達と会えなくなる。うん、わかってはいたけどメリットが少なすぎる。どうやら自分で思っていたより俺はこの世界が好きらしい。だってガチファンタジーだし?友達とか出来たし?今さらあんなつまらん世界に戻る意味なんてないと思うんだ。でも…………

「……二人はどう思うんだろ」

ユウとサオリ。俺の大切な大切なきょうだい。俺が帰らないなんて言えばサオリが闇堕ちしそうだし、二度と会えなくなるっていうのもそれはそれでなんか嫌だな……

「ああもう、どうすればいいんだよ……!」

俺が頭を抱えて天井を仰いでいると、突然ノックの音がドアから聞こえた。誰か来たらしい。俺は考えるのを中断してドアの元に向かい、開ける。そこにいたのはフラムだった。

「あの……今、いい?」

「いいけど、なんか用か?」

「ちょっと話したいことがあって……」

話したいこと?フラムの発言に疑問を抱きながらも、フラムを部屋に入れる。俺達は机に向かい合って座った。

「それで?話って?」

俺はなんとなく会話を切り出す。俺の言葉にフラムはこちらの表情を伺いながら話し始めた。

「その……ユウは……元の世界に帰ったりするの……?」

「…………」

……その話ですか。まぁ用なんてそれくらいしかないよな。さっきの今だし。真剣な話なので、俺ははぐらかしたりせず、素直に話す。

「……まだ考えてる。俺はまだこの世界に居たいけど、ユウとサオリはどう思うかなって……ユウは認めてくれるだろうけど、サオリは……」

俺はその先を口にせずに黙る。俺を慕ってくれる二人の期待を裏切っていいものか?兄としての気持ちがある限り、つい考えてしまうのだ。

「……ユウの考えはわかったわ。でも、それは本当にあなたのしたいことなの?」

「え?」

フラムの答えに、俺はきょとんとしてしまう。フラムは続ける。

「貴方が二人を大切に思っているのは知ってる。二人が貴方を信頼していることも見たらわかるわ。でも、貴方のその考えには、自分の考えは入っていない」

「…………」

「貴方は無意識の内に、二人に気を使っているんじゃない?」

「……っ」

フラムの言葉に、俺は少し動揺する。……確かに心当たりはある。俺は二人の悲しんだ顔は見たくない。喜んでいて欲しい。そんな気持ちがいつしか、無意識に気遣いのようになったのだろう。なら、どうする?どうすればいい?――決まってるだろ。

「俺は……」

「うん。そこまでまともな表情になったら大丈夫ね。……私も、シオンも。貴方の意見を優先するから」

フラムはそう言いながら部屋を出ていった。そんな中、俺は一人決意を固めていた。


「……あっ、お兄ちゃん」

「……兄さん」

俺はしばらくして、みんなの元に戻った。二人は俺の雰囲気を感じ取ったのか、少し緊張したような表情になった。ミリアさんはずっと待っていたのか疲れたような表情をしている。頼むからもう少し顔を引き締めて欲しい。

「……決めたんだね、兄さん」

「ああ。……ユウ、サオリ。俺は……一緒には戻らない」

「「……!」」

俺は前置きを置いたりせず、単刀直入に告げる。サオリはショックを受けたような顔をしていた。ユウは少し顔を悲しそうに歪めたが、すぐに戻した。心が痛い。けど、もう決めたんだ。

「ど、どうして……?お兄ちゃん……?」

「……サオリ」

「私、せっかくお兄ちゃんに会えたのに……!また会えなくなるの?そんなの嫌……!」

サオリは涙を流しながら俺に抱き着いてくる。泣かれることを予想していただけに、俺はただただ心が痛い。でも、少しだけ我慢して、

「……俺はもう死んだことになってる。じゃあ、その世界での俺の役割は終わったんだ」

「……お兄ちゃん?急に何を……」

「いいか、二人共。お前達はもう充分に成長した。今のお前達なら、俺がいなくても生きていける」

「……兄さん」

「……そ、そんなこと、なっ……ない!」

悲しそうに目を伏せるユウ。泣きじゃくりながら否定するサオリ。我慢だ。我慢。まだその時じゃない。

「そもそも、俺はあっちに生まれ変わっていたとしても、俺の記憶はない。そこにいるのは、俺だった何かだ」

「違う!どんな形でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんで……!」

「違うっ!」

俺は涙を堪え、叫ぶ。ここははっきり言わないといけない。それが……俺の役目だから。

「……もう俺の居場所はあっちにない。二人は、俺なしで生きなくちゃならないんだ。忘れろなんて言わない。でも、俺は……」

ユウも堪えきれなくなったのか涙を流す。涙を流す二人を見据えながら、俺は――わざと笑うように言った。

「あの時に、死んだから。俺は、もうあっちにはいないから」

二人が泣きながら抱きついて来た。俺は涙を流さないように気をつけながら、二人を抱きしめる。

「兄さんっ……!」

「……ひっぐ……ぐずっ……!う、うう……」

「……頼む。お前達を俺に縛りたくないんだ。お前達は俺より凄いんだ。強いんだ。だから大丈夫、絶対に」

「……う、うぐっ……」

「うわあああん……」

二人が落ち着くまで、俺はずっと抱きしめていた。


「……準備が完了しました。……っ、二人共……っこの魔法陣の上にお乗り下さい……っ」

「うん」

「わかりました」

さっきの雰囲気に当てられたのか、泣いているミリアさんが二人の世界への転送準備を完了させた。後は二人が乗ってミリアさんが魔法を掛けるだけ。

「う、ううっ……元気でね二人共……」

「……儂は忘れんからな……!サオリの教えてくれたきょうだい好き(ブラコン)の話を……!」

フラムとシオンも泣いている。サオリは一体何を話したのだろう。雰囲気の良さが薄れるようなワードが聞こえたんだけど。そうこうしてるうちに、二人は荷物を纏めて魔法陣に乗った。二人は俺に向き直る。

「……さよなら、兄さん」

「おいおい、寂しいな。また何処かで会えるかもしれないだろ?」

「あっ、そうだね……また会おうね、兄さん」

「ううっ……ばいばい、お兄ちゃん……!また絶対会うから……!」

「おう」

「あの、フラムさん達も、お世話になりました」

「……お世話になりました」

二人はフラム達にも別れの挨拶を述べる。一通り言い終わると、二人は一旦魔法陣を出て俺の元に来た。

「……あの、兄さん。これ……」

「ん?これは?」

「……二人で作った。作り方はフラムさん達に教わった」

俺の手に渡されたのは、綺麗な青い石をぶら下げたネックレス。石は磨かれたのか滑らかで、光が反射するととても綺麗に見える。石の周りには、小振りな石ころが並んでいた。

「……ありがとう、大切にするよ」

「私達のこと、絶対に忘れないでね」

「忘れるわけ無いだろ。俺は二人の兄だからな。……でも残念だな、俺も何か贈り物考えときゃ良かった」

「あはは……大丈夫だよ」

遠慮がちに言うユウ。それを見た俺は、自分の懐からあるものを取り出した。

「じゃ、代わりにこれでも受け取ってくれ」

「えっ?これって、僕達の作ったお守り……」

俺が出したのは、この世界に来たときに持っていたお守り。二人から贈ってもらったものだ。

「どうしてこれを……?」

「俺には今貰ったのがあるからさ。この世界に日本の神はいなさそうだし、お前達が持っていた方がいいかって思ってな」

「……キュン……お兄ちゃん……」

どうやらサオリの好感度が上がったようだ。良かった、喜んでくれて。やり取りを終えると、二人は魔法陣に戻った。

「……挨拶は済みましたか?……それでは、転送を開始します」

ミリアさんが呪文を唱えると、魔法陣が輝き出す。二人は俺の方を見ながら、

「またね!兄さん!」

「……ばいばい」

と言った。そんな二人に俺は少し微笑むと、

「ああ、またな」

その言葉と同時に、二人はミリアさんと一緒に消えた。フラムとシオンは泣きながらまだ手を振っている。そんな二人に見られないよう、俺はひっそりと涙を流した。


  


 



 





 




 

 








  



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