第二十四話 神
クエストも終え、俺は質問攻めにしてくるパーティーメンバーと、引っ付いて来る妹を撒いて、町を歩いていた。たまには一人になりたいときもあるのだ。
「うーん……」
体を伸ばしながら、ここ最近の事を振り返る。たった3日か4日のことだが、どれも濃い日々だった。
(やっぱり、二人がいるから……だろうな)
突然現れたユウとサオリ。最初は驚いたものの、長い付き合いだったためかすぐに馴染んだ。今ではフラムやシオンとも仲がいいとか。しかし、ある時俺は気付いたのだ。
≪お前らは、元の世界に帰れるのか?≫
≪そうだ……僕達は帰らないと……≫
二人には俺と違って死んでないので、戻る世界がある。俺としては二人にはあの世界にいて欲しいので(いつ危険な目に遭うかわからないから)、元の世界に戻るために協力するつもりだ。しかし問題なのが、この前のユウの言葉である。
≪じゃあ、兄さんも一緒に帰れる……?≫
ユウから、元の世界に戻ることを提案された。是非にとも言いたいところだけど、俺、あっちで死んだことになってるしなぁ……葬儀が行われたかどうかは知らないが、少なくとも知人は混乱するだろう。まぁ、知人自体少ないのだが。――それに、俺は――
「見つけた……」
「っ!?」
突然、何者かの声が聞こえて俺は身構える。……最近多くないこれ?どうして?……振り返ってみると、見るからに怪しいローブを羽織った者がいた。俺の方は見てない。まだ関係ないかもしれない!
「……小僧。止まれ」
「…………」
おおお……!関係あったあ……!何だよ怖いこの人!エコーボイスみたいな声がもう強そうな人じゃん!
「あの、何か用でしょうか……?」
「しらばっくれるな!貴様の方から我が神の気配を感じるぞ……!さぁ言え、神をどこにやった!」
なになになに、突然豹変したんですけど!めちゃくちゃ怖い……!不審者ってどうやって撃退するんだっけ……ん?待てよ?
「神?」
「む?よく見ると貴様からは神の気配を感じない……貴様の腰から……!!」
ローブの変なやつは俺の腰の方を見る。……まさか、またこれのせいなのか。
「それは!混沌剣カースフェイス!伝承にある通りの神々しいお姿……!神はその剣に宿っているのか!」
「まただよ!またこういうのだよ!今日だけはこの剣を選んだことを後悔したわ!」
やっぱり俺の剣じゃねえか!2回目だよこれで!よく考えたら今までのトラブルほとんどこれのせいじゃん!
「な、なんだ急に叫びおって……まぁいい。おい貴様、その剣を渡してもらおうか」
「嫌だ。とっとと帰れ」
俺の言葉に、ローブのやつは体を震わせている。どうやらキレているようだ。早まったかもしれない。
「……貴様。ここは大人しく従った方が身のためだぞ?」
「渡してどうするんだよ。自分の力にするとか言うのか?」
「ほう、察しがいいな。満点とまでは行かないがほぼ正解だ」
じゃあ何。ややこしい言い方すんなよ。ローブのやつは被っているフードを外すと、こちらに向かってニヤリと笑う。目立つ白髪に、男か女か区別がつかないほどの美貌。間違いない、強キャラだ。
「……我が名はヴェルトン。欲望と虚無の神の十二番目の使徒である」
ヴェルトンは仰々しく名乗りを上げると、こちらに手をかざす。それと同時に、何故か俺の身体に眠気のようなものが襲ってきた。な、なんだこれ……?
「少し強引だが……その剣に封じている神を呼び覚まし、貴様の身体を依り代とする。それで私の目的は達成だ」
「……?」
ヴェルトンが再び笑みを浮かべるのと同時に、俺の意識は途切れてしまった。
……身体が軽い。あの頃のような重りをつけたような感覚ではなく、全てが解き放たれたような感覚。
「神よ、具合はいかがですかな?」
聞き覚えのある声。視線を向けてみればかつての我が配下の姿が。何故奴が――ヴェルトンがここにいる。しかも、具合とは……?
「…………!?」
身体が、ある。あの頃のような異形の手ではなく、人間のような手のひら。待て、人間だと?
「な、何だこれは。我は一体どうしたと言うのだ」
「ようやく目覚めたのですね、神よ。生きて三百と少し。このヴェルトン、感無量であります」
「あ、ああ……そうか……」
仰々しいヴェルトンの物言いに、我はたじろいでしまう。何はともあれ、我の身体が戻ったと言うのか……?しかし、この声は……
「……この身体はどうした」
「ああ、それはですね。神の依り代を持っていた者の身体でございます。私としても、このような手段は取りたくなかったのですが……しかし、今は一刻も早く神の力をお借りしたいのです」
依り代というのは、何を依り代にするかによって性能が変わってくる。例えば、力のないものに寄生しても、それごと野垂れ死んでしまうことがあるので意味がない。人間というのもその一つである。
「……あの小僧はどうなった」
「眠っているだけかと。しかし、神が起きていらっしゃれば目覚めることはありません。幸い、この男は見た目に反して頑丈なようなので、死ぬこともあまりないでしょう」
「そういう事を言っているのではないわ!」
あまりにも勝手な言い草。後先を考えない身勝手。我の嫌いなものだと言うのはヴェルトンは重々承知しているはずだ。我が叫んだせいか、ヴェルトンは少し身を縮こませる。……ふん、軟弱者が。
「……はぁ……まぁ良い。そこまでして我を呼び出したということは、余程の出来事なのだな」
「はい。私めにどうかお力添えを……」
「ふむ、いいだろう。しかし」
我は街に渦巻くネズミ共を手の近くに集める。それをヴェルトンに放り投げると、やつにこう言った。
「……この小僧は人の関わりがある。少し書き置きをさせてもらうぞ」
「……了解しました。しかし、神がそのような考えをなさるとは……」
「ふん、ほんの気まぐれだ」
我はさっと紙を取り出すと、この男が書くような文章を描き、宿屋の部屋に転移させた。魔力はあるこの身体は、充分に魔法が使えるようだ。
「さっさといくぞ。そして此奴を元に戻せ」
「もちろんですとも、それではこちらへ……」
ヴェルトンに案内される方に、我は歩き出した。




