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第26話

 一は深刻そうな顔で俯く。

 そう遠くないうちにデイヴィスから連絡が来る。

 ターゲットは殺したのかとかお前は無事なのかとか、何故連絡が遅れたんだとか、こうるさい嫁みたいにチクチク言ってくるに違いない、と一は予想していた。

 その時に奴に真実を打ち明け、こっちの厄介事に引きずりこんで協力させてやる。

 一はそう考えていたその時、予想通り、電話がかかって来た。


「はい腕間一です」

『あ?誰?』


 相手は当然デイヴィスで、一はついうっかり本名を言ってしまい、「あっやべ」と言って電話を切った。


「しまった、切っちゃったよ」

「兄ちゃん何やってんの?」


 一は家に帰って来た事で仕事モードが切れてまさかの凡ミスを多発し愛海に呆れられる。

 一はデイヴィスに折り返しの電話する。2コール目でデイヴィスは電話に出た。


『おう腕間一君?一体俺にどんな用かな?』

「ワンマ…ハジメ……?誰だソイツ。俺はフェイスレスだが」


 一は上擦るような掠れた高い声でとぼける。


『それで誤魔化せると思ってんのかお前』


 がしかし、当然デイヴィスはバカを見るような、ではなくバカを聞くような声色で馬鹿にする。


「まぁ今のは忘れてくれ。実は困った事になった」

『いや困ったのは俺の方だよ。10年付き合って来た名前も知らない相棒とも呼べる男の本名をこんなマヌケな場面で聞くことになるとは思わなんだ。それでどうしたよ、普段なら報連相がきっちりしてるお前が電話に出ないなんて』

「電話じゃまずい。俺の家まで来てくれ。場所は……」


 一は自身の住む家の住所をデイヴィスに教えた。


『ああわかった今準備する。でも今サッカーの試合がイイ所なんだ。それが終わったあとでイイか?』

「いいわけねぇだろすぐ来いよ!」


 一は電話越しに怒鳴って言うと、『うるせぇな』と文句を言ってデイヴィスは電話を切った。


「誰?」

「俺の仕事の仲介人だ。10年来の付き合いだからそこそこ信用出来る」

「そんな年数で信頼出来るの?随分安い関係性だね」


 愛海は少し棘のある言い方で鼻で笑う。


「いや、十年だぞ?まぁ名前は明かしたことなかったけど、お前より付き合いは長い」

「でも所詮仕事上の関係でしょう?そんな人本当に信じられるかなぁ」

「お前さっきからなんなんだよ。何か言いたいことあるような含みのある言い方ばっかりしやがって。はっきり言え」


 一は愛海が何を言いたいのかまるで分からず、遂には若干怒り混じりに彼女に問いただした。

 すると愛海は急にもじもじと身体をくねらせ、「いや、その」とか「うーん」とか曖昧な態度を取りつつも口を開いた。


「いや、その仲介人より私の方が兄ちゃんの事知ってるし、仲良いし、あまり信用できないなって、思って……」


 ここまで言われて一はとある結論に至った。


「え?まさかお前…妬いてんの?」

「えっ!?いやそんなわけないじゃん!?」

「いや、そいつデイヴィスって言うんだぞ?おっさんだぞ?ハゲでデブの。そんな奴と張り合ってんじゃねぇよ。俺はお前第一だよ馬鹿野郎」

「うおう……そうはっきり言われるとこっちも照れるね」


 愛海は一のストレートな言葉にたじろぎながら頬を少し赤く染める。


「何言ってんだ、兄が妹を第一にするのは世界の常識だろ」

「その常識、多分兄ちゃんとその他少数精鋭だけだよ」

「まぁ俺が言いたいのは、お前程じゃないがデイヴィスの事はそれなりに信用してるって事だ。ハゲでデブでも仕事はしてくれるしそれなりに友情はあるはずだ」

「ホントかな~私的には不安しかないけどねぇ」

 「ハゲでデブなのがそんなに不安なのか」と一が言うと、愛海は「そういう事じゃなくて」と訂正した。


「先代から耳にタコができるくらい聞かされたんだけどさ、殺し屋の世界で金を稼ぎたいなら誰も信用するなって言われてたんだよね。大体金が絡む仕事だし裏切られる割合がめちゃくちゃ多いから。だから私的にはどうも信用ならないっていうか……」

「大丈夫だ。確かにこの業界は少し殺伐としてるけど、横のつながりとか義理や人情とか人の血が通ってる所はあるんだ。だからそんな悲観的な考え方しなくても……」


 一が最後まで話そうとしていたその時、ビーッビーッと甲高いアラーム音が家の中で鳴った。


「えっ、なんだこの音?」

「あっ、やっぱり。私達と同じ業者か知らないけど、8人くらいが私達の家の敷地内に入ってきてるよ」


 そう言って愛海はスマホを一に見せた。確かに何者かが彼等の家の庭に入り、不法侵入している。

 一は突然の警告音に目を丸くし、突然の事態に一瞬理解が追い付かなかった。


 一の家には外用の人感センサーの付いた照明や窓ガラスが破られた時に発するアラームなど他の一般的な防犯セキュリティーを取り付けて入るものの、スマホに通知が来るような防犯対策はしていなかった。

 そして何より家の周辺に監視カメラが付いていた事に一はびっくり仰天していた。


「は?え?なんで家にこんな監視カメラあんの?ていうかなんでお前の携帯から通知来るんだよ?」

「私が取り付けたの。ああ銃ならとりあえずキッチンと洗面台とソファーの下にあるよ」

「はぁ!?お前家に銃持ち込んでんのかよ!?つかここ俺の家なんだけど!?」

「私達の家でしょ?」


 愛海はそう言ってキッチンの戸棚からアサルトライフルとマガジン数本を取り出して一に渡した。


「なぁ、お兄ちゃんお前にちょっとばかし話があんだけど」

「後でね。まずはお客さん達をもてなさないと!」


 そう言って愛海と一は部屋の電源を落とし、闇へと溶け込んで敵を待った。





 とある一軒家に、黒い服装に黒の目出し帽を被った男達が家の周囲を囲んでいた。

 男達はそれぞれ手に拳銃を持ち、姿勢を低くしながら窓ガラスを小型のバーナーで炙り、小さい音で脆くなったガラスをトンカチで破り、鍵を外して室内へと侵入した。


「……」


 男達は言葉を口にせずハンドサインで何かを指示し、室内を散策する。

 部屋の中は真っ暗で目を凝らさなければあまり見えず、足元をよく見ながら歩かないと転んでしまう可能性もあった。

 男達はそれぞれ風呂場、トイレ、キッチン、リビングに分かれて調べ始めた。

 探し始めて五分が経ち、一達を発見出来なかった男達は一度リビングに戻ると、一人足りなかった。

 数は9人だったが、実際に集まったのは8人だった。


「橋本はどこだ?」


 目出し帽の男の一人が小声で囁くように聞いた。

 しかし、周りの男達は首を横に振って答えなかった。


 その時、不意に二階からトイレの水が流れる音がし、男達は一斉に警戒しながらトイレへと向かった。


 静かな足音で二階に上がり、トイレのドアの前まで近づく。

 中は未だ水の流れる音がしており、中に誰かが用を足している。


 目出し帽の男の一人がゆっくり開けた。

 しかし部屋の中はトイレではなく、浴槽があった。

 それも一般の家庭に設置されている浴槽よりも大きく広めの部屋だった。

 水の音はここからしており、栓をして湯を貯めているようだった。


「風呂……?」


 男がそう言った途端、男の腕は何者かに引き込まれ、風呂場に無理やり連れ込まれるとドアが勢い良く閉まった。


「なん…ぎゃああああああああああッ!」


 浴室内に連れ込まれた業者の男は悲鳴を上げる。

 動揺した他の業者達は一斉に拳銃で浴室の扉を発砲し始める。

 拳銃にはサプレッサーが付いており、パスッパスッという音が鳴る。

 銃の乱射で白い木製のドアは穴だらけになり、割れて浴室の中が少し見えた。

 浴室の中の襲撃者が死んだかどうか確認するため、業者の一人が覗こうと顔を近づけた。


「人の妹の風呂場を覗くな」


 白いマスクを被ったフェイスレスこと一が廊下の角から身体を出し、アサルトライフルの銃口を彼等に向けて引き金を引いた。

 こちらにも消音機構が備わったサプレッサーが付いており、どれだけ引き金を引いても耳をつんざく音はしなかった。

 業者の男達は注意が浴室の向こうに完全に向いており、一の存在に気づけず皆彼の銃の餌食になり、悲鳴を上げることも無く倒れ死亡した。


「終わったー?」


 愛海の間の抜けた声で一に確認する。「ああ」と一は答え、「そっちは?」と愛海に問い返した。


「ぱーぺき。ホラー映画みたいな演出で殺せて面白かったよ」

「ああそう……」


 一はマスク越しに呆れた声で答える。


「ねぇ、タイミング良過ぎない?」


 愛海は不意に一に問いかける。


「…何がだ?」

「さっき話してた仲介人のデイヴィスって奴に家の場所教えてから直ぐに刺客やって来たでしょ?ソイツ怪しくない?」

「……」


 愛海の言葉に一は言葉を口に出さなかった。


 が、疑いを抱いたことには違いは無かった。


 10年以上の付き合いの人間が己の命を売ったなどとはあまり考えたくはないが、確かめる必要はある、と一は考えていると、愛海が「兄ちゃん兄ちゃん」と一の肩をポンポンと叩く。


「どうした愛海」

「アイツ等どうする?」


「アイツ等?」と一は疑問に思いながら愛海が指を差す方へと顔を向けると、そこには彼等が殺した同業者達の死体が放置され、床は靴の後と血で塗れ、壁は弾痕と穴が開いており一は「ああ~……」と面食らいながら天井を仰ぐ。


「…清掃員呼ぶか」


 一はげんなりした様子で呟くとスマートフォンで連絡先から『お掃除センターヤッチャッタ!』を選択し、携帯を耳に当てる。


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