第二十七話 取り戻したいもの
あのドラゴンを倒す。それが、ユウをもとに戻す唯一の方法。突然課せられた難題に私は呆然としてしまう。
「……どうしたのだ貴様ら。間抜けな顔をしおって」
そんな私に、ユウ……の姿をした者は、呆れたように言う。今のユウは依り代というものになっており、外面を操られている状態だ。シオンによると、魔族にもこういう者はいるらしく、さほど珍しいものではないのだとか。閑話休題。
「……私達でも、あのドラゴンを倒すのは厳しいわ。あれはカンストレベルクラスじゃないと難しいでしょうね」
「いや、そこまでではないじゃろ。新種とはいえ儂らと変わらんサイズじゃ。余程変わった能力を持っていない限りはなんとかなる」
私の弱気な発言に、シオンが冷静に答える。確かに、ドラゴンの強さはその大きな身体である。魔物でも人間でも、身体の大きさの差というのは有利不利が決まりやすい。まぁ、ドラゴンはそれ以外に火力が高く、硬い鱗で覆われているという特徴があるのだが……高レベルの冒険者であればそこは気にする所ではない。彼らは強い火力と知恵を持っているからだ。
「我も力を貸してやろう。乗りかかった船というやつだ」
「……え?大丈夫なの?」
ユウの中にいる謎の者も、協力してくれるらしい。……元のユウを知っているので正直死なないか心配なのだけれど……
「我を誰だと思っている。この身体を守りながら戦うことくらい余裕だ」
「そ、そう……」
「しかし、実力はどうなんじゃ?お主の身体の主は……その……」
シオンが言いにくそうに視線を泳がしながらそう言う。……ここで実力がないと言い切れないのが哀愁を誘う。今度、ユウに特訓をつけてあげましょう……そう思っていると、謎の者はふんと鼻を鳴らし、
「……いくらこの身体が貧弱とはいえ、我の力でどうとでもなる」
「「…………」」
き、気まずい。どうするのよ、ユウの顔が見れないじゃない。いくら中が彼じゃなくても、流石にこの会話は酷すぎる。私は申し訳ない気持ちになった。
「ふむ。我は大丈夫だが、貴様らこそ大丈夫なのか?奴は中々強いぞ」
「私達はこれでも高レベル冒険者なの。腕に自信はあるし、死ぬつもりもないわ」
私がそう言うと、謎の者は満足そうに微笑み、高らかに宣言した。
「よし、では我らで行くとしよう。皆、準備はいいか!」
「「おお―!」」
割とノリの良い人なのかもしれないと、私は思った。
前世では、俺は友達も少ないぼっちだった。学校もなんとなく過ごし、帰ったら家事をしたり、親のいない間ユウとサオリと遊んでいたりした。別に不満はなかったのだが、俺は物足りなさを感じていた。そんな感情を抑えながら、俺は二人を助ける事に尽力した。両親が離婚したときは既に高校生だったが、それは変わらなかった。俺は二人を立派な大人にするために頑張った。しかし、俺はその年に死んだ。その時、俺はこう思った。――ああ、やっと開放された――
「……さて、そろそろね」
「マジンがあの竜を連れてきたら、儂は魔物を出せばいいんじゃな」
ふんす、と息を吐いて余裕の表情を浮かべるシオン。それに返事をしながら、物陰でマジンを待つ。ちなみに、マジンというのは謎の者が決めた呼び名だ。何故そんなことをするのかというと、いざというときに呼び名がないと困るからだ。マジンに助けを求めるときに、ユウ、だと反応してくれないというのもある。
「っ、来たわよ」
フラムが物音のした方を見ると、逃げるマジンの後ろに黒いドラゴンの姿が。
「グルアアアア!」
「フッ、ぬるい!≪裁きの業火≫!」
「グアッ!?……オノレ、ワタシニキズヲオワセルトハ……!」
ドラゴンはブレスを吐くが、マジンは魔法で浮いている身体を器用に回転させて躱す。間に魔法を放ち、ドラゴンの注意を引いているのだ。シオンは準備をしながら、狙いを定めて魔法を放つ。
「≪スポーン≫!」
≪キシャアア!≫
鳥のような魔物が現れると、黒い竜に勢いよく突っ込む。実質自爆特攻みたいなものだが、所詮幻影なので人道的にも問題ない。シオンいわく、かなり省エネの技のようだ。黒いドラゴンはバランスを崩したのか、回転しながら地に落ちた。その隙を逃さず、フラムが槍を構えて走り出す。
「グッ、コシャクナ……」
「食らいなさい!≪フレイムブレイク≫!」
槍が炎を纏い、硬い岩さえも砕く一撃。その衝撃で……足の鱗が剥がれた。鱗の剥がれたそこには、人のような足があった。異様な光景に、フラムは目を見開く。
「っ……!?あれは!?」
「≪巨岩の一撃≫!何をしている、攻撃の手を止めるな!」
「え、ええ!≪フレイムブレイク≫!≪フレイムブレイク≫!」
マジンとフラムの攻撃によって、ついに全ての鱗が剥がれた。そこに立っていたのは、人型の異様な仮面をしたものだった。
「な、なんじゃあれは!」
「あれが奴の正体だ。奴は悪魔。貴様らの言葉でいうと、デーモンというやつだな」
「で、デーモン!?高位の魔物じゃない!」
デーモンとは、人間の昏い感情から生まれた謎の生物。生まれる感情の強さで知能の高さが変わる厄介な魔物である。それは人に化ける事もあり、出会ったらまず逃げるのが大切とも言われている。
「さて、貴様ら。ここからが本番だぞ」
マジンの言葉にきょとんとする二人。その言葉通り、目の前のデーモンは剥がれた鱗を手のひらに集めると、それを黒い剣に変えた。とても見覚えのあるその形に、フラムとシオンはまたもや驚きの声をあげた。
「……あれって、ユウの剣!?」
「そ、そうじゃな。何故デーモンがあれを……」
「イマイマシイ……!ワガナハプルートー!ゼイジャクナニンゲン二マケルコトノナイカンゼンナリュウデアルウウウ!」
プルートーと名乗ったデーモンは二人に斬り掛かってくる。その一撃を、マジンはたやすく防ぐ。そして魔力を手に込め、強力な一撃を放った。
「≪地獄の拳≫!」
「グハッ、オノレ……!シントヲウシナッタカミゴトキガツケアガルナ!」
「くっ」
プルートーもすかさず斬り掛かるが、マジンはさっと躱すと、二人に叫ぶ。
「今だ貴様ら!」
「っ、≪フレイムバスタ―≫!」
「≪メガスポーン≫!」
シオンの呼び出した大きな魔物がプルートーの体制を崩し、フラムの一撃が最高のタイミングで決まる。すると、プルートーのしていた仮面が砕け、持っていた剣が地を転がる。プルートー――――ヴェルトンは仰向けに倒れた。
「ガアッ……ナゼ……ナんでドイつもコイツもワガ神をシンジない……ナゼゴウマンにのうのうとイキラれる……」
ヴェルトンの呟きに、マジンは哀れみの目を向けながら冷静に告げる。
「……貴様は間違えたのだ。ヴェルトン。もとより、名前のない神に感謝を求める必要はなかったのだ。貴様の≪神を誰かに知ってほしい≫というその欲が身を滅ぼした」
「あ……アア……ワタシハ……カミを……」
ヴェルトンは最後まで言えずに、砂となって消えていった。後に残るのは懐かしさを感じる黒い剣。それをマジンは手に取ると、呪文の詠唱をする。
「≪反転≫」
すると、マジンの辺りが輝き出し、黒い剣はさらに光を放つ。その眩しさに狼狽える二人にマジンが向き直る。そして、ゆっくりと口を開いた。
「さらばだ、面白い人間ども。我は少し眠る。この小僧もすぐに元に戻るだろう。此奴に変わって感謝しよう」
淡々と、ただ謝辞を述べてマジンは自分が入れ替わるような感覚を味わいながら泥のように眠る。後には二人の少女と、その場に倒れ込んだ少年が残った。




