第25話
「ま、兄ちゃんがそう言うなら仕方ないね。年増のオバサンと言い争いなんか世界一無駄だからね」
「そうね、たしかに世の中の酸いも甘いも知らないションベン臭い下の毛も生え揃ってないガキにキレてもなにも良いことが無いのは確かだしねぇ」
「あ?」
「お?」
「ねぇ、話聞いてた?口喧嘩やめろって言ってんだよバカ女共」
彼女達の喧嘩腰の姿勢に自らもキレそうになっていた一は、鼻息を荒くしながらも落ち着くよう語り掛けて冷静になるよう努める。
今はなんとしても目の前の危機的状況をどうにかしなければならない。
どうにかしなければ、俺達に明日はない、一はそんな事を思いながらリリアンと愛海に相談を持ち掛ける。
「今俺はホワイトノイズ、つまり愛海を殺す依頼を引き受けてる。成功すれば伝説の殺し屋の仲間入り、失敗すれば良くて業界内一の笑い者、もっと悪ければ殺し屋の刺客剥奪、それ以上の制裁もあるかもしれない」
「でも兄ちゃんは私を殺さないからこうやって話し合ってるんだよね?なら私が死なないように最善を尽くしてくれてるって事だ!やっぱり兄ちゃんは優しいなぁ!」
「まぁこのままぶち殺してやるのも一つの解決法だけどな」
「え?」
「ぷぐふ!ふふ……!」
一の躊躇の無い恐ろしい回答に愛海は頭を叩かれた犬のように一瞬固まり、それを見ていたリリアンは心底小馬鹿にしたようなめで愛海を見て笑っていた。
「だがこんなのでも俺の妹だ。殺すのは出来るだけ避けたい。出来るだけな」
「兄ちゃん?今までの妹至上主義はどうしたの?今日一番過去イチ辛辣じゃない?」
「たった一人の妹だからって甘やかしすぎたかな。まさかこんなひどい育ち方をするとは…」
「兄ちゃん!?なんでそんなこと言うの!?私何かした!?」
「自覚無いのが一番ヒドイわね……」
一の苦悩に一切関心の無い、理解を示そうとしない妹の態度に頭を抱える一と、それを見て同情するリリアン。
そんな彼女は「そうだ」と手のひらの拳をポンと叩き何か閃いたような仕草をした。
「死体を用意して偽装しちゃえばいいのよ。ホワイトノイズは190センチ大の大柄な成人男性の背格好なんだから、それと同じような死体とターゲットが欲しがってるデータを渡しちゃえば?そしたらお互いにハッピーハッピーじゃない」
リリアンは名案を思い付いたように言うが、一は両手を上げて肩を上下に動かし、首を横に振る。
「そんな物用意するコネなんかねーよ。そんなモン用意できる奴色んな人脈持ってる仲介人くらい……」
一がそこまで言いかけたところで、彼はハッとした表情になる。
「一人心当たりがある」
「え!?誰!?誰かいるの!?教えてよ!」
「まさか……」
愛海は期待した眼差しで一を見る一方で、ピンと来たリリアンは「えぇ~…」と言いたげな微妙な表情になる。
「ああ、一人いるぜ。デブでハゲで性格が悪くて、金にがめつい仕事のできるクソ野郎が一人な」
一はレモンを口の中で頬張ったような、あまり気乗りのしないような微妙な面持ちでそう言った。




