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第38話

その音は継続的に発し、黄色と橙色が混ざった破壊光線にも似たガトリング砲の弾丸の雨が目的地を見失っているかのように縦横無尽に動き回り戸坂邸を破壊し、護衛や鬼の仮面を被った者達の身体を削り取るように撃ち抜いていた。


 為す術なく戸坂と武礼渡の手の者は穴だらけになり、獣の咆哮のような銃声は未だ止むことはなく完膚なきまでに敵を一掃した。

 やがてカラカラカラというあっけない撃ち止めの音が鳴り、静寂が訪れた。


「どう?スカッとした?兄ちゃん」

「ああ、気持ち良過ぎて中毒になりそうだ」


 撃ち尽くしたガトリングガンを地面に置き、一はマスク越しだがうっとりとした表情で答えた。

 トリガーハッピーを体現し、今の彼の頭の中は脳内麻薬はドバドバと溢れ出ており絶頂していた。

 戸坂の護衛や武礼渡の弟子達の増援が駆けつけるが、ホワイトノイズを前にたじろぎ、一歩も動かず様子を見守る。


「アイツ……フェイスレスじゃないか?」

「しかも隣にいる奴、あのマスク見た事がある。ホワイトノイズだ。アイツ確か10億の懸賞金かけられてたはずだ。なんでここにいるんだ?」

「しかも雷我姉妹もいるぞ!今日は厄日だ!」

「なんかフェイスレスビクンビクン痙攣してね?」


 護衛や白い仮面の者達、そして戸坂を殺しに来た殺し屋達がざわざわひそひそと声を出す。


「伝説の殺し屋が来たし、これマジで百億もらえるかもしれねぇぞ!」

「十億の伝説の殺し屋始末するより倍の百億でジジイ殺るんなら断然後者だ!」

「モナコで豪邸買って暮らしたい!」

「私は貢ぎたいホストいるの!レイ君待っててね!すぐぶっ殺して百億積んであげるから

!」

「とりあえず引退したい……」


 焦り逸る戸坂の護衛や武礼渡の弟子達とは対照的に殺し屋達は奮起し、百億で出来る事を夢想し、盛り上がる。

 そんな折、ホワイトノイズこと愛海が「やいお前等!」と声をかける。


「誰がターゲットを殺せるか競争だ!お前等も一介の殺し屋なら根性見せてターゲットぶっ殺さんかい!」


 と発破をかけ、それに当てられた殺し屋達は当たり前だ!と言わんばかりに雄叫びを上げて戸坂のいる屋内へと走り出した。


「よし、これで少しは楽出来る。それじゃ、私達も行こうか、兄ちゃん」

「ああ、ここからは血と硝煙が噴き出るアクションシーンの始まりだ。お前の撮れ高が増えるぞ」


 そう言って一は腰のホルスターからピットヴァイパーを抜こうとしたが、


「ハジメンこれ使いなー!」


 直後良子からある一丁の長身な銃とマガジン二丁をを投げつけられ、一はそれを両手で受け取る。


「SIG MCX!やまもっちゃんからアンタにってタダで貰ったんだ。せっかくだから使いなよ」

「アイツサービス良過ぎだろ。絶対常連になるわ」


 そう言って一は左手でマガジンを抜き取り、弾数を数えてから再装填。

 ボルトを引いて薬室に弾を送り込み、ひと呼吸おいてセーフティを外す。


 その一連の動きに迷いはない。

 まるで歯を磨くような日常の所作だ。


「愛海」


一は短く彼女の名前を呼ぶ。

 愛海は、一が言おうとしていることを最初から理解しているように、淡く微笑んで「うん」と応じた。


「ぶちかますぞ」


 兄の言葉に妹は仮面の奥でほくそ笑みながら


「ぶちかまそう」


 そう言って笑った。


 一は右へ、愛海は左へと自然に分かれた。


敵が銃口を向けるより速く、二人は同時に引き金を引く。

 鋭い銃声が連続して鳴り響き、護衛や仮面の男たちが次々と倒れていく。


 頭に二発心臓に二発撃ち一や愛海が弾丸を撃ち尽くし、新しいマガジンを再装填しようとした時、そして死角を取ろうと動いた敵には、二人のどちらかが瞬時にカバーを送り、反撃の隙を許さなかった。


 「こいつら、速すぎる」と、敵の焦った声が戦場にこだました。


「私達も忘れないでちょ~」


 良子と愛海もまた一と愛海に負けず劣らずのコンビネーションで敵を排除する。

 良子が中距離を、綾が近距離を支配して敵を近づかせなかった。

 たった4人で20人もの増援を瞬時に制圧した。

 4人は屋敷内に侵入し、渡り廊下を歩く。

 木の床の軋む音が聞こえ、バタバタと4人以外の走る音が聞こえ、先程の庭園に居た者達よりも多くの白い仮面を被った敵が道を塞ぐ。

 その先には既に始末され絶命していた殺し屋達の亡骸が転がっていた。


「威勢が良いのは悪い事じゃねぇが、先走り過ぎるのは寿命を縮めるぞって教えてやるべきだったか」

「でもタダで死んだわけじゃなさそうだよ。向こうも何人かやられてるっぽい」

「ヒュー!私達のためにこんな人数で歓迎してくれるなんて!私達人気者だねぇ!」

「私達愛されてるね」


 良子と彩が嬉しそうに笑顔で話しながらAR-15やKel-Tec KSGの予備弾薬を使い果たした良子はベレッタ、綾はグロック17を持ち構え、SIG MCXの最後のマガジンを使い果たした一は床に落とすようにそれを置き、彼女等と同じくピットヴァイパーを腰のホルスターから抜く。


 しかし良子は「ちょっと待った」と一と愛海の肩に手を掛けて制止する。


「アイツ等の武器見なよ。銃持ってないよ」


 良子の言葉を聞いて一はチラリと彼等を見る。

 確かに銃火器などは所持しておらず、代わりに日本刀や短刀を持っていた。

 まるで銃は不要、真剣で勝負だと言わんばかりに、立ち合いでもするかのように一達を待っていた。


「だから何だ?」

「ここは相手と同じ土台に立ってやらないと可哀想じゃん」


 良子はそう言ってね?だから銃使うのやめよ?とでも言いたげなうるうるとした目で一に訴えかけている。

 一は少し逡巡した後「そうだな」と言って首を縦に頷き、ピットヴァイパーを抜いて即座に敵に向けて発砲した。同時に愛海も瞬時に銃を構えて撃ち、良子は「ええーっ」と驚いた顔をしつつも、一に続いて発砲し、綾も彼女に続いて撃った。


「ぐえっ」「ぐあっ」「ぎゃあっ」と短い悲鳴や悲鳴を上げる事すら叶わず仮面の者達は凶弾の犠牲になっていく。

 外の庭園と繋がる渡り廊下には銃の硝煙と耳を劈く無数の発砲音が鳴る。

 良子と綾は弾切れになり、使用済みのマガジンを引き抜いて新しい弾倉に切り替えようとした時、一人の仮面の男が「おおおおお!」刀を上段の構えで雄叫びを上げて突進してきた。

 良子は三発男の腹部と左肩に当てたが、それだけでは男の捨て身の特攻を止めるには不十分であった。


「あっやべ」


 と良子は冷や汗を垂らして急いでリロードをしようとしていたが間に合わない。

 だがそんな時、愛海が上半身──主に両肩甲骨を無限大を描くように動かし、左逆手のカランビットナイフで男の手首を斬りつけ、首筋に刃を当てて一切の遠慮無く斬り裂く。

 シュッ、と風を裂く音がし、赤い弧を描くと斬り裂かれた男の喉から赤い線が浮かび、熱い血潮が吹き出す。


 男は己の喉から溢れ出るそれを押し留める為、両手で抑えたが、血は男の意思とは無関係に溢れ続け、声にならぬ言葉をうわ言のように呟きながらそしてあっけなく絶命した。


 一もまた弾切れを起こし、その隙を突こうと仮面の女が小刀を突き立て素早い動きで突進してきたが、一は微塵も慌てる様子を見せる事も無く、ピットヴァイパーをのリリースボタンを押し、腰に括りつけていいたマガジンを抜いて装填する。


 スライドを聞いて薬室に新たな弾薬を装填し、女が一に小刀を突き立てるより早く頭と心臓に二発ずつ、合計四発を撃ち込み、絶命した女は一に向かって倒れ込むが、一はそれを右に避けて次の得物を集中する。


 良子と綾は互いを補い合うように拳銃で敵を撃つ。良子が弾切れを起こし、自分の手元にマガジンが無いことを知ると「綾!」と妹の名前を呼び、綾は姉の意図を直ぐに察知し、己の腰に装備していたベレッタのマガジンを投げ渡し、その瞬間に空弾倉を排出し、新しい弾倉を受け取って再装填、直ぐに敵をハチの巣にした。


 四人のそれぞれのコンビネーションは数で圧倒していた30人の護衛と武礼渡の弟子達を短時間で亡き者にした。


 全員を倒した後、息切れを起こして両膝に手を置く良子と額と首筋から大量の汗を流し、汗で重力が増した濡れた髪を鬱陶しそうに口の息でどかす綾。


「あぁ~つっかれたぁ~……」

「汗ぐっしょりで最悪……」

「お前等これぐらいでへばってたら死ぬぞ?もう少し体力つけろよ体力を」

「そーそー」


は乱れた呼吸を整え、汗を手で拭う二人とは対照的に、一呼吸置きながら次の弾倉に切り替え、涼しい顔で立ち尽くす一と愛海。


「す、すげぇ……これがゴールドクラスの中でも最強に近い業者か……レベルが違ぇや……」


 後ろでその様子を見守っていた他の殺し屋達が息を呑む。

 数十分で殺し屋達も慄く実力者達を片付け、無傷で立っている。

 そんな者達を見て後続に居た殺し屋達は何を考えていたかというと、


「よっしゃ今の内に先に進むぞ!」

「100億は俺のモンだ!」

「100億の札束風呂はさぞかし気持ちエエんじゃろなぁ!」


 殺し屋達は我先にと言わんばかりにドタドタと足音を鳴らして渡り廊下を更に進んだ。


「あっ!やばい先に行かれる!綾!あたし達も行こう!」

「とりあえず汗拭いてからでいい?良ちゃん」

「もぉ~綾は汗まみれでも可愛いんだからいいのに……でもあたしが許す!そういうわけで二人共、先行ってて」


 良子と綾は一時休憩し、近くの障子を開けて居間に押し入り、椅子に座って休み始めた。


「いいのか?100億逃すぞ?」

「だーじょぶだーじょぶ。多分それはないから、とりあえず先行きなよ」


 良子はパタパタと手と服で扇ぎながら涼みながら言う。

 彼女の謎の自信はどこから来ていたのかは分からない二人はとりあえず先へ進むことを決めた。


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