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第3話

 東京、某所。


そこには殺し屋ご用達クラブ、【フランチェスカ】というクラブがある。

そこには日本中の殺し屋や仲介人、依頼者などが一同に集まり、主に情報交換の場として使われるクラブだ。

 だがそれ以外にも食事や酒も絶品であり、一流のパフォーマンスを行う歌手のショーもある。


 それだけを目的に来る殺し屋達も少なくない。場所は東京都内のとあるバーの、さらに下にある地下施設。

 一はその場所まで走って辿り着き、息を切らしながらガードマンに案内される。専用の入り口を通り、フランチェスカに入った。


「あら、フェイスレス。珍しいわね。こんな時間に来るなんて」


 一に声をかけたのはフランチェスカのバーテンダーを務める女性、リリアンであった。

 彼女はバーカウンターにて一に声を掛けた。


 一はリリアンの元に近づき「やぁリリアン」と微笑んで言った。


「急遽呼び出しを喰らってな、俺の未来に関わることだ」

「ふふ、嬉しいわ、私に会いに来てくれたんでしょう?それにしてもこんないい女を放っておくなんて、罪な男ね」


 リリアンは一に一の手に絡みつくように手を添え、色気のある声で囁いた。


「オイ見ろよ……あれってフェイスレスじゃないか?」

「あ、ああ……最近ノリにノッてるイケイケの仕事人だろ……!?」


 一の背後からそわそわとした雰囲気の熱に浮かされたような声で彼の名前を呼ぶ男達がいた。


「お、おいちょっとサイン貰って来てくれよ……なんなら握手も!」

「ば、ばか!それくらい自分で行けよ!」


 出方を考えて一歩踏み出す事が出来ずにいた若い二人組を尻目に、一は「ふっ」と鼻で笑う。


「あら、いいのサービスしなくて?貴方のファンみたいよ?」

「何言ってんだ。そんなダサい真似できるか。俺は動物園の檻の中の猿みたいな事はしないんだ。ったく、有名になるってのも案外困り事ばかりだな」

「あ、あのフェイスレスさん、ですよね?じ。自分ファンなんすよ。サイン貰っていいっすか?あ、あとできれば握手も……」

「おいおい!しょうがねぇな!プライベートで飲んでる時によぉ!」


 そう言って一は先程の言葉とは裏腹にノリノリで男二人組に握手をし、何故か持っていた色紙に何故か持っていた油性ペンでサインを描いていた。


「あ、ありがとうございました!」


 男達はそう言って笑顔で一に感謝の言葉を伝え、下がって行った。


「……ダサい真似できるか!って言ってたのどこの誰だったかしら?」

「たまには後輩に気前の良さを見せてやるのも大事だろ?普段の俺なら絶対しないさ」

「その割には結構長い間握手してたわよね?」

「まぁ、な」


 一は濁すように呟く。


「しかもさっきはどこからともなく色紙とペンを出してサイン描いて渡してたし、普段から練習してないと書けないような割と上手な書き方してたわよね?家で毎日練習してたの?」

「実はっ!デイヴィスに呼ばれたんだが!奴がどこに居るか知ってるか!?」


 一は声を荒げてリリアンの顔に大きく寄せて彼女の質問を遮るように逆に問いかける。


「ああ、あからさまに話変えたわね……まぁいいわ。デイヴィス?私よりあんなハゲちゃびんな男を選ぶの?貴方って見る目が無いのね……」

「いいや!コイツは良い目をしている。目先のことに捕らわれない将来有望のスターの目だ!」


 デイヴィスは「どうも、ハゲちゃびんです」と頭皮が露出した寂しい頭を撫でながらベージュ色のトレンチコートを着た姿で一の隣に並んだ。

 デイヴィスは名前の通り日本人ではなく、本名であり、水色の瞳と少ないながらも西洋人の証拠である金髪がチラリと垣間見える。


「あら、デイヴィス。随分日本語が上手くなったわね。しかもかなり太った?」

「ああ、日本のメシは美味いからな。俺はこの国に骨を埋めるさ」

「贅肉に骨埋めてる奴がなんか言ってるぜ」


 デイヴィスは流暢な日本語でリリアンと喋る。

 そこに訛りは微塵もなく、まるで日本に生まれたような、明らかに日本語は完璧だった。


「遅いぞフェイスレス、待ちくたびれて死にそうだったんだぞ?」

「アンタは殺しても減らず口だ、一々心配する必要はねェよ」

「ひでぇ言い草だ。誰がお前に仕事の斡旋をしてやってると思ってるんだ?えぇ?」

「わざとらしい言い方しやがって。アンタはただ仕事を持ってくるだけ、そして実行するのは俺、なのに報酬を三割も掠め取るんだ。ひでぇのはアンタだよ」


 一は鼻で笑いながら言う。デイヴィスは「何を言う」と反論でもするかのように鼻を膨らませて言う。


「良いのかねぇ、俺にそんな口を利いて。ビッグゲストがお前に会いたがってるって言うのに」

「そうだ、あの人はどこに居るんだ?」

「ここだよ、フェイスレス君」


 一の背後から男の声が掛かった。一は驚き、反射で後ろに振り向いた。


 そこにいたのは黒のスーツに黒いコート、黒のハット帽子を被り、それとは対照的な白髪が目に留まる老練の男が居た。


「武礼渡さん。会えて光栄です」


「それはこちらの台詞だよ。君の噂はかねがね聞いている。先程デイヴィス君から十二人のボディガード相手に一人で制圧してターゲットを片付けたと聞いたぞ。イイ腕をしているな」

「ありがとうございます!貴方が出した本、『心を斬る』の名言を胸に刻みながら殺してます!」

「ああ呼んでくれたのか、ありがとう。だが接近戦で銃を使うのは大変だったろう?これを機に刀を使ったらどうだ?私から一振り良いのをやろう」

「そんな、確かにあなたは俺の憧れですが、いくら自分でも刀だけで乗り切るのは難しいです。そういえば見ましたよブレイドチャンネルの最新動画!めちゃくちゃカッコよかったです!」

「あら?武礼渡さんって動画投稿しているの?」

「ああ!ダークウェブ上で殺し屋の流儀を語っている動画さ!今回は殺し屋の武器やロマンを追究した動画だ。カッコよ過ぎて二十回は見たぜ!」

「それ何分の動画?」

「二時間」

「なんて?」

「ん?ああ悪い。120分だ」

「いやそういうことじゃなくて。長くない?本当に二十回も見たの?」


 リリアンは絶対誇張してるでしょと危うく口からそのまま出そうになったが空気を読み我慢し、これ以上下手な事を言わないためにもリリアンは雰囲気を察してか、バーのカウンターの内側に戻り、酒を作り始めていた。


「君は今ゴールドクラスだったかな?」


 武礼渡は一に確認するように語尾を上げて聞いた。彼等殺し屋には、階級が存在する。

 一番下は駆け出しの名もない新人の総称で名無しの権兵衛と呼ばれる。


 次がブロンズだ。

 仕事に慣れ始め、依頼もそこそこ達成できるようになった者達の事を言う。


 続いてシルバー、殺し屋家業に馴染み、中堅クラスになった者達の事を指す。


 そしてゴールドクラス。彼等殺し屋の中でも上位のレベルであり、殺しの腕はかなり高い位にある。

 一はわずか十年でゴールドクラスに到達した。本人はあまり自慢には思ってない、という体を装っているが、内心かなり自慢に思っている。


「はい。十年という長い歳月をかけてしまいました。貴方と同じ場所まで行けるのは一体いつになるのやら……」


この武礼渡という男はこと殺し屋業界においては伝説的存在だ。彼は全世界の殺し屋の中でもたった数十人しかいない殺し屋の到達点であるダイアモンドクラスであり、殺しの仕事と同時に依頼を提案するフィクサーの役割も担っている。

 一度彼に狙われた者はどこに逃げようともどんな護衛をつけようとも必ず墓穴に入ることになる。

 そして名前の由来通り、彼の殺しの道具は日本刀だ。相手が素手だろうが鈍器だろうが刃物だろうが銃器だろうが、彼は必ず刀で殺害対象を処理し、同業者から畏敬の念を込めて武礼渡と呼ばれている。


「確か日本ではダイヤモンドクラスの業者は私と、ホワイトノイズと、戦闘鬼、だったかな」

「戦闘鬼の噂は常々聞きますが、ホワイトノイズの情報は全く聞かないですね」

「はは、ホワイトノイズはとんでもなくシャイな奴でな、顔、年齢、性別、血液型、その他一切が非公表の存在自体が謎の奴なんだ。それに、最近彼の活動情報はほとんど聞かない。もしかしたら引退したのかもしれんな。まぁ戦闘鬼の方は……名前の通り元気に活動しているよ」


「さて」と武礼渡は改めた様子で両手を擦り合わせる。


「今日君に会いたいと言ったのは、ある依頼を引き受けて欲しいと思ったからなんだ」

 遂に本題に入り、一は武礼渡のその言葉にピクリと一瞬身体を硬直させた。


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