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第5話

時間は少し経過し、朝が来た希望の朝となるか、絶望的な朝となるかは、一の技量に懸かっている。


 一はスーツを着て、アタッシュケースを持ち、出掛ける準備をする。

 昨日は寝付くのに苦労した。


 一はさながら遠足前の小学生、定期試験前の中学生のような若干不安な面持ちだった。

 外見と違って、少しストレスに弱いのが一の数少ない弱点であった。


「それじゃあ行ってくる」


時刻は朝7時。

 一はいつも8時に家を出る。

 本腰を入れて仕事に臨む必要があるため、いつもとは違う早い時間帯に出る必要があった。


「あっ、兄ちゃん」


 玄関扉に手を掛けたその時、愛海が一に声を掛ける。


「ん、どうした?」

「弁当、作ったから持ってってよ」


 愛海が少し恥ずかしがって初めに藍色の巾着に入れた弁当箱を目の前に差し出した。

 普段はコンビニやスーパーに寄って栄養補助食品やバナナやりんごなどを買って食べているのがほとんどだった。

 だからこそ、愛海の手作り弁当が目の前にあるのは意外な光景だった。


「なんでいきなり弁当なんか……」

「兄ちゃん、大事な依頼任されてるんでしょ?だから願掛けっていうか、景気づけっていうか、ちゃんと栄養付けて仕事に集中して欲しいの」


 愛海のまさかの心遣いに一は面食らい、固まってしまう。


「兄ちゃん?どうしたん?」

「いや、まさかもう一人景気づけに物をくれるとは思わなくてな」

「は?誰に?」


だがすぐに意識を取り戻し、「なんでもない」と言って巾着を受け取る。


「ありがとうな、愛海。兄ちゃんこれ食って仕事片付けてくるぜ」


 愛海からもらった弁当を手に、一は家を出た。


 一は確かな足取りで、仕事道具を取りにある場所へと向かっていた。


 一は家に仕事、つまり殺し屋関係の物を持ち込まない。

 妹の愛海のためでもあるが、プライベートと仕事は分けて生活するのが一のライフスタイルだった。

 一は寂れた倉庫に辿り着いた。

 大きな窓があり、壁はコンクリートでできており、苔がこびり付いていた。

 人が何十人も入れる広そうな建物だった。

 錆びた扉を開け、中へと入る。

 室内はいくつかコンテナがあり、一は慣れた様子で白いコンテナの前に止まる。

 コンテナの開閉扉には南京錠が掛けられており、一は鍵を取り出して南京錠を外してコンテナの中へと入った。


扉を閉めて入った瞬間、床がガクンと動いて地下へと向かって音を立てて動いた。

 しばらく待つと、地下空間が広がっていた。


 着いた瞬間、バッと音が鳴って地下空間の部屋を白い光が明るく照らした。

 それほど広くはなく、中は大中小様々なサイズの銃やボディアーマーなどが陳列しており、仕事道具であることが分かる。

 一はスーツのジャケットを脱ぎ、相手の銃弾から自身を守る防弾チョッキを着用し、両脇に拳銃のホルスターを掛ける。


 そしてそこに自動拳銃二丁を収納し、予備のマガジンを数個腰に、更にはナイフを後ろに隠す。


 そして念のために閃光手榴弾を携行し、最後に、足首に小型の拳銃を括りつけた。


 一は用意周到だ。


 自分が失敗などありえないと思いつつもバックアップを常に自身の身体に詰めておくことでいくつもの危機を乗り越えてきた。


 そんな場面が何回もあったからか、一は常に足首に巻ける小さいナイフと銃を忘れない。


「……行くか」


 一はふうと息を吐いて、地上へと戻っていく。コンテナから出て、倉庫から出て行く。目的地は牧本良治の居る邸宅だ。



 一は公共交通機関を使って牧本の住む豪邸へと辿り着く。


 一は外見だけはどこにでもいるようなサラリーマンのなりをしているので、誰も彼がこれから正義の政治家を殺しに行くとはだれも思っていなかった。


 牧本の屋敷は庶民の住む家とはかなり離れた距離のある、自然の中にひっそりと、だがそれでいて堂々と存在感を醸しだす豪邸だった。


 見た目は真っ白な居城のような屋敷だった。

 二メートル以上の白く塗られた壁に、巨大な鉄製の門が来訪者を威圧するように佇んでおり、門の前には警備の人間が三人居た。


 一は木陰に隠れながらファイルの内容を思い出す。ファイルの中には警備兵の人数、彼等の所持している武器、監視カメラの位置、家の間取りが事細かく載っていた。


 その情報のおかげで一は如何に目立たず侵入し、ターゲットの頭に鉛玉をくれてやる作戦を考えることが出来た。


 一はマスクを被り、仕事モードになって身を乗り出す──が、彼は一瞬動きを止めた。


 一人の人間が、牧本の屋敷の門を通り、止まったのだ。

 見た目は茶色の革ジャンと黒いズボンの、性別不明の人間だった。


 一は身体を隠し、様子見をする。

 なんだって辺鄙な土地に住居を構える人間の元を訪ねているのか、一はまるで理解が出来なかった。


 一はこっそり目だけを出して観察する。

 どうやら来訪者と警備兵達は言い争いをしているようだった。警備兵の一人が来訪者の襟首を掴んだ。


 するとその警備兵はその来訪者に腕を掴まれ、あらぬ方向にへし折られた。


「ん?」


 一は目を疑う。

 今の動き、とても洗練されていた。お手本のような折り方だ。


 そして他の仲間の二人の警備兵が来訪者を鎮圧すべく襲い掛かる。


 一人は自動拳銃を、そしてもう一人は警棒を持って対峙しようとする。

 だが、発砲する前に、警棒を振り下ろす前に、二人の警備兵達は力なく地に倒れ伏せた。


「あの動き……」


 一は冷や汗をかいた。

 百戦錬磨の一が焦りを見せるほど凄まじく恐ろしい速さだった。


 一は一瞬だったが、見えた。


 あの来訪者が右の手の甲から半月状の刃物を出現させ、二人の警備兵の喉と心臓を熱したナイフでバターを切るみたいに、流れるように斬り裂いた所を。


 残された腕を折られた警備兵は泣きながら命乞いをしていたが、来訪者は懐からサイレンサーが装着された拳銃を取り出し、眉間に向けて二発発砲した。


 来訪者はポケットからスマホを取り出し、門の前の警備兵の死体と一緒にピースサインを取りながら写真を撮った。


「なんだあのイカレ野郎……」


 一は困惑しながら来訪者を見据える。

 来訪者はスマホをしまい、門を開け、屋敷の中へと入って行った。一もそれを追った。


 一は門の陰に隠れ、様子をうかがう。


「誰だお前!」


 屋敷の中は既に来訪者の存在を感知し、厳戒態勢へと入って行った。


 一気に警備兵達が雪崩込み、来訪者を囲む。

 大勢の警備兵達に銃を向けられているのにも関わらず、来訪者は微塵も動揺していない。


 それどころか武器を捨てろ、投降しろと言われているのにもかかわらず、両手に銃を握り、警備の一人を撃った。


 発砲されたことにより、警備兵達は来訪者に一斉に銃口を向けて撃ちまくるが、驚くべきことに来訪者は銃弾が来る方向を予測しているかのように奇妙な動きで躱し、それと同時に両手に持つ拳銃で的確に警備兵の眉間と胸に銃弾を撃ち込んだ。


 銃弾が当たらず、近接戦に切り替えた者もいた。

 だが先程一も見たように手の甲に隠し持っていた半月状のナイフ、カランビットナイフを使い、手や足を切られ、しまいには喉を斬られて血の泡を出しながら絶命してしまう。


 大人数で囲んでいるのに傷の一つも付けられない惨状を見て、一は考えを巡らせる。

 何者かは知らないが、警備のほとんどが来訪者を制圧すべく向かっている。

 一は武礼渡から渡されたファイルの中の情報を思い出す。

 牧本の屋敷には正面玄関の反対側に裏口がある。


 牧本が襲撃されている事を認知していれば、彼は警備兵と共に裏口へ向かうはずだ、と一は予測し、正面玄関から離れる。

 屋敷の中では悲鳴と腹の奥を揺らすような火薬が炸裂する発砲音が鳴り響いていた。


「牧本、今からそっちに行くからな。生きててくれよ」


 ここだけだとこれから誰かを救いに行く立派な台詞に聞こえるが実際は部外者から自分のターゲットを奪われないために急いでいる。


 一は裏口へと急ぎ、屋敷の中に侵入する。


 思惑通り、裏口付近には警備の人間は居なかった。姿勢を低くし、ホルスターから拳銃を抜いて構えながら屋敷の屋内に侵入する。


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