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第39話

監視カメラの映像を見ていた戸坂は顔を思い切り青ざめさせ身体を震わせて恐怖した。


 今まで自分を殺そうとしてきた殺し屋はいたが全て未遂で終わった。

 何故なら今までは武礼渡の弟子や護衛が彼等を始末していたからだ。


 だが今回の敵は文字通り格が違う。数で圧殺しようにも一騎当千の猛者が4人もおり、自分の護衛や武礼渡の弟子達も赤子をあしらうように処理され、まるで相手にならない。


 このままではまずい。

 暗殺依頼の期限が過ぎるまで雲隠れをして逃走しなければ、いよいよ自分の命はここまでかもしれない、戸坂は戦々恐々としながらそんなことを考えていると、


「お、おい!私の雇った護衛はどれも一流の者ばかりだった!お前の弟子もなんだあの有様は!たった四人の賊共に壊滅させられているではないか!」

「戸坂氏」

「あぁもうおしまいだ!祖国に多大な貢献をしてきたのに、無知蒙昧な愚かな人間に殺される!どうしてこんなことになった!?こんなことになるくらいならいっそ──」

「戸坂氏」


 武礼渡が自分の肩に手を置いた。

 彼は戸坂に温和な表情を見せ、若干だが昂り恐怖する自分の心臓を落ち着かせた。


「私の評判をお忘れですか?」

「い、いやそれは…」

「私は百年を生きて来ましたが一度も仕事をしくじった事はありません。特に戦時中の時は沢山の人間を斬ってきましたが、あの頃と比ぶれば今の業者など案山子同然。まぁ、少しは骨のある奴もいるようですが、所詮は平和な時代に生まれた腑抜け。私が始末します。ここで見ていてください。素晴らしい処刑劇を見せてあげましょう」


 武礼渡はそう言うと壁に立てかけてあった刀を左手で持ち上げ、鞘から刃を半分弱ほど抜き、銀色に光る刃に映る自身の顔を見る。

 そして再び刃を鞘に納めると赤い鬼を模した仮面を顔に付ける。


「それじゃあ、殺すか」


 鬼と化した伝説の殺し屋は仮面の奥で恐ろしい笑みを浮かべながら、同族を狩りに悠然と歩いていった。



 渡り廊下を抜けると、「ぎゃああああ!」と男の絶叫が一と愛海の耳に入る。


「戸坂の悲鳴かな?もしかしてもう殺しちゃった?100億渡すのやだなぁ〜」

「いや、よく見ろ愛海。俺達と同じ業者だ」


 そう言って一は指をさす。

 その先には彼等と同じ死にかけの殺し屋がとある部屋の外で倒れているのを発見する。

 身体を見ると無数の斬り傷があり、最大の致命傷は両腕を斬り落とされた事による失血であった。


「あれ?お前手斧の小野寺じゃん」

「コイツ知ってるの兄ちゃん?」

「あぁ。俺と同じゴールドクラスの業者だよ。名前の通り手斧を得物にしてるんだ。名前のわりにコイツ結構強いんだぜ?雑魚にやられる程の奴じゃないはずなんだが」


 一が妹の言葉にフォローを入れながら話すと、手斧の小野寺はうつらうつらとしながらも彼らに視線を合わせ話し始めた。


「あぁいや…白い仮面の奴等ならど、うってことなかったさ……だが、あの赤い奴は違う。刀しか使ってなかったのに俺と同じレベルの同業者もやられた……お前等も…逃げるんなら今逃げた方が良い。だがもしやる気なら、気を付けろ、よ……」


 そう言って小野寺は目を開けたまま息を引き取った。


「赤い奴って、もしかして武礼渡?」

「いや、武礼渡は仕事の時は仮面やマスクはつけない。別の人間だろう」

「とりあえずもうちょっと前に進んでみよっか」


 愛海の言葉に一は頷き、もう少し前へと進む。

 すると、彼等の目の前に数十もの襖と畳が敷かれた広間があり、そこには殺し屋の死屍累々の山が出来上がっていた。


「う、あぁ……」


 喉元を刀で貫かれ、刃を両手で掴んでいた殺し屋と、それを足蹴にして引き抜いた赤い鬼の仮面の男が立っていた。


 一と愛海はすぐさま拳銃で赤い鬼の仮面の男目掛けて撃ち始めた。


 ピットヴァイパーとサンドヴァイパーの双蛇の牙が鬼へと襲い掛かるが、鬼の男は二人の弾丸を刀の刃で弾き、そして身体をしならせてすべて躱し、二人へ肉薄する。


 一の脛を狙い刃は下へと伸びたが、一はそれを跳躍して回避し、その跳躍を利用して飛び蹴りを喰らわせる。


 腰に付けていた鉄拵えの鞘で一の飛び蹴りは防がれた。


 その隙を狙い愛海は左手にもっていたカランビットナイフで男の首筋を狙った。

 

だが男は自身の刀を逆手に変え、彼女の一撃を防ぎ、右足で前蹴りを喰らわせ、両者距離を取った。


「やべぇぞ。俺の見知ったゴールドクラスの殺し屋が何人も殺られてる。アイツ何者だ?」

「いや、刀持っててゴールドクラスの殺し屋バンバン殺せる奴なんて一人しかいないでしょ」


 愛海がそう言うと、鬼の男は「フフフ」と笑って仮面を外した。


「やはり君相手では誤魔化しきれないか」

「…武礼渡!?」


 一は大きな声を出して驚いた。

 予想だにしていない男の素顔に目を見開いて驚きを隠せないままでいた。


「あ、アンタ自分が出してた自己啓発書の『心を斬る』で『真の殺し屋は仮面をつけない。仮面をつける者は臆病者と言っているも同然だから』だって言ってたじゃないか!」

「まだそんなものを信じているのか。顔を隠すのは殺し屋として当然だろう。顔バレをして仕事に支障が出来たらどうする?」

「このペテン師が!それだったらお前の本は全部嘘っぱちってか!?俺の時間と金返せボケ!」

「いやはや、君みたいな情弱のバカのおかげで飯の種に食うに困らない。私の養分になってくれてありがとう」

「テメェの本焼いてサブスクもチャンネルも解除してブロックして通報してやるよ!」


 何年も騙されて時間と金を失った一は完全に怒髪天を衝くが如く怒りでいっぱいになる。


「愛海!やるぞ!」

「オーケー兄ちゃん」


 そう言うや否や、一と愛海は再度拳銃を武礼渡に向け発砲する。

 拳銃とは思えない程の連射力で武礼渡に無数の弾丸が襲い掛かる。

 しかし先程と同じく弾丸を弾かれ避けられ、瞬く間に距離を詰められた。


 一と愛海は銃の構えを近接対応できるスタイルへと変え、両手と拳銃を胸の近くに持ってくる。


 再装填して再度撃ちまくるが、弾丸は一発も当たらない。

 武礼渡は二人のすぐそこまで迫り、無数の剣閃が彼等二人に襲い掛かる。

 二人は袖口や裾の先端を斬られるだけで致命的な一撃は受けていないものの、未だ決定打を与える機会はまるで窺えない。


 そしてその一方で愛海の身体には小さな切り傷が出来ていた。

 身体が大きいためその分速さが落ち、一よりも避けるスピードが遅れていたのだ。


「くそっ、全然当たらねぇ!普通こんだけ撃たれたら当たるだろ普通!」

「弾丸の機動が読めれば引き金を惹かれる前に動けばいいだけの事。ま、自己啓発書に傾倒するような凡人には理解できないかな」

「テメェ!」


 一は怒り、拳銃からナイフファイトに切り替えた。

 一は一瞬愛海の目を見た。

 実際にはマスク越しのため目を見たとは言えないが、彼女を見やり、合図を出した。

 すると彼女は以心伝心したかのようにコクリと首を縦にして頷き、後ろに下がった。

 一は愛海のカランビットナイフとは違う片刃のアーミーナイフを右手に持ち突きを瞬時に三回繰り出した。

 そして次は縦に振り下ろし、更に振り上げ、右横に一閃。しかしその全ての攻撃が武礼渡には通じず、紙一重で躱されていた。


「驚いたな。てっきり君は雑魚かと思っていたが、少しでも油断したら刺されそうだ」

「じゃあとっとと刺されて死んでくれや!」


 一は怒りと共にナイフを大きく上に振りかぶり、武礼渡の頭上目掛けて振り下ろした。


 武礼渡はその一撃を待っていた。

 武礼渡は刀を逆手に変え、柄頭を一のナイフにぶつけて一撃を強く弾いた。

 その刹那一の体勢は大きく仰け反り、隙が生まれて一は冷や汗をかいた。

「終わりだ」と武礼渡の冷酷なその声に激情はなかった。


 ただ、確定した死だけがあった。


 一は一瞬頭が真っ白になり、思考が停止した。


やられる、そう思った瞬間、金属の堅い物同士が当たり合って生まれる劈くような音が鳴り響いた。一の目の前には愛海が武礼渡の一撃を防いでいた。


「…なるほど。それが君の能力か」


 武礼渡はそう言って二歩下がり刀を正面に構え直す。

 愛海は先程の筋骨隆々の男らしい骨格ではなく、少女特有の小さくしなやかな身体へと変化していた。


「君は私と同じ日本帝国軍の秘密実験を行った者の血を引いた子孫か」

「その口ぶりから察するに、アンタもなんか持ってるんだ。今までの戦闘スタイルからして…反射神経の強化と恐怖を感じる部分を断ち斬ったって感じかな?」

「たった一度の立ち合いでそこまで見抜くとは、腐ってもダイアモンドクラスの殺し屋というわけか」

「もっと私の事知りたいでしょ?その身に刻んでやるっよ!!」


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