第十一話 平凡な日常
俺の名はユウ。ひょんなことから異世界転生に転生した三兄妹の長男。自由に生きることを目的とする平凡な男…………何だこりゃ。名乗りを考えて見たけどちょっと酷い。暇過ぎて変なことを考えてしまった。カブラギの事件から1週間。俺はいつも通り楽しく生きていた。今日も食堂でスイーツを食べている。
「だから、パンケーキにはシロップですって」
「いえ、ジャムだわ。やっぱり果物が最高よ」
そんな俺の前で、世界一どうでもいい争いが行われていた。朝から止めてくんないかな。
「いや、スライムゼリーじゃ!」
「「それはない(です)」」
なんか一人増えてるんだけど。スライムゼリーって何だよ。絶対食用じゃないだろ。
「……フラムはともかく、アオイさんまで何してるんですか」
俺がそう聞くと、アオイさんは何か悩んでいるような表情でこっちを見る。
「実は、新メニューを出そうと思っていまして……フラムさんとシオンさんに協力をしてもらっているのですが、なかなか意見がまとまらなくて……」
なるほど、新メニューか。……なんでシオンがこんなとこにいるんだろうということは、突っ込んだ方がいいのだろうか。
「とりあえず、シロップとジャム両方試してみたらいいんじゃないんですか?」
「スライムゼリーは?」
「なるほど、それでお客様の反応を試すということですか。いいですね」
「おい、アオイよ、無視するでない」
紫がうるさいなぁ。
「シオンさんのアイデアはちょっと独創的過ぎるので、今回は無しで」
ばっさり言うアオイさん。確かに商売がかかってるからその対応は合ってるんだろうけど、シオンが固まったぞ。
「いいわね。ユウにしてはいい考えじゃない」
「俺にしてはってなんだよ」
こいつは何様のつもりなんだろう。お前と発想はそんな変わらんだろうが。俺はパンケーキを食べ終わると、固まったシオンの肩を揺さぶる。
「はっ、儂は一体……」
「じゃあ、俺はこれで。ごちそうさま」
そうして、俺はその場を去った。
「ユウ!」
俺がなんとなく街を歩いていると、フラムが声をかけてきた。こいつ、パンケーキ談義してなかったっけ。
「クエストに行きましょう」
「わかった」
「え!?」
何で驚いてるんだ?言い出しっぺが。フラムはわなわなと震えながら、指を指してくる。
「い、いつも一回断るユウが、どうしたの!?何か、変なものでも食べたの!?」
「スイーツとサラダくらいしか食べてないな。……というかお前そんな失礼な事言うなよ。俺だってやるときはやるんだ」
フラムは信じられないというような反応を続ける。こ、こいつ……
「そんなに信じられないんだったら、俺は行かないぞ?」
「い、いえ!もちろんユウの事は信頼しているわ!だからギルドと反対の方に行こうとしないで!待って!」
慌てるフラムに引き止められ、一緒にギルドへ向かう。フラムは最後まで微妙な顔をしていた。
「ねぇ、これは違うと思うの。一回考えましょう?」
「違うも何も、こうしないとキメラが来ないわけだが」
俺達が受けたクエストは、キメラという魔物の討伐である。キメラは獅子の頭に鳥の羽、蛇の尻尾……などのいろんな動物の一部が組み合わさって出来た魔物。警戒心が強く、滅多に姿を見せないらしいが……
「まさか、異性に惹きつけられるなんてな。しかも生き物なら何でもいいとか」
ちょっと攻略法がわからなかったので、アオイさんに聞いてみたのだが、得た情報はこれだけだった。ちなみにアオイさんはこの習性を利用して雄のキメラを狩りまくったとか。怖い。…………というわけで俺は、フラムと一緒に自らを餌にしていた。具体的には、香りを強くするために香水をつけて、警戒心を解くために武器もしまっている。キメラが雄か雌なのかわからないので、俺もやっている。フラムは流石に武器なしは怖いのか、ぶるぶると震えていた。
「……これ以外にもっとやりようがあると思うの。だから武器を出してもいいかしら?」
「駄目だ。ほら、ちょっとキメラの姿が見えだしたぞ。武器出したら逃げるだろ」
「ええ……」
「俺だって怖いんだ。我慢してくれ」
俺達はそう言いながら、キメラが近付いて来るのを待つ。……今更だけど、凄い見た目してるな。鳥の頭、獅子の体、尻尾は豚というところだろうか。豚要素絶対いらなかっただろ。キメラはこっちを凝視しながら、こっちに近付いて来る。やがて俺達のところにたどり着くと、俺とフラムを交互に見始めた。
「……ねぇ、本当に助けてくれるのよね」
「それはお互い様だ。お前こそ俺を置いて逃げるんじゃないぞ」
小声でそう話していると、ふと、キメラが俺の方を見た。……これは雌ということだろうか。俺はフラムに武器を出すようにサインを送る。フラムは素早く槍を取り出す。それと同時に、キメラは俺に手を伸ばし――
「あああああぁぁ!フラムー!」
そのまま押し倒された。……こいつ俺の服を破こうとしてくるんだけど!そんで凄い乗っかかってくるんだけど!キメラってこんな風に襲ってくるのかよ!よくアオイさんはこいつをボコボコにできたな!俺の必死の叫び声にフラムは槍を構える。
「っ、≪フレイムバスター≫!」
よしきた!内臓焼く技!ん?火……?
「熱っ!お前どこに槍を刺してるんだよ!俺から離れたところにしてくれよ!」
「あ、あら?ごめんなさい!≪フレイムバスター≫!」
「キエエエエエ!?」
キメラは叫び声をあげると、糸が切れたように動かなくなる。あ、危なかった……何か大切なものを失うところだった。
「大丈夫!?ユウ!」
「大丈夫だけど、早くこいつどかしてくれない?」
重さで潰れる。キメラが俺を押し倒したまま死んだから俺に全体重がかかっている。俺もうちょいでぺちゃんこになる。フラムがキメラの体をどけると、俺は体をぐっーと伸ばし、どこか失ってないか確認する。良かった。五体満足のようだ。
「ふう。なんとかなったな」
「あなた意外と冷静ね……」
「いや、結構怖かった」
怖すぎて逆に冷静になった感じ。足動かないし、さっきの奴がトラウマになりつつある。
「というわけで、動けないから運んでくれないか?」
「嫌よ、私がそんな目に会うかもしれなかったんでしょ。自業自得よ」
そう言って、フラムは先に行ってしまった。俺は後で制裁してやろうと決意してなんとか歩き出した。
「……って感じですね」
「それは……お疲れ様です。でもユウさんにも非はあるんじゃないですか?」
クエストを終えた俺は、いつも通り食堂に。アオイさんに今日の出来事を話すと、咎めるような目で見られた。そんな目しないでください。
「反省はしてますよ。今度はもうちょっと安全な方法教えて下さい」
「えっと……私はあの方法しか知らないので……」
なんでだよ。もっとあるでしょうが。あなたもしかしてあれから始めたんですか?最初から上級なんですか?
「ガルムさんに聞こうかな……」
「その方がいいと思います。…………というか、ユウさんはいつどこでガルムと会ってるんですか?いつもユウさんが会いに行くところに行っても、ガルムがいないんですけど……」
マジかよ尾行されてたの?ガルムさんがいつも変装してるのはそのせいだったのか。「俺のことは今ヴェールと呼んでくれ」って言ってたのもそういう事か……
「…………」
「なんで黙るんですか。教えて下さい。最近弟成分が足りなくてストレスが酷いんです」
「…………三丁目くらいだったかなあ……」
嘘である。本当はちょこちょこ会う場所を変えている。ガルムさんが、「こうでもしないと姉ちゃんにバレるから」と言っていたのが印象的だ。後、弟成分って何?俺弟いるけど補給したことないよ?
「そうですか!――ちなみに嘘だったら高いメニュー頼ませますからね」
「すみません、俺もガルムさんがどこにいるかわからないんです。いつも郵便出してもらって待ち合わせ場所に行ってるんです」
俺はギリギリのラインで本当のことを話した。すみませんガルムさん……!俺の財布重くないんです……!
「なるほど……ならユウさんの筆跡を真似て……いや、いっそ探知魔法を……」
怖い。本当にごめんなさいガルムさん。俺には止められませんでした……アオイさんはその後もガルムさんについて考えていた。




