第十八話 魔とつくもの
翌日。ようやくドアが直ったそうなので、俺は元の部屋に戻ることになった。変わりにシオンがフラムの部屋を訪れるようになったとか。さてそんなこんなで、俺はいつもの通りに食堂に来ていた。
「はぁ……」
俺は唐揚げみたいなものをつまみながらため息を吐いた。理由は言わずもがな、あの川崎姉弟のことである。
(あいつらはまだ捕まってるけど、安心出来ないんだよな。脱走とかしそうだし)
あの化け物姉弟ならやりかねない。テレビでも有名なアスリートに何度も勝った姉と、クイズ番組で負けなしの弟なら。
「一体どうすりゃいいんだろうな」
ふと考えてみる。ユウとサオリだったらどうするだろう。ユウは多分最初から諦めるだろうなー……サオリだったら頭いいから罠にはめたりとか……
「さっきから何を悩んでるの?」
「うおっ」
声のした方を見ると、そこにはパンケーキを食べているフラムの姿が。こいついつの間に俺の前の席に座って注文したんだ?
「アオイ―、儂は唐揚げを頼む!」
「!?」
横を見ると、腰掛けてたシオンの姿が。だからお前ら不意打ちすんのやめて?心臓飛び出ちゃうから。
「ん?ユウ、それだけで足りるのか?もっと食ったらどうじゃ」
「朝はこんくらいがいいんだよ。俺は食が細いからな」
「…………」
「……お主、本当に十六なのか?」
何だよその目は。二人共俺をそんな哀れむような目で見るんじゃねえよ。もやしだって言いたいのか?それともおじさんとでも言いたいのか?
「まぁそんなことはいいのよ。実はユウに相談があってね」
「おい」
「ユウに絡むあの二人組が釈放されたんですって」
え?嘘でしょ。何でそんなに早いんだよ。不法侵入だよ?法が整備されてないの?
「マジか。そりゃ一大事だ」
「冷静ね……それで、相談っていうのはね。あの二人組をどうするかということよ」
確かに釈放された以上、あいつらはまた俺の剣を狙ってやってくる。これからどうするべきか、対策を練るべきだろう。しかし、対策ねぇ。
「どうするって、避けるくらいしかないんじゃ?」
「それじゃあ私達の活動範囲が狭くなるじゃない。そうじゃなくて、あの二人を懲らしめるのよ」
やっぱりそうなるよな……
「懲らしめるって言っても、あいつら強いから俺等じゃ無理じゃないか?」
「そんなことはないじゃろ。儂とフラムは高レベル冒険者。小娘と小僧くらい楽勝じゃ」
その小娘と小僧に俺とシオンは負けてたけどな。というかこいつは一体いくつなのだろう。川崎姉弟とも年齢はあまり変わらないと思うが。確かあの二人って姉が十七で弟が十六だったよな。
「何か変なことを考えておらんか?」
「いや、そんなことないぞ」
びっくりしたー……何でお前も心読めるんですか?もしかして俺がわかりやすいのか?
「コホン。話を戻すけど……どんな方法を取ればあの二人を懲らしめられるのか。それについて何か提案はあるかしら」
お前ノープランなの?これ今考えられた議題なのか?最初にお前が案を出すとこじゃないか?
「儂の魔物で襲うのはどうじゃ?」
「それで捕まったやつが何言ってるんだ」
「あれは誤解じゃったからのーかんじゃ。そう言うお主はどうなんじゃ?」
「そうだな……罠とかどうだ?こう見えてそういう系の知識はあるんだ」
ネットとかで一時期そういうのを調べたくなったときがあったので結構頭に入っている。確かサオリの読んでた本の影響だったな……
「……二人共、正々堂々倒したりはしないの?」
「「ない」」
あの化け物に実力で勝てるわけがない。シオンも同意見のようだ。だよな。明らかに格上だもんな。
「生憎、儂に力はないからな。どちらかと言えば頭脳派じゃ」
「俺も俺も」
「…………」
フラムがため息を吐いて頭を抱えてしまった。しょうがないじゃない、引きこもりなんだもの。
「フラムはどうじゃ?」
「えっ?そうね…………フレイムバスター、とか?」
「「…………」」
取りあえず、このパーティーの思考はやばいことだけがわかった。
会議みたいなものを終えた俺達は、やることもないので辺りを散歩していた。
「ふあ……眠い」
「情けない欠伸ね。もっと気を引き締めなさい」
「別にいいだろー?眠いもんは眠いんだよ」
朝は苦手なんだよ。俺みたいな日陰者は。
「ユウは寝不足なのか?ちゃんと寝ないと体が壊れてしまうぞ。儂みたいに」
嘘でしょ、お前体壊してんの?どうしてそんなに元気なんだよ。魔法でも使ってるのか?
「ちょっと、シオンも寝不足なの?駄目じゃない、体が育たないわよ」
「儂はもう十七じゃからいいんじゃ」
「まだ十七じゃなくて……?」
確かに。というか、シオンも年上だったのか……俺はパーティー最年少ってことだな。自分が最年少になるのは生まれて初めてだ。今までずっと弟と妹がいたからな。部活なんて入ってなかったし。
「シオン、魔族の年齢って人間と差はないのか?」
「ないぞ。儂は人間の十七歳と一緒じゃ。魔族は別に角があって頭がおかしいのが多いだけで人間とそんなに大差はないんじゃ」
なるほど、人間とほぼ変わらない…………今頭のおかしいのが多いって言った?サラッと流しそうになったけどそれやばくない?
「へぇ、同い年なのね。もっと下だと思ってたわ」
「……それはどういう意味なんじゃ?子供っぽく見えるということか?やはりもっと背を伸ばさないといけないのか!?」
おっと、フラムが地雷を踏んだっぽい。シオン、背低いの気にしてたのか……あまり触れないでやろう。
「……あー、そう言えばシオンが十七ってことは、俺はこん中で一番年下ってことだよな」
「そうね。良ければお姉ちゃんって呼んでもいいわよ」
「1歳違うだけだろが。出会ったときに詐欺まがいのことをしてきたやつを姉と呼ぶ気はないぞ」
「……聞き捨てならないわね。まるで私が悪人みたいじゃない」
「そう思われたくなかったら普段の行動を改めるんだな」
そう言い返してみると、フラムが怖い顔で睨んでくる。どうしよう、早まってしまっただろうか。喧嘩になったら俺敗北確定なんだけど。怖くなってきたのでなんかいじけてるシオンに話を振ることにした。
「そういや、シオンはあまり寝てないって言ってたけど、普段何してるんだ?」
「……本を読んだり、魔物を研究したりしておるよ」
「そうなのか。俺もよく本読んだりするんだよ」
日本にいた頃はラノベとか小説とか買ってよく一人で読んでたっけ。面白くて遅くまで読んでたこともあったなー……懐かしい。俺がそう物思いに耽っていると、シオンがこちらを不思議そうに見てくる。
「意外じゃな。ユウはてっきりそういうのは苦手だと思っておった」
「なんでだよ。俺だって本くらい読むわ」
こう見えて国語の成績は良かったんだぞ。
「でも、普段のユウを見てたら……ねぇ?」
「喧嘩売ってんのか」
買わないけど普通に腹立つな。今度絶対に見返してやる。知識さえあれば何でも出来るんだ。
「そういうフラムはどうなんだよ」
「私?家の教育で読んだことはあるけど、最近は全く読んでないわね」
つまりあまり興味ないってことか。普段の様子から見ても、こいつは根っからの武闘派なのだろう。
「……何だか馬鹿にされてるような気がするわ」
「……気のせいだろ」
どうしてこいつはこんなに勘が鋭いんだ。やっぱり俺がわかりやすいのだろうか……?と、俺が戦慄していると、
「フラムは普段何をしとるんじゃ?気になるぞ」
シオンが首を傾げながらそう尋ねる。確かにフラムが普段何してるのかは俺も知らないな。
「私?鍛錬をしたり、家でダラダラとしているくらいだけれど……」
「それだけか?もっと趣味とかはないのかの?」
「鍛錬していたらいつの間にか日が落ちているのよね」
「「…………」」
……やはりこいつは根っからの武闘派らしい。




