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第23話

一が床に就き、目を閉じて寝ていると、唐突に発砲音が鳴った。


「!?」


 一は起き上がり、ベッドから転げ落ちて下に隠れた。

 それでも発砲音は鳴り止まず、パンッパンッと鳴り続けた。


「なんだ?これ銃声じゃねぇな……」


 一は首を傾げながら疑問の言葉を口にする。

 結構な発砲音がする割には壁や床に弾痕が全く見つからない。

 そして銃声と言うにはあまりにも音が軽く、乾いたような音だった。

 そう、まるでクラッカーや爆竹のような……


「本日は第564回殺し屋大賞受賞式にお集まりいただきありがとうございます。前置きはこれくらいにして栄えある最優秀ダイアモンドクラスアサシンの受賞者を発表いたします」


 突然部屋の外から男の声が聞こえ、一は身構える。

 外からは「早く発表しろよ!」「誰かは分かってる!」「早く姿を見せて!」など受賞者を待ち望む声達が辺りでやかましく一の耳に届く。


「彼の名は……腕間一、コードネームは……フェイスレス!」

「は?」


 一が困惑した様子で間の抜けた声を出したと同時に、彼の名前を聞いた人物達は歓喜の大声を上げた。


「うおおおおお!フェイスレス!フェイスレス!」

「俺はアンタだと信じてたぜ!」

「好きよ!私を抱いて!」

「流石はプロの殺し屋だ、一君。君は超一流だよ」


 そう言って一の寝室に入って来たのは彼の憧れの殺し屋、武礼渡だった。


「え!?武礼渡さん!?」


 一は寝ぼけ眼の瞼を擦り、本物かどうかを確認する。

 間違いない、彼だ、しかし何故俺の憧れのあの人が、しかも今の発砲音は一体……


「一…やはり貴方は最高の腕を持つ殺し屋よ。貴方に私の全てを捧げたいわ」


 次に現れたのは一のメンタルケアを担当している精神科医のリリアンだった。


「は?リリアン?なんでお前もいるんだ?」

「俺もいるぜ!」


 そして三人目はデイヴィスだった。そしてそれを皮切りに、一の寝室の壁がハリボテのように倒れる。

 寝室の外は大勢の人で覆い尽くされていた。

 パーティー会場のような空間になっており、豪華なシャンデリア、液晶画面、ライトに照らされていた。


「おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとう!」


 寝室の外で賞賛の言葉を浴びせ続けるのは、一には面識のない老若男女問わずの面子だった。全員が一に温かい目と拍手を送っていた。


「え?これなに?ドッキリ?」

「ドッキリなわけがないだろう。皆君を祝福しているんだ。伝説の殺し屋誕生をな」


 武礼渡はそう言って一の肩に手を置く。


「いやでも俺ホワイトノイズまだ殺してな──」

「ほら、貴方は今日の主役なんだから、檀上に上がって素敵なスピーチをしてきなさいな」


 一が訂正するべく何か言おうとしていたが、リリアンに背中を押される。

 何故か近くに檀上とマイクスタンドがあり、大勢の観客達がまだかまだかと待ち望んでいた。


「え、えーと、あー、皆さん、集まってくれて、ほんとーにありがとう……?」


 一は訳の分からない状況に身を置きながらもマイクの位置を調整しながら話す。

 観客達は真剣に聞き入り、一を見つめる。一は最初こそ緊張していたものの、不思議な高揚感に包まれていた。

 皆が自分に尊敬の眼差しを送っている。

 これほど気持ちのいい瞬間は感じた事がない、と一は感動していた。


「なんか、俺がホワイトノイズをちゃんと殺した事になってるみたいだけど、まぁいいや。皆本当にありがとう。言葉が出ないよ。俺は──」


 一が何かスピーチを行おうとしていたその時、一は奥の席に、ある人物を発見した。

 テレビのノイズの画面をそのまま抜き取ったかのようなヘルメット型のマスクを被り、屈強な身体を持つ一を苦しめていた、殺したと思っていた伝説の殺し屋のホワイトノイズが、一に大きな音をたてて拍手をしながら立ち上がる。


「よっ!希代の殺し屋フェイスレス!かっこいいぞ!ハハハハハ!」


 ホワイトノイズが一に声を掛けた。

 彼の笑い声が会場内に響き渡る。


「えっ?いや、お前は死んだだろ?なんで……」


 一は冷や汗が額を伝い、鼻頭を伝い、地面にポタリと落ちた。


「凄いだろアイツ私の兄ちゃんなんだぜ!」


 ホワイトノイズはマスクを外し、素顔を晒す。

 彼の顔は一がよく知る人物、愛海であった。

 彼、もとい彼女は顔は女の子、身体はアスリートのような筋肉質のアンバランスな見た目だった。


「おめでとう、お兄ちゃん!」


 愛海が突然一に拍手を送る。

 笑顔で兄の功績を称える姿傍から見れば微笑ましいものだったが、一からしたら神経をごりごりとすり鉢ですりつぶされているような気分だった。


「おめでとう!」


 愛海に釣られてリリアンも拍手を送る。

 だが、リリアンの顔が歪んでいた。

 顔が湾曲し、ばき、ぐちゃりと音を立てて形を変え、あのホワイトノイズのマスクへと変貌する。


「リ、リリアン……?」

「おめでとう、一君」


 武礼渡が一に賛辞の言葉を送ったが、彼もまたホワイトノイズの顔に作り変えられていた。


「おめでとう、一!」


 デイヴィスまでもがホワイトノイズのマスクを被ったような見た目に変貌していた。


「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」


 三人どころか観客の全員がホワイトノイズのマスクを被った姿へと変貌し、一に乾いた音の拍手と壊れた機械のように同じ言葉しか喋らない観客達に恐怖を感じた。

 これはやばい、何かがヤバイ、と一の心臓は音楽バンドのドラムの拘束連打のように早鐘を打っていた。


「やめろ」

「おめでとう」

「やめてくれ」

「おめでとう」

「やめろって言ってんだろが!!」


 一はもはやどれが本物のホワイトノイズか分からないまま彼等の一人を拳銃で撃った。

 バタリと床に背を預けて倒れる観客の一人。

 しかし、直ぐに立ち上がり、一のいる方へ顔を向ける。

 そして。


「おめでおめでおめでととととととおおおおおおおオメデオメデオメえええええええええ」


ガタガタガタと痙攣して震えながらうわ言のように発狂して叫び出した。


「ぎゃああ!?」


 一は人間らしからぬ狂気の動作に遂に恐怖で声を上げ、慌てふためきながらパーティー会場から抜け出すべく、非常扉を開けた。


「ひっひぃいなにっなんなんだよ一体!?」


一は半狂乱で必死に走り、未知の恐怖に顔を歪ませながらただひたすら長い廊下を走り続けた。


 白いタイルの床と白い天井、がずっと続く廊下を走っていると、後ろから何か声が聞こえた。


「おにいいいいいいいチャアアアアアアアアおめでとオオオオオオオオ!」


 一を追いかけてきたのはホワイトノイズの仮面をつけた集団だった。

 その中には一の顔見知りの武礼渡やリリアン、デイヴィスなども含まれていた。


「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」


 同じ言葉し反芻しない亡者のような奴等に、一はすっかり恐怖で疲弊していた。そして足がもつれて転んでしまい、「ぶべ」とマヌケな声を出す。

 転んだせいで一を追いかけていたホワイトノイズもどきの集団達は「おめでとう」と聞き飽きた言葉を叫びながら一に飛びついて彼をあっという間に覆い尽くした。


「や、やめろ!やめてくれ!やめてくれェェェェェェェェ!」


 一はホワイトノイズもどき達に囲まれ、圧迫され、そして遂にはもはや声も出せなくなった。


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