第二十六話 捜索
「……ドラゴン?」
翌日。何か手がかりはないかと、フラム達はクエストを受けにギルドに来た。そして、受付で聞いたのがこの言葉だった。受付嬢は頷くと、黙々と語り始める。
「はい。どうやら、火山の方に見たこともない黒いドラゴンが現れたそうなのです。様々な方が討伐に出掛けたのですが、生きて帰るのがやっとだったそうで……」
フラムとシオンは顔を見合わせる。そんな事象は二人も聞いたことがなかった。ドラゴンというのは希少な種類で、見かけられることはほとんどない。たまに人里を襲うものもいるが、それは理性を持たない小竜達が主である。成竜達は強大な力を持つものの、こちらから手を出さない限り人を襲うことはない。つまり、これはかなりレアなケースなのだ。
「……フラム。これは……」
「……ユウが関わっているかもしれないわね」
「お兄ちゃん!?」
フラムとシオンは突然聞こえた声にギョッとして後ろを見た。そこにいるのは、件の少年の妹と弟。叫び声を上げたのは妹――サオリの方だった。
「……サオリちゃん、落ち着いて。まだ説明を聞いているだけだから」
「…………」
サオリはスッと大人しくなった。態度の緩急が急すぎる。フラムはそう思った。受付嬢に火山の場所を聞き、フラム達はその場を後にする。フラム達四人は食堂に向かい、同じ机を囲うように座った。
「……それで、どうするんじゃ?黒いドラゴンを調べに行くのか?」
「でも、危険過ぎるわ。受付嬢の話だと、高レベルの冒険者達でも駄目だったそうだし……」
「……そうです。もしそこに兄さんがいたとしても、無事に帰れるかどうか……」
「行くべき。お兄ちゃんに会えるかも」
意見はそれぞれだったが、サオリだけは確固たる意志を持っていた。しばらく重い雰囲気が続いたが、やがて、フラムが口を開いた。
「……行きましょう」
「フラム……本気か」
「ええ。無駄足になるかもしれないけど。でも、二人は留守番しててもらうわ。私とシオンで行く」
フラムがそう告げると、ユウは素直に頷く。サオリは納得が行かないのか渋っていたが、ユウの説得により、渋々引き下がった。
「……よし、早速明日行くわよ、シオン。しっかり準備しないとね」
「うむ。待っとれよ二人共。すぐに兄に合わせてやるからの」
その言葉に、ユウとサオリは強い安心感を得た。
「グルアアアア……」
「……ふむ、まだ我を探しているのか」
火山の近くを旋回し、辺り構わずブレスを吐いているプルートー。一応辺りに結界を張っているのだが、たまに奴に挑もうとする命知らずがいるため、その度に力を使わないといけない。元の身体ならまだしも、この貧弱な身体ではあまりもたないだろう。
「ギャ……ギャギャ……」
「ケルルルル」
――ズル……ズル……
しかしどうしたものか。奴の影響で魔物たちが恐慌状態となっている。今の奴らに近づけば、流石に袋叩きにされてしまう。この身体では我の力も解放することは出来ない。
「……仕方ない、このまま待つとしようか」
少し疲れた。今はただ、子供のように眠るとしよう……
「……やっとついたわね」
「……ぜぇ……ぜぇ……」
辺りに広がるのは、一面岩石でできた道。そして、遠方に大きな山が見える。その頂上の周りに黒い何かが旋回している。
「まさか、二日もかかるなんてね……」
「……ぜぇ……はぁ……」
シオンは息を切らしており、フラムの言葉に返事する余裕もないようだ。フラムは生気の抜けた顔で火山の方を見る。
「……いるわね」
「……いるのぅ」
目の先にあるのは黒い竜。しかし、フラム達の知っているものとは何か違うような気がした。まぁ、そんなことより……
「……近くの町の宿で、休みましょうか」
「……うむ」
二人は休息を取ることにしたのだった……
「よし。全快ね」
「……むにゃむにゃ」
「シオン、起きなさい。もう十分寝たでしょ」
「……あと五分……」
フラムはシオンを揺さぶり、無理矢理起こした。シオンはまだ眠いのか目をこすっているが、しばらくするといつもの調子に戻った。二人はさっと身支度を済ませると、再び火山の方へ歩き出す。
「あれが……ドラゴンね」
「そうじゃな。じゃが、あんな硬そうな鱗に包まれている奴は見たことない。食べられる所も少なそうじゃの……」
「……ドラゴンって食べられるの?」
「うむ。少し肉は硬いがちゃんと味付けをすればそこそこ美味いぞ」
「へぇ、初めて知ったわ」
呑気に世間話をする二人。それは二人が強者であるが所以の余裕であった。ときにそれは慢心となることもあるが、今のように強者に挑むとなると、冷静である方が正しいのだ。事実として、二人は1ミリも油断していない。件の竜の方を見ながら、いつでも武器を取り出せるようにしている。そんな二人が来たのを感じ取ったのか、竜は空高くから咆哮する。
「クルアアアアア!」
「!?まさかもう気付かれたのか!?」
「落ち着いて!身を隠しましょう!」
そう言って、近くの岩陰に隠れる二人。しばらくすると、二人が先程までいたところに、一匹の黒い竜が現れた。
「……っ……あれが……」
「しっ……様子を見るわよ」
二人は竜がこちらを探索する様子を観察する。竜は辺りを見渡しながら、その赤い瞳を光らせていた。
「……ドコダ……ドコニイル……」
「……何だか変わった形の竜じゃの」
「確かに、あれは竜というより、人っぽい形をしてるように見えるわ。しかも、喋る事ができる……」
「……ソラミミカ。ムダアシダッタヨウダナ」
二人が考察を述べている間に、竜は凄まじいスピードでその場を去った。二人は完全に去ったことを確認すると、安堵の息を吐いた。
「……ふう、何とか凌いだようじゃな」
「そうね。取りあえず、あれがクエストの対象ってことがわかったわね……」
先程の光景を思い出し、二人は少しゾッとする。明らかに自らより格上。しかも、見たこともない姿の竜。勝てる気がしない。自信家な二人にしては珍しく、後ろ向きな考えが頭を巡った。
「はぁ……一体どうしたら……」
そう呟いたその時。二人の近くから足音がした。新たな魔物かと思い振り返ると、
「……?何だ貴様ら。どこかで見たことがあるが……」
「「……ユウ!?」」
そこにいたのは、探していたパーティーメンバーの少年だった。
「……ユウだと?我はそのような名ではない」
「何言ってるのよ。弟君とサオリちゃんが心配してるんだから、早く帰るわよ」
我が名前の訂正をすると、目の前の金髪の女が反論をしてきた。何故そんな変わった名で呼ばれなければならない。全く不愉快だ。
「そうじゃぞ。一体何をしておったんじゃ。いくらあの剣があるとはいえ、お主の実力ではあの竜には勝てんぞ」
……何?この魔族の娘は一体何と言った?我があの竜に劣っているだと?
「貴様、我があの虚飾の竜に劣っていると言うのか。返答次第ではその口を封じて二度と喋れないようにしてやろう」
「……フラム、ユウがおかしくなっとるぞ」
「そうね。ちょっと叩いたら治るかしら」
我の言葉も虚しく、謎の二人は臨戦態勢でこちらに歩いてくる。……これは不味いな。
「待て!待て貴様ら!貴様らのような奴に攻撃されたら、この身体が滅んでしまうぞ!」
「……ユウ、すぐに治してあげるからね」
「大丈夫じゃ。儂は医学の分野も極めておる。薬を作ったりするのも簡単じゃ。すぐに治してやれる」
必死に弁明するが、この娘らは止まる気配がない。くっ、どうすれば良いのだ……はっ、……ならばこれを使うしかあるまい。我は手を構えて近くの岩に向ける。
「≪転移転生≫!」
すると、身体から力が抜け、我の意識だけが外に出る。我の意識は近くの岩に潜り込んだ。
「ユウ!?」
「安心しろ。その小僧は死んでいない」
「?どこから声が……」
「こちらだ」
我がそう言うと、二人がこちらに振り返る。そして岩が喋っていると気付いたのか、驚いた素振りを見せる。
「い、岩が……!」
「いちいち五月蝿い奴らだ。これしきのことで驚くことはないであろう」
「……まさか、お主がユウの中にいたということか?」
「そうだ。ああ、ちなみに此奴の意識はまだ目覚めておらん。故に、それは今ただの抜け殻だ」
「抜け殻……」
我は小僧の身体に意識を戻すと、人形を操るように動かす。そんな所業をしても、此奴が目覚める様子はない。全く忌々しい。
「さて、貴様らはこんなところに何をしに来た。あの竜もどきがいるのは知っているであろう」
我の質問に、此奴らは真剣な表情となる。その気迫を感じながら、我は二人の話を聞く。
「その身体の人を探しに来たの。その人を待ってる人がいるから」
「うむ。……フラムも待っているのではないか?この前、イライラしながらパンケーキをいつもの倍……」
「そ、そんなことないけれど!?ちょっとお腹が空いていたのよ!」
急に狼狽え、気迫が崩れる少女。それを見て、我は少し懐かしさを感じた。……昔、我の配下にもこのような奴がいたな。……しかし、この小僧目的にこんなところに来るとは……やはり、ヴェルトンを止めるしかあるまいか。
「なるほど。この小僧を連れて帰りたいと。ならば、あの竜もどきを倒す必要がある。この術をかけたのはあやつだからな」
「「えっ」」
我の言葉に、二人の勇気ある少女は固まった。




