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第32話

聡は痛めた拳を握りしめて再度一を殴ろうとしたが、弟の清に肩を掴まれて止められる。


「あぁ!?離せよ清!コイツはもうぶっ殺さねぇと気が済まねぇよ!」

「兄貴、兄貴の良い所は腕づくで解決しようとする所だ」

「ああそうだ。だから俺が今こうやって──」

「だがそれと同時に悪い所でもある。この世には力で解決できない事もある。だから兄貴にできない事を俺がやるんだ。フェイスレスに暴力じゃ口は割れない。なら心をいたぶる必要がある」


 そう言って清が持ち出したのは電気による拷問に使われる道具だった。

 頭と手首に付けて高圧電流を流し、相手に苦痛を与える拷問器具。

 しかしそれは身体を痛めつけるための道具だ。

 これで一体何をするのかと一は疑問に思った。その拷問器具を清は一に取り付ける──わけではなく、デイヴィスに装置を取り付け始めた。


「え、え、え?おいおいおい何してるんだ?俺につけてどうするんだよ」

「心を痛めつけるのに一番効くのは、自分以外の大切な人間が傷つくのを目の前で見るしかない時だ」


 清はそう言ってデイヴィスの頭に装置を取り付け、ダイアルを回し電圧を調整する。


「おい!俺はマジでなんも知らねぇって!俺ただのコイツの仲介人!コイツの家族でもなんでもない!」


 デイヴィスは自身の身の潔白を証明しようと必死に弁明していたが、一は「デイヴィス!」と彼に声を掛ける。


「お前は俺の家族に近い友人だ。そんなお前が愛海のために身体を張ってくれる事、とても嬉しく思う。お前のその想い、絶対無駄にしないぜ」

「一テメェコラァ!俺はお前の妹の尻ぬぐいなんざする気はねぇぞ!」

「安心しろデイヴィス。お前のその漢気に敬意を払って、俺は一切合切喋ったりしない。だから思う存分耐えてくれ」

「頼む!俺はこんなクソ野郎の妹の所在なんざ何も知らねぇんだ!そもそもコイツの妹には家のドア壊された上身体を縛られたんだ!守る義理なんざなにもねぇ!だから俺を帰らせてあああああああああ!!」


 デイヴィスは最後まで自身は無関係であると主張しようとしていたが、清はその言葉を待つことなく彼に電流を流し始めた。

 彼等の目には直接見えないが、高電圧の電流が流され、デイヴィスはそれを身体一つで受け止め苦痛にあえいで絶叫していた。

 痛みから逃れるため身体はジタバタ動かしながら叫ぶ事しかできなかった。


「さて、ホワイトノイズの居所を吐く気にはなったか?」


 清は一に問いかける。

 一はチラリとデイヴィスの姿を見る。

 高圧電流を体中に流され全身が痛みで支配され、苦痛を逃がすため声を張り上げて喉を少し潰しかけた上、ぐったりとしている様子を見た一は小さく頷きながら


「生憎だが妹の個人情報は売り物じゃねぇ。それになんだその静電気みてぇな電流は!?ソイツは本物の男なんだ、やるなら全力でやれ!」

「なんだと?」

「ハァ!?」


 一の言葉に清は動揺し、デイヴィスは目をぎょろりと大きく開けて驚きのあまり声が裏返る。


「お前の覚悟、伝わった。安心しろ。俺は何も喋らないぞ兄弟」

「少しは俺の身を案じて喋ってくれよ!何が兄弟だ!俺はアメリカ人だ馬鹿野郎が!」

「そうか。じゃあ今度は強めに行くか」

「えっ!?ちょ、おいやめてくれ俺もう限界ィィィィィィィィィィィィ!!!」


 またもやデイヴィスは話の途中で身体に電気を流し込まれる。

 先程よりもダイアルが強めに設定され、協力な電流が彼の身体を這い回る。


「どうだ?気に入ってくれたか?」


 清は再度一に聞き返す。


「ああ病みつきだね!もっとやれよ!」

「もうやめてくれああああああああああああ!!!!」


 しかし一は一切動揺する様子はなく、清にもっと電流を流すよう挑発した。


「その酒と油で作った脂肪はなんのためにある?この時のためだろ!お前ならできる。俺の相棒だからな」


そう言って一はデイヴィスに右目でウィンクをして頷く。


「テメェ後でぶっ殺してやるよ!仲介人から殺し屋に復帰だ!先ずは真っ先にテメェを血祭りにィィィィィィィィィ!!!」


再度電流を流し込まれ痙攣するデイヴィス。

 心なしか彼の身体から少し蒸気が出始めていた。


「おい清、このままじゃコイツ死んじまう。しかも全然話す気無さそうだし。本当にコイツら仲良いのか?」

「十年来の交友関係があると調べはついているんだが、この方法じゃダメだな」


そう言って清は電気椅子の装置をデイヴィスから取り外し、テーブルに置き、今度はゴム手袋を装着して医療器具を整理し始める。

 彼の手には空の注射器があり、それを使って小瓶の中から透明な何かの液体を抽出していく。


「なんだそりゃ?予防接種か?」

「いや、自白剤だ」


 清の言葉を聞いた途端デイヴィスは「嘘だろ」と舌を巻いて驚嘆する。


「ふ、ふざけんなよ……そんなのあるなら最初から使えよ……完全に電気喰らい損じゃねぇか……」


デイヴィスはぐったりしながら力無く文句を言う。完全に気力を失った彼は背もたれに背中を預け、顔を下にだらんと向けた。


「いや、最初はお前達の美しい友情を見て感動しながら酒のつまみにしたかったんだが、お前達には全くそういったものがない」


 清は残念そうな顔で呟く。ため息を吐きながら惜し気にしている顔から察するに、本当に一達が苦しむ姿を見たかったのだろうとデイヴィスは感じ取り、ゾクリと背筋が凍った。


「こんな自己中で思い上がったクズと俺の間に友情なんかあるわけないだろ!本当に友情があるなら少しくらい喋るだろ普通はよぉ!?」


 デイヴィスはそう吐き捨てるように言って一を睨みつけるが当の本人は笑顔を彼に向けながら親指を立てていた。


「俺はお前の事を信じてたぞ。本当は見当が付いてるのに、最後まで黙ってた。流石だよ」

「マジで知らないから喋らなかったんだよ!このイカレ野郎が!」


 デイヴィスは怒って罵声を浴びせたが、一は「恥ずかしがるなよ」とまるで聞く耳を持たずだった。

「それじゃあつまらない方法だけど、今からお前に自白剤をぶち込む。徐々に効き始めるから俺の質問に答えろよ」


 そう言って清は小瓶から液体を抽出し終えた注射器からほんの少し液体を出し、指で二回叩きながら空気を抜く。

 その一連の動作を行ってすぐに清は一の服の袖を捲り、露わになった腕に注射針を刺し込んだ。

 彼の腕の中、血管の中に冷たい液体が侵入していく。

 その感覚に一は気色の悪さを覚えるがこのくらいどうという事はないと自分に言い聞かせる。


「こんなのでしか情報を引き出せないとは、ずいぶんと尋問の質が落ちたもんだな」

「他の奴ならいざ知らず、相手はあのフェイスレスだ。情報引き出すのにも骨が折れる。ところでこれは雑談なんだが、初恋の女性は誰なんだ?」

「はぁ?ハル・ベリーだがそれがどうした?」


 一は何の気なく答える。その様子に清と聡は目線を合わせて面白い物を見た時のような笑みを浮かべ、デイヴィスは「ブフツ」と噴き出す。


「いつ?どうして?」

「9歳の頃に映画のキャットウーマンを見た時だ。あれほどセクシーで美人な女優は見たことがない。今でも好きだが、この問答に何の意味がある?」


 一の言葉に清と聡は彼から顔を背けて腹を抱えて笑いを堪え、デイヴィスはくつくつと中年太りのベルトの上にはみ出した腹を震わせながら二人と同様に笑いを堪えていた。


「じゃあフェイスレス。お前の本当の名前を教えてくれ」

「バカが。教えるわけねぇだろうが。俺の名前は腕間一だ」

「ぶひゃひゃひゃひゃ!清!たまに自白剤使うのも悪くねぇな!」

「そうだな!心と身体が相反して全く真逆の事を喋ってやがる!」

「薬切れた後が更に面白そうだ!ざまぁみろ!後で死ぬほどねちっこくからかってやるよ!」

 聡と清、そしてデイヴィスが遂に堪え切れなくなり大笑いする一方で、一は「何がおかしいんだ?」と首を傾げながら呆っとしていた。


「じゃあ一、ホワイトノイズについて教えてくれ。俺達それが聞けたら楽にあの世へ連れてってやる」

「ホワイトノイズゥ?アイツはクソ野郎だ。俺の仕事を奪って、しかもそれをネタにして動画を投稿してる腐れユーチューバ―さ」

「そうか。それで奴の居場所は──」

「しかもぉ!?奴は俺の妹で今まで俺に正体を隠してやがった!事の重大さが全く理解できてねぇし全く反省の色がねぇ!表じゃ普通の妹演じているが裏じゃ殺人依頼を請け負って挙句ダークウェブに動画上げて大金を稼いでると来てる!これじゃ兄の名前も形無しだ!」


 一は自白剤の効果で酔っ払っているのか、目が座った状態でうつらうつらとしながら口から愚痴が止まらず出続ける。


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