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第41話

「クソ、クソ!クソクソクソクソ!何が伝説の殺し屋だ!散々自分語りしておいて、格下に負けるなんて、大金を払った意味がまるでないではないか!」


 武礼渡は自室から出ると、屋敷の庭園を横切って屋敷の外へと脱出しようとする。

 荷物はなく、己の身のみ。もはやなりふり構っていられなかった。

 数多の人間を殺すよう仕向けてきたのに、いざ自分の番になると、すべてをかなぐり捨ててでも逃げようとしていた。

 だが所詮は老人、足の速さでは彼等には勝てず、一発の銃声が彼の頬をギリギリ掠めるか掠めないかで彼の目の前の壁に小さな案と亀裂を入れた。


「じいさーん!良い夜だね。ちょっとお話しようよ」


 愛海は少女らしい穏やかな笑みを浮かべていたが、戸坂にとっては違う。

 絶望の底に突き落とす死神の微笑みにしか見えなかった。


「あ、ああ…!わ、私も君達と話がしたかったところなんだよ!」

「へぇ奇遇だな。でも俺達は今疲れててさ、話すなら手短に行こうぜ?」

「あ、ああ!勿論だとも!私達にはどうやら誤解があったようだ。思い違いとでも言うのかな、すれ違いをしていたんだよ!今回はそれについて弁明させてもらいたいと思うんだ!ただ私の言い分も聞いてくれ!これは仕方のない事だったんだ!不可避の事故だったん──」


 戸坂が早口で話していたその時、戸坂の頭上すれすれに9ミリ弾が掠めた。


「耄碌して聞こえなかったか?手短にっつってんだよ」

「わ、悪かった!全て私が悪い!悪かったです!君達の懸賞金10億については取り消させてもらおう、あ!いや!取り消させて頂きます!」

「今目の前でやれ」


 一は殺意たっぷりに眼光で睨みつける。

 戸坂は震えた手でスマートフォンを操作し、依頼を取り消したことを画面を見せて証明する。


「ほ、ほら!依頼は取り消した!これで君達の元に同業者達が襲い掛かってくることはもう二度とない!そ、それから君達の前に二度と顔は見せない!神に誓おう!」

「俺達に誓え」

「あ、貴方達に誓います!私戸坂司は二度と貴方達の前にこの卑しい顔を見せません!だから、だからどうか命だけは……!」

「弟子の政治家や記者、先輩の政治家散々ぶっ殺してきたくせに随分都合がいいじゃねぇか、ええ?その汚い面から脳味噌ぶちまけて──」


 一がそう言って拳銃の引き金に指をかけたその時、愛海の小さく細い手が一の銃を下ろすよう促した。


「愛海……?」

「やめて、兄ちゃん。元々は私が撒いた種。私が責任をもって決着をつけなきゃ。でも殺しはしない」

「ほ、本当か!?私を助けてくれるというのか!?ありがとう!ありがとう!」

「お前は黙ってろ!それで、愛海。コイツをこのまま生かしてどうするってんだ?」

「…?誰も生かすとは言ってないよ?そして殺すとも言ってない。でも、別の方法で殺してあげる」


 そう言って愛海は自身のスマートフォンを戸坂に投げつけ、「見て」と顎で指示を出す。

 何がしたいのか分からない戸坂は指示通り画面を見る。

 すると目と口が裂けそうな程大きく見開きながら、画面を注視した。

 画面の中には戸坂のこれまでの汚職や脅し、そして排除した政敵の殺害依頼リストなどの事細かな情報がネットニュース上に載っており、そして更には、かつて自分が殺したはずの弟子、牧村良治が記者会見を開いている動画があった。


「なっこれ、これは……!?」

「アンタには、社会的に死んでもらう。それが牧村からの依頼だよ」


 そう言って愛海は懐からワルサーPPKと一発の弾丸を取り出し、戸坂の前に置いた。


「アンタには二つの選択肢がある。その一発を憎くて仕方ない私達の誰かに向かって撃つか、もしくは今後の暗い余生を憂いて自分で終わらせるか、天使みたいに優しい私はチャンスをあげる。よく考えて使いなさい」


 そう言って愛海は戸坂に背を向けて歩き出す。愛海の復讐計画が大成功した事を完全に理解した一は意気揚々と愛海の肩を抱きしめながら一緒に歩き出す。


「あ、あああ……ああああああああああああああ!!!」


 戸坂は全てに絶望し、悲痛の叫び声を上げのたうち回る。

 その様子を見ていた良子と綾はえげつねー……と若干引き気味に戸坂を見ていた。


「お前…マジですげぇよ愛海!こんな最高の復讐方法思いつくなんて!やっぱりお前は自慢の妹だ!」

「当然でしょ。だって私は腕間一の妹だもの!」


 戸坂の悲鳴が聞こえる所で仲睦まじく歩く兄妹は突然の発砲音と戸坂の悲鳴が止まったことにびくりと身体を震わせて後ろを振り返る。


「……」

「……」


振り返った先には無表情で戸坂の頭を撃ち抜いた綾と、その綾の両肩に手を当ててセルフィーを撮る良子の姿があった。


「私達勧善懲悪でも復讐でもなく、お金を稼ぎに来たのよね」

「100億ぷりーず」

「「ええ~……」」


 イイ感じに迎えつつあったエンディングは、四人の間に流れる微妙な空気と共に幕を閉じた。


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