間幕 弟と妹
「……暇」
僕のベッドの上でサオリはそう呟いた。珍しく本も読まず、ぐたーっとしている。なんだか猫に見える。
「……どうしたの、サオリ」
「暇。せっかくの休みなのにやることない。暑い」
「クーラー入れようか?」
「……休みなのにやることない」
サオリは不貞腐れたようにごろんと転がる。そんなこと言われてもなあ……
「……カイトはゲーセン行ってるし、名田さんは用事があるから遊べないよ」
「ユウの交友関係が狭い」
「…………」
ぐうの音も出なかった。
「ユウ、見て見て。でっかいダンゴムシ」
「……お店の中には持ってかないでね」
というわけで、やってきたのは近くのショッピングモール。ちょうど買いたいものがあったのでサオリを連れてここに来た。
「じゃあ私本屋行くから」
「うん、わかった。気をつけてね」
一応それだけ言って、僕は目的の場所へと向かう。やがてたどり着いたのは雑貨屋。前に兄さんと来ようと話してたところである。叶わぬ願いだったけど、せめて中を見ようと思って来たのだ。
「うわ……いろんなものがある……」
CDが置いてあったり、キャラクターのぬいぐるみが飾られている。僕はあまりこういうところに来たことがないので新鮮に感じる。いろいろと辺りを見渡していると、見知った顔を見つけた。
「名田さん……?」
「!?ユウ君!?」
そんなに驚かなくても。とって食うわけでもないのに。名田さんはコホンと咳払いをすると、笑顔で話しかけて来た。
「こんにちは、ユウ君。ユウ君もここに来てるなんて驚いたよ」
「うん、妹と来てるんだ。……名田さんの用事ってここのことだったんだね」
僕がそう言うと、名田さんは照れたように頬をかく。そう言えば、名田さんと始めて会ったときも、こんな会話をしたな……
「ユウ君は、何か買いたい物があるの?」
「……あー、まだ見てるだけだよ。名田さんは?」
名田さんのほうを見ると、キャラクターの缶バッジを手に取っていた。なんだろう。
「私はこのコンたろーのグッズを買いに来たの。これ、可愛いでしょ?」
缶バッジには狐をモチーフにしたようなキャラクターが描いてある。…………なんでうちわを持ってるんだろう。納涼とか書いてあるんだけど……夏のキャラってこと?でも、可愛い事には違いはない。不思議なキャラだ。
「確かに、可愛いね。もっと見てみたいかも」
「ふふふ、じゃあ一緒に見て回ろうよ。ここの品揃えは凄いんだよ」
目がキラキラしている。よっぽど好きなんだろうな……結局、僕は名田さんに付き合ってグッズを見ることになるのだった。
「…………誰?」
「こんにちはサオリちゃん。私、ユウ君の友達の名田ミツキっていうの。よろしくね」
「ユウにこんな美人な友達が……凄い」
「ちょ、ちょっとサオリ」
名田さんがちょっと顔赤くしてるよ。というか、いつも話してたはずなんだけど……あ、会ったことはなかったっけ。先程名田さんと雑貨屋を見終わった後、サオリと合流して……今に至る。サオリは人見知りのせいか、少し名田さんのことを警戒していた。
「ユウ君、こんなに可愛い妹がいたんだね。ちょっとびっくりしたよ」
「あはは……」
「何と言う陽キャ成分……溶けそう」
サオリが何を言っているか分からないけれど、少なくとも悪い印象は持たれていないようだ。
「……谷口サオリ。ユウと同い年、以下同文」
「こらこら」
以下同文って何?表彰式じゃないんだからさ。
「え?サオリちゃん同い年なの?じゃあ他のクラスにいたりとか?」
「サオリは別の学校だよ」
「へー……そうなんだ」
名田さんはふむふむと頷く。そんなに興味を持つものだろうか。
「そうだ、サオリちゃんも一緒に買い物する?」
「……いいの?」
サオリの目が少し輝く。普段友達と出かけるということがないから、魅力的に聞こえたのかな……ちなみに、彼女は絶賛友達募集中。兄として喜ぶべきか否か難しいな……
「行く。ユウ、お金貸して」
「……あれ、サオリちゃんとお金持ってたよね?」
「本買ったから、少ししかない」
「わかったよ、はい」
サオリにお金を渡すと、満足そうに微笑む。そんなに買い物行きたかったんだ……今度名田さんにサオリを誘ってもらおうかな。
二人で買い物に行くことになったので、僕は自販機で飲み物を買って一人待っていた。しばらくすると、買い物袋を手に下げた二人が帰ってきた。
「お帰り。どうだった?」
「……ぶい」
「サオリちゃん、これ美味しいけど食べる?」
「食べる」
おお……サオリが懐いてる……何だか珍しい。名田さんが差し出したお菓子をもぐもぐ食べている。
「ありがとう名田さん。サオリも喜んでるよ」
「……!?ちょ、恥ずかしい……」
「良かったー。私も楽しかったよ!今日はもう帰らないといけないけど、また遊びに行こうね!」
「うん、またね」
別れの挨拶をすると、名田さんは去っていった。やっぱり名田さんっていい人だな……サオリの方を見ると、どこか惚けた様子で名田さんの去った方を見ていた。
「いい人……ユウの知り合いにあんな人がいたなんて……」
「僕、いつも話してるはずなんだけど」
「あ、そうだった。ユウ、ミツキさんと連絡先交換した」
「…………凄く仲良くなったんだね」
なんだか羨ましいな。
「うん。あの人、お兄ちゃんに似てる。親しみやすい」
「……そう」
やっぱり、サオリも兄さんが大好きだったんだ。名田さんが兄さんに似てるかどうかは分からないけど、サオリが嬉しそうで何よりだ。
「……ユウも、もっとミツキさんと仲良くなったらいいのに。友達でしょ?」
「そうだね。今度名田さんも誘ってどこかに遊びに行こうか」
「うん、おすすめのラノベ勧める」
通常運転すぎるサオリに、僕は思わず笑ってしまった。




