第二十話 お灸を据える
イズモさんがリエを飛ばしてから数日。街を適当に歩いていると、ナギが俺のもとに訪ねて来た。
「白状しろよ!リエをどこにやったんだてめぇ!実験道具にすんぞこの雑魚が!」
訂正しよう。脅迫されて尋問されている。いつの間にか眼鏡が外れており、ナギはほとんど錯乱状態である。本当に怖い。
「えーと……あいつをどっかにやったのは俺の友達で……俺もどこにいるか知らないんだ……」
「はああ!?ふざけんなよ!リエを返せ!」
……なんだか可哀想になってきた。しかし、俺にはどうしようもないので諦めてお帰りいただきたい。と、俺が思っていると……殺気を感じた。
「…………」
「ああっ!?……あっ、リエ〜やっと帰ってきたんだ〜寂しかったよ~」
振り返ってみると、そこには先日飛ばされたはずの黒髪の女性――リエの姿が。リエの姿を確認すると同時にナギは眼鏡を掛けてにこにこと微笑む。怖い。
「お前、もう戻ってきたのか……!」
と、驚くのも束の間。何やらリエの様子がおかしいように見える。リエは弓を構えると、俺の方に矢を放ってきた!
「おわっ!?」
「…………」
「リ、リエ?いきなりどうしキュッ」
ナギが心配そうに声を掛けるも、リエに締められる。……嘘だろ?あんなにナギを大事そうにしていたのに……?どう見ても様子がおかしい。
「…………」
どうしようか。こうなったら…………
「逃げる!」
俺はその場をダッシュで逃げた!
「…………!」
「ちょっ、まっ!危ない!」
俺の後ろを、リエが凄い速さで追ってくる。屋根を飛びながら矢も放ってくるので俺は必死で逃げる。
「くそっ、≪ランダムスチーム≫!」
隙を見て煙を放つが、矢の風圧でかき消されてしまう。こんなの人間業じゃねぇ。
「あーもう!何でこんな目に!」
そんな風に愚痴ったのが裏目に出たのか、俺は躓いてコケてしまった。運動不足がここで効いてくるとは……!リエは速度を緩めず、そのまま矢を放ち……
「はあっ!」
俺に当たるかと思われた矢は、見覚えのある槍で弾かれた。これは……!
「フラム!」
「ようやく姿を表したわね!貴女が誰か知らないけど、私達の邪魔をするなら容赦しないわ!」
「…………!」
何度も矢を放つリエと、それを全てを弾くフラム。脳筋同士の戦いはレベルが違いすぎるらしい。
「≪フレイムスラッシュ≫!」
フラムが槍を振るうと炎の衝撃波がリエに向かって飛んでいく。しかし、リエは弓を振るい、先程の煙のようにそれを打ち消す。
「……ん?」
戦いを眺めていると、ふと、気になったものがある。リエの持っていたあの弓。あれは確か白色の弓だったはずだが……今は禍々しい黒色に染まっている。
(何だ、あれ……)
俺がじっと弓を見ていると、俺の横にフラムが転がってきた。どうやらリエに吹き飛ばされたようだ。俺は慌ててそっちに意識を戻す。
「おい、フラム!大丈夫か!」
「え、ええ……何なのよあいつ……!」
フラムを少し抱えながらリエの方を見る。すると、リエは弓を上に向けていた。あれは最初にやられた……!
「フラム!立てるか!上から矢が振ってくるから避けるぞ!」
俺の宣言通り、矢が上から振ってくる。必死に躱しながら矢の刺さったところを見てみると、地面にヒビが入っていた。フラムも何とか躱したようだが、先程吹き飛ばされたせいか、顔色が少し悪い。少なからずダメージを受けているようだ。圧倒的戦力の差。絶望的な状況。俺はどうすればいいのかを必死に考えていた。
(フラムの回復を待つか……?いや、無理だ。ここは俺が何とかするしかない。けど、どうやって――)
「!……これならいけるかもしれない!」
いつかの夢で見た、あの神から力を借りればいい!少しでも時間稼ぎになるはずだ。俺は剣を構える。すると、まるで心を読んだかのように剣にあのときの文字が浮かんできた。俺はそれを読み上げる。
「≪混沌剣カースフェイス≫!」
すると剣が光を放ち、自分の中に何かが満ちる感覚がした。よし、これで……!
「≪ランダムスチーム≫!」
煙を出すと、リエの動きが鈍る。どうやら弱体化を引いたようだ。俺はそこを逃さず、少ない体力でリエに向かって走る。
「≪混沌式・十六剣術「虚無」≫!」
体が勝手に動き、俺はリエの持っている弓を叩く。弓は威力に耐えきれなかったのか、全体にヒビが入り、粉々に砕けた。それと同時にリエが倒れ伏す。
≪……非常に良い弓だ。我の糧としてやろう≫
剣からそう声が聞こえると、弓の破片が剣に吸収されていく。そして役目を終えたかのように、剣の光は収まった。
「……うう……」
「お、目が覚めたか」
「リエ〜!」
目を覚ましたリエにナギが抱きつく。その顔はキラキラとしている笑顔。こうしてみると、仲いい普通の姉弟のようだ。リエは俺の方を見ると、警戒したように顔をしかめる。
「お、お前……今日こそはその剣を……!」
と、リエが凄い速さで体制を戻し、弓を構えようと――して、その手は空を切った。
「!?弓がない!?」
「弓なら俺が砕いたけど」
「!?」
「え〜あの聖弓を破壊したの〜?何で〜?」
聖弓なのかあれ。すごい黒色になってたぞ。……多分、こいつが変になったのもあの弓のせいだろう。
「わ、私の聖弓マグナムを……!許さん!絶対にお前の剣を奪って……?」
そこまでいって、リエは自分の体を見た。――縄で拘束されている自分の体を。
「なっ!?な、何だこれは……!」
「抵抗しても無駄だぞ。それは兵士さんに借りた魔法の縄だからな。絶対とれない」
「わあ〜お。君、そういう趣味〜?」
何を言い出すんだこいつは。可愛い顔してるからって何言っても良いわけじゃないんだぞ。
「違うわい。こいつを兵士に突き出すんだ」
「……リエ、お勤め頑張ってね~」
「お、おいナギ!少しは助けるという意志はないのか!」
リエの言葉に、ナギはふわふわした顔のままで、
「いや、僕は捕まりたくないし〜。それに、リエがマグナムの暴走を止められなかったせいで僕締められたし〜」
「……くうっ……」
「……ユウ。なんだかあの人が可哀想に見えてきたわ」
「言うな……それより、ナギ。マグナムの暴走ってのはなんだ?」
「ナギ様って呼んでね~」
「ナギ様。マグナムの暴走ってなんなんだ?」
「……貴方、プライドないの?」
フラムに呆れられるが、それはどうでもいい。それより、気になったものを追求するのが先だ。今後同じようなことが起こったときに参考になりそうだし。ナギは満足そうに微笑むと、あっさりと話してくれた。
「あの聖弓マグナムには、人の闘志を増幅する力があるんだ〜それで攻撃力も上がるし、リエは脳筋おばけの怖いもの知らずになるし、一石二鳥だよね~」
脳筋おばけ呼ばわりされたリエが唸ったが、ナギは気にせず続けた。
「でも、それには欠点があってね〜。あまりにも闘志が強くなりすぎると、持ち主が自我を失うんだ〜」
なるほど。諸刃の剣ということか。
「なるほどな。つまりチートが使いこなせなかったってことだよな」
「ぐっ」
「そうだねぇ〜だから僕みたいに代償なしの控えめなチートにしておけばよかったのに〜」
「ぐうっ……」
二人してリエをからかっていると、リエが涙ぐんでしまった。割と繊細らしい。
「……なんだか同情しちゃうわ」
「いやいや、これくらいしといた方が心が折れてもう襲ってこなくなるだろ」
「相変わらずやり方が容赦ないわね……」
「わぁ〜かっこいい〜」
自分でやっといてなんだけど、お前だけは味方でいてやれよ、ナギ。リエがガチ泣きしてるから。
リエが泣きながら兵士に連れて行かれて、しばらく。俺は普段と変わらない日常を送っていた。少しだけ変わったことがあるとすれば……
「ん〜美味し〜このパンケーキ最高〜」
「何でお前はここにいるんだ」
ナギが、いつもの食堂に来るようになったことだ。まだ剣を狙ってるのかと思えば、どうやらそうでもないらしく……
「そんなの、パンケーキを食べるために決まってるじゃん~」
「お前、リエみたいに捕まらなかったのか?」
「僕はギリルールに触れてないし〜そ・れ・に〜」
何故か向かいの席に座っているナギが、こちらに身を乗り出してきた。そして、俺の鼻を突くと、
「君のことが気になっちゃったからね~」
小悪魔のように微笑むナギ。……いやいや、こいつは男だし。ドキッとしたのは多分恋愛経験がないからだろう。そうに違いない。
「な、なんだそりゃ。答えになってないぞ」
「ふふふ〜」
ナギは微笑みながらパンケーキを食べる。こいつはほんとに何を考えてるのかわからんな。俺は頼んだ定食みたいなものを食べながらナギを見る。
「そういや、お前らの目的は何だったんだ?どうして俺の剣を奪おうとしたんだよ」
突如現れて、俺の剣を奪おうとしてきた二人。何故そんなことをしたのか、俺はずっと気になっていた。ナギは少し真剣な顔になり、ぽつりぽつりと話し始める。
「君も日本にいたなら、僕達のことを知ってるでしょ〜?テレビに出たことも、事故で死んだことも」
「まぁ、そうだな」
「僕達には目標があってね。せっかく才能を持って生まれたんだから、それを最大限伸ばしたいな〜って思ってさ〜。それで、この世界に来たときに二人で決めたんだ〜」
ナギはパンケーキを食べる手を止め、フォークを向けた。そして、先程のように笑顔でこう言った。
「じゃ、最強になっちゃえばいいじゃん、ってね〜」
さも当たり前かのように。屈託のない顔でそう言った。単純な言葉なのに、何故か俺の心に響くものがあった。
「……だから、俺の剣を狙ったのか」
「うん。でも、もう良いかな~。君にはリエ抜きじゃ敵わなそうだし〜」
ナギはそう言ってパンケーキを食べるのに戻る。……どうやら、もう襲ってくるとこは無さそうだな。
「……そうか」
「あ、でも〜剣の研究をさせてほしいな~僕の好奇心がビンビンに反応してるんだよね~」
「…………」
前言撤回。やっぱり、剣は守っていた方が良さそうだ……




