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第二十九話 失意の果てに見つけたもの


俺は――――。平々凡々な日本出身の元高校生。幼い頃に両親を失い、施設に預けられ、今の両親に引き取られた。……両親には二人子供がいて、彼らは俺の弟と妹と言う事になった。事前にあったことがある彼らとはすぐに仲良くなり、俺は意味のなかった人生に光を見出した。――しかし、その光はすぐに消えてしまった。自分たちの息子と娘と仲良くなったことを知った両親達は、俺のことを子とは思わなくなった。二人に何か悪影響を及ぼすと思ったようだ。両親は事あるごとに暴力を振るったり、無理難題を課したりと、とにかく俺に対しては厳しかった。でも、ユウとサオリの前ではいつもの優しい表情に戻る。彼らを褒め、より成長することを願う。その変貌ぶりに、俺はほんとに人間なのかと疑った。その頃はまだ十と少しのときだった。その時にはもう俺の心は壊れていた。それでも死にたいと思わなかったのは、二人がいたからだ。二人は俺に優しい。さらに他者を魅了する程の才能を持ち、性格と見た目もいい。俺は思った。馬鹿な両親にこいつらを任せてはいけない。俺が守ってあげないといけない……と。俺が中学生になったときからその決意はあった。二人と楽しく何のこともない話をして、両親の理不尽な命令を全部受けて、注目を俺に向ける……など。いろんなことをやった。そして俺は高校生になり、同時に両親は離婚した。俺は義父のほうに引き取られたが、あくまでも「おまけ」として扱われた。もう慣れたものだったし、俺はそれを無視して、同じような日々を送った。ユウと話し、サオリと遊び……俺は仮初の充実感を得ていた。――そんなある時、俺は不運な事故で死んだ。認められない、とは思わなかった。迎えた死はスッと胸に落ち、心が楽になる感覚があった。二人に会えなくなるのは寂しかったが、もうあの両親の相手をしなくなると思い清々した。もうあの両親はいない。あの時を生きた名前を捨てて、二人に報いるために異世界で人生をやり直す。そう思って、あの時躊躇もなくこの世界に飛んだんだ――


「まぁこんな感じ。ちゃんちゃん」

話を終えると、二人は神妙な顔をしていた。確かに、情報量多いもんな。整理とか大変だろうし。

「……つまり、お主はこことは異なる世界から来たと言うことか?」

「そうだよ。遠い遠いところから来たんだ」

「遠すぎるでしょ……何なのよ異世界って……」

二人はシリアスな雰囲気で俺の方を見る。天使がいる世界なんだからこれくらいで驚くなよと言いたいが、俺がその立場だったら何も言えないのでやめておいた。

「あと、名前も……」

「教えてやったからそれで呼ぶのはなしな。今まで通り呼んでくれ」

しっかりと釘を差しておく。出来ればその名前は聞きたくない。本当の親から貰った大切なものではあるが、俺にとっては忌まわしい記憶の一つだ。

「まぁ、いろいろあったんじゃな……本当に孤児だったとは……」

「そうだよ、短い人生だったけど生き返れたからラッキーって感じだし。今は退屈もなく生きてるよ」

「その死んで生まれ変わるというのに興味が湧くぞ。お主の世界の者はみんなそうなのか?」

「……多分違うと思う」

そんなに日本人は見てないし、思ったよりこの世界に送られる人は少ないのかもしれない。今まで会ったやつはどんな感じで転生したんだろ。世界を救ってくれとか?何それ言われてみたい。

「取りあえず、さっきので話は全部だ。俺はちょっと色んな所を除いたらただの普通のやつだ」

普通という言葉に、二人がジト目を向けてくる。おかしいな、俺は平々凡々の人間のはずでしょ?え、違うんですか……?

「……その剣って天使から与えられたものなのよね。それにも何かあるの?」

「いや、特に何も」

たまに変な夢を見たり、所々記憶が消えたり……うん、呪いの剣かな?そう考えたら、この剣お祓いとかしたほうが良くない?

「さっきの話が正しいとすると……ユウとサオリは義理のきょうだいということかの?」

「ああ。二人がいたから俺は今ここにいるんだ」

「……そう」

そろそろ話したいことが尽きたのか、沈黙の雰囲気が流れる。ちょっと気まずい。その雰囲気を断ち切るかのようにフラムはこう言った。

「……大体わかったわ。話してくれてありがとう」

「うむ、儂も興味深い話が聞けて楽しかったぞ」

シオンがそれに続く。俺はちょっと笑いながら、

「ははっ、そりゃ良かった」

と言った。その後、二人も自分の部屋に戻り、俺は一人になった。後には謎の林檎が残る。……うん、美味い。

「……綺麗だな」

俺は窓の外を見る。外はもう月が上っていて、真っ暗な空の中で輝いていた。


「……疲れたわね」

「?フラムは儂より体力があるじゃろ」

「そうじゃなくて……精神的に」

「ああ、確かに凄い話じゃったの」

シオンは思い出すようにうんうんと頷いている。フラムとは違って、「そういうこともある」と思っているかのようだ。親からちゃんと愛情を受けて育ったフラムには、ユウの話はかなり重い内容だった。今でも本当にあったことなのか疑ってしまう。

「……あの人、なんであんなに元気に話せたのかしら」

「さあな。それがユウにとっての受け止め方なのじゃろ。それか、どうでも良いだけかもしれん」

シオンは笑いながらそう言う。その目にあるのは同情の様子ではなく、ただ純粋な好奇心がそこにある。シオンにとっては、ユウの話は非常に興味深いものであった。

「……ユウはどう思っているのかしら……」

と、フラムがぼそっと呟いたその時。

「あの、失礼しますが……」

「ん?なんじゃお主。儂らに何か用かの?」

白い服装に身を包んだ金髪の女性が、二人に話しかけてきた。シオンは首を傾げながら用件を聞く。

「こちらにいらっしゃる谷口ユウ樣と、谷口サオリ樣を迎えに来たものですが……」

「……どういうこと?」

フラムは怪訝な顔となる。ユウの話が正しければ、二人は異世界からの住人のはず。関係を持っている人など、自分たちかアオイくらいしかいないはずだ。警戒していると、金髪の女性は頭を抱えながら、ため息混じりにこう言った。

「私は天使の一人です。イレギュラーな方法でこの世界に来た二人を元の世界に戻すために派遣されました」

「……て、天使!?」

「ほう、噂には聞いていたが……人間とあまり大差ない見た目をしておるの」

驚くフラムと冷静なシオン。少し疲れているような天使はそんな二人を気にせず続ける。

「それで、二人はどちらへ?」

「あ、えーと……あちらの部屋に……」

「あっちですね!ご協力ありがとうございます!」

天使はお礼を言うと、二人の部屋の方へ歩いていった。しばらくすると、三人の話す声が聞こえてきた。

≪……えっと、どなたですか?≫

≪初めまして、私は天使の一人です。異世界から来たあなた達を元の世界に戻しに来ました≫

≪怪しい。ユウ、惑わされちゃ駄目。よく見ると天使っぽい羽とかがない。偽物≫

≪はい!?そ、そんなことは……!ひえっ、ちょっとどこ触ってるんですか!男の人もいるのに止めてください!≫

≪……忌々しい身体。潰したい≫

≪ちょっ、サオリ!?何してるの!?≫

≪いたたた!服を引っ張らないでください!≫

「……一体何をしているのかしら」

「フラム、儂も混ざって良いか!?天使の羽や輪っかを実際に見てみたい!」

気づいたら研究者モードになっているシオン。そんなシオンにフラムは取りあえず「駄目」と言っておいた。







 




 

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