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第40話

 そう言って愛海は武礼渡と一の視界から消え失せた。

 武礼渡は辺りを見回すが、そこに愛海は居らず、背筋に悪寒を感じ、振り向きざまに横薙ぎを放つ。

 愛海は武礼渡の背後に居り、横薙ぎの一撃を屈んで避け、カランビットナイフで人体の急所である首、脇、腕、腹目掛けて拘束で振りまくる。

 先程の身体が大きい状態とは違う超高速のナイフ術に武礼渡は初めて複数個所に傷を負い、愛海は狙い通りの場所に傷を付けられた事に手応えを感じた。

 そしてそれが砂一粒程の慢心を抱いた。


「愛海!避けろ!」


武礼渡は左手から小型の拳銃であるH&K VP9 SKを取り出し、愛海の額に向けて二発撃ちこんだ。


「愛海ッ!!!」


 一は妹の名を呼んで一目散に駆け出した。

 しかし武礼渡に照準を向けられ、同様に頭に二発弾丸を喰らった。

 一は呻き声を上げて地面に倒れ伏せる。


「私に傷を負わせ、あまつさえ銃まで使わせるとは……本当に君達は大したものだ」


 武礼渡は息を切らし、呼吸を整えるため息を大きく吸って吐いた。


「だが思い上がりも甚だしい。私を誰だと思っている?百年を生きる最後の侍、武礼渡様だぞ?それを君達みたいな小汚いネズミが、どうにかできると本気で思っていたのか?舐めるなよ小童共がッ!!」


 そう言って武礼渡は愛海の腹部に思いきり蹴りを入れる。

 「ガハッ!」と愛海は声を上げて痛みに喘ぐ。


「あ、愛海…!」

「君達のマスクは防弾機能が付いているからね、これくらいで死なない事は理解しているよ。だから僭越ながらその偽りの仮面を剥させてもらおう」


 そう言って武礼渡は愛海と一のマスクを剥した。

 意識が朦朧としている二人に刀と銃を向ける。


「この、卑怯者のクソ野郎が……!刀しか使わないってのも嘘ってか!」

「思い込みは人生の中で最も危険な行為だ。主観だけで物事を判断するから、こうやって選択を間違える」


 武礼渡はニヤリと笑みを浮かべながらそう言ったが、額や首筋から汗を流し、疲労困憊な状態でそう語り、首を振って意識を保とうとする。

 どうやら余裕満々という状態ではないらしい。

 一世紀の間どれだけの戦いを生き延びたとしても、老強剤で老いを遅らせたとしても、所詮は老兵、一と愛海との二人の戦いで体力を大きく消耗させたようだ。


「遺言くらいは聞いておいてやろう。何か言いたいことはあるか?」


 武礼渡は鼻で嘲笑いながら聞き、一と愛海は徐々に意識をはっきりとさせ天井を見上げる。


 二人は天井のある部分を見つめるとそれが夢幻ではないかと目をしばたたかせて真偽のほどを確かめるが、見間違いではない事を二人は確認し、互いを見合いながら笑って頷く。


「ああ、決まったぜ。俺達のお前に向けた最後の言葉」

「そうだね。私も決めたよお前に送る最後の言葉」

「ふむ。言ってみたまえ」

「愉快で楽しい私達の友達がお前の動きを止めて、私がお前の刀を奪って逆袈裟斬りをして、兄ちゃんがお前の心臓を突く!」

「なんだと……?」


 武礼渡は首を傾げて刀の切っ先を愛海に突き出そうとし、銃口を一に向けて引き金を引こうとした時、天井から爆破音が聞こえ、木屑と煙を上げて良子と綾が空から降って来た。


「何ッ!?」


 武礼渡は完全に予想外の展開だったのと、疲れ切って体力を消耗していたこともあり、反応が遅れ、良子が武礼渡の右手を、綾が左手を抑えて身動きを取れなくした。


「「今だよ!!」」


 良子と綾は声を重ねて一と綾に呼びかけた。


「邪魔だ虫けら共がァッ!!」


 武礼渡は二人を振り払い、良子の腹を斬りつけ、綾の左肩に発砲した。

 二人は後ろに倒れ込んで戦闘不能に陥った。


 だが一と愛海は彼女達が作ってくれた唯一無二の絶好の機会を逃さぬ為、残っていた気力を振り絞って雄叫びを上げながら立ち上がる。


 一は武礼渡の左手を掴み、拳銃へと手を這わせリリースボタンを押し、マガジンを抜いて薬室内に残っていた弾丸を排莢する。

 愛海はカランビットナイフを使い、武礼渡の手首を斬って握力を失わせ、刀を奪い取った。


 奪い取った刀を左斜め上から斬り落とす。ザシュッ!という切断音と共に武礼渡は「ぐああっ!」と苦痛の叫びを上げ、愛海に拳銃を向けて発砲しようとするが、引き金を引いても弾丸が射出されることはない。

 武礼渡は一瞬呆然とし、何故撃てないのか理解できなかったが、彼が一にマガジンと薬室内に残っていた弾丸を抜かれたことに気づいたのは、一が愛海から刀を受け取り、彼に心臓を貫かれたその後だった。


「これで終わりだ」


 意趣返しと言わんばかりに先程武礼渡に言われた言葉をそのまま返す一。

 彼の得意気な顔を忌々しく睨みつけながら、武礼渡は畳の上に転がるように倒れ伏した。


「く…そ……この、私がお前等みたいな……ゴキブリ共に……!」

「おーおーネズミの次はゴキブリと来たか。随分と罵倒のレパートリーが豊富だなぁオイ」


 一は武礼渡を見下ろしながら言い、武礼渡は屈辱的な感情を抱き、血の泡を吹き出す。


「アンタに憧れて個人プレイを貫いてきたが、アンタを超えるためには、誰かの力が必要だった。だからアンタを倒せた。そのおかげで今日一つ学んだことがあるぜ。自分本位で他人を平気で蹴落とすクソ野郎に、俺達が負けるわけがねぇってな」

「殺し屋のお前が言っても、何とも思わんが、まさか…一番見下していた男に、殺されるとは……私も随分と焼きが回った…ようだ、な……」


 そう言って武礼渡は力尽き、目から生気が消え、絶命した。

 一は最後まで、武礼渡の目を見ていた。

 尊敬していた男の本性を知っていても、心のどこかでは未だ敬意を抱いていた。

 その想いを、一は否定せず、再び心の奥に仕舞い込んだ。


「良子、大丈夫か?」


 一は武礼渡から負傷している良子と愛海に視点を変え、駆け寄って片膝を落とす。


「あーだーじょぶだーじょぶ……腹ちょっと切れただけで、モツは出てないからサ。まぁでも痛い事に変わりはないけど」

「私も。肩から命を循環させる熱い血液が流れて失ってるだけで、何も問題ない」

「わかったわかった。お前達のお陰で助かった。今回ばかりは素直になるさ」

「私だけでも、兄ちゃんだけでも、あの伝説を超える事はできなかった。皆でやったから、殺せたんだ。皆、本当にありがとう……」


 その皆には一や良子と綾、そして散って逝った殺し屋達も含まれ、四人も両眼を瞑りながら黙とうをした。


「さて、なんかいい感じに終わったーみたいな雰囲気になってるけど、私達まだなーんもやり遂げてないよね」


 良子が思い出させるように皆に言うと、三人は「あー…」とめんどくさそうにため息交じりの声を出し、畳から立ち上がる。


「行くか」

「いこいこ」

「いくかー」

「いくよー」


 四人はそれぞれ同調し合うと、奥の部屋へと歩み始めた。


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