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第三話 空っぽ


――夢をみた。周りは見慣れた近所の光景。そこには俺以外人がいなくて、形状しがたい恐ろしい者で埋め尽くされている。奴らはこっちを見ると、俺目掛けて襲いかかってくる。しかし奴らの牙や爪が当たることはなく、ただただ俺の周りを旋回するだけ。何故か、その光景はとても恐ろしいものに見えた――


「……またか」

俺はベッドから体を起こし、服の袖で汗を拭う。そのまま洗っておいた服に着替えて、その辺に腰掛ける。

「ふううううう……」

体を落ち着かせるように息を長く吐く。スマホがないから気を紛らわせることが出来ないので、せめてもの応急処置だ。

「……さて、今日も頑張るか……」

俺は剣を取って、背中に背負った鞘に入れた。


「うーん……やっぱりこの食堂のご飯は美味いな」

まさかパンケーキとかのスイーツがあるなんて。甘党の俺にとっては最高である。しかも安い。

「兄ちゃん、最近良く来るねぇ……そんなに美味そうに食ってくれて嬉しいよ」

俺がパンケーキを美味しく食べていると、食堂のお兄さんが声を掛けてきた。この人は店主のアカギさん。赤髪の明るいイケメンお兄さんである。何度もここに来ている内に話すようになり、俺は常連になった。

「俺、こういう甘いの好きなんですよ」

「ほんとによく食べますねー。弟を思い出します」

「あっ、アオイさん。お疲れ様です」

俺の前にお冷を置いてくれたのは、店員のアオイさん。青髪の特徴的なアカギさんの妹である。二人には年の離れた弟がいて、アオイさんはその弟を溺愛している(アカギさん談)。弟、か……

「ガルム、今どうしているかなあ……会いたいけど、最近パーティーに入って忙しいって言ってたし……」

「アカギさん、リンゴジュース一つ下さい」

「あいよ。ちょっと待ってな」

「何でそんな露骨に無視するんですか」

いや、別に姉弟の事情に首突っ込みたい訳じゃないし。それより朝飯だ。

「ほれ、リンゴジュースだ。氷入れといたよ」

「ありがとうございます」

朝から飲む冷たい飲み物っていいよね。なんか目が覚める感覚がある。

「……無視ですか、そうですか。いいですよ、私にはガルムがいるので……」

「いじけないで下さい。アカギさーん、店員さんが腑抜けになってますよ」

「そうか。おいアオイ。ちゃんと仕事しねぇとガルムに会わせないからな」

「はい、すみませんでした」

変わり身早っ。


「やっと見つけたわよ、ユウ……!」

「いいえ人違いです。俺はナオって言います」

食堂からギルドへ向かう途中。俺はいきなりフラムに絡まれていた。

「ふざけないで。何回私を巻けば気が済むの?おかげで、私が男を追っかけているっていう噂が流れちゃったじゃない」

「俺関係ないじゃん」

それは100%お前が悪い。言ったら怒るので言わないが。

「何なんだよ。お前こそ俺を追っかけて何したいんだ。まだパーティーに入れるのを諦めてないのか?」

「違うわ。あなたに私の凄さを見せつけてやろうと思ってね。私の誘いを蹴ったことを後悔させるために」

おいなんだよその理由。こういうやつって見てる分には面白いけど、自分が当事者になると死ぬほど面倒臭いんだよな。

「……そんなことされても、俺の心は変わらないぞ。俺お前のことほとんど知らないし」

「えっ!?このフラムを知らないって言うの!?」

知らないって言うの。いかん、感染ってしまった。

「これだから低レベルは……私のことを知らないなんて、よっぽど田舎から来たのね」

「あん?」

おっと、口が悪くなってしまった。こいつ、高飛車な性格まで持ってんのか。つくづく俺の嫌いなタイプだ。しかし、俺は紳士。そんなことを口に出すのは――

「お前なんかに何がわかる。お前こそ敬われたいなら生まれ変わってやり直した方がいいんじゃないか?」

俺は自分に正直な言葉を投げかける。異世界転生したらこういうやつを罵倒してやると決めていた。紳士?何それ美味いの?俺の言葉に、フラムはとても驚いた顔をする。額には血管が浮いていた。

「……どうやら、あなたにはお灸を吸える必要があるようね……いいでしょう、相手をして……」

「その誘い乗った!」

ギルドから聞いた話だと、冒険者同士の争いは別に何の罪にもならないらしい。つまり、殴ろうが斬ろうが殺さない限りはセーフである。

「えっ、ちょっと待っ……ぐぎゅ!?」

俺はフラムの鳩尾に剣の鞘を叩き込んだ。


「ずずっ……美味い!」

「お、兄ちゃんいい顔してるな。何かあったのか?」

「ええ、アカギさん。むかつく同業者に一発入れられたんですよ」

「おお、そいつぁいいねえ。俺も若い頃は殴り合いばかりだったよ」

「え、そうなんですか?アカギさんそんなに優しそうな見た目してるのに?」

「ははっ、人は見かけによらねぇって言うだろ?」

「そうですね!」

俺はあの後、クエストを終えて食堂に来ていた。食べてるのは日本でいうラーメンみたいな麺料理。これほんとに美味い。スープが麺に絡んでるのが最高。

「ユウさんがそんなことするなんて、珍しいですね。ちなみに同業者の方って……」

「金髪碧眼のフラムって言う人」

「え!?あの高レベル冒険者の!?ユウさん、大丈夫ですか?」

「え?冒険者同士の私闘は認められてますよね?」

そんな慌てた顔されると怖いんですけど。どこかの貴族とかいうオチじゃないよね?違うよね?

「そうじゃなくて……フラムさんは、自分に歯向かう相手を意地でも屈服させると言われているので……復讐とかに合わないかなって……」

「後、気に入らない相手を高レベル特権で消したこともあるとか聞いたぜ。まぁ、今はそんなこと無効にされるけどな」

「マジですか」

復讐て。あの人どんだけプライド高いん?後、仕事クビにしたとかやばいだろ。そんな権限あったの?

「まぁ大丈夫です。いざとなったら秘密兵器使うんで」

「秘密兵器……?」

俺の言葉にアオイさんは首を傾げた。









 

 

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