第15話
もう深夜一時を過ぎている。このままでは愛海に叱られてしまう、一はそんな事を思いながらため息を吐いた。
もう既に空は真黒だというのに、街は電光でギラついている。
昼と変わりないの光に一は手でそれを遮る。
一の周りには人でいっぱいだった。だが一目見れば顔など忘れて、埋もれて消える有象無象。
特に変わる場画の無い光景。
今日は家に帰って寝酒を飲んだ後、また賞金のかかったクズ野郎を殺す仕事をこなすだけ。
一はそう思っていたが、今日の夜は違った。
雑踏で溢れかえる夜の街に、一は目を疑う物を見た。
「愛海……?」
一の妹である愛海が、夜の街を歩いている。
しかも一人ではなかった。複数人の男と一緒にいる。
筋肉質な身体に、刺青を入れた物騒な男ばかりだった。
明らかに友達と呼べそうな人柄ではない。
愛海、何故こんなところにいる。
家にいるんじゃなかったのか。
一体なにをしている。
一の頭の中は混乱で満たされていた。
見間違いとも思ったが、自分の妹を10年以上見てきた一は見間違いではないと確信していた。
金でもたかられているのか、それとも身体を狙われているのだろうか、一はそう疑い始めると身体中が怒りに支配されそうになるのを肌で感じた。
愛海と男達は会話をしている。
すると路地裏へと入り、姿が見えなくなってしまった。
一はもはやなりふり構わず愛海と男達のいる方へ走って行った。
自分の可愛い妹が何をされるか分かった物ではない時に、自分の本当の姿を晒すことに一切の抵抗はもう存在しなかった。
アイツ等を殺して、妹を無事に家に帰す。一はそう決意し、路地裏へと向かう。
だが途中で一は足を止めた。
愛海が、出てきた。
彼女は無傷で目立った外傷も汚れもない。
愛海は何事もなかったかのように通りを歩き始めた。
一は愛海の元に直ぐ駆けつけるべく、愛海を追いかける。
しかし、一はふと愛海と男達が居た路地裏に目を向けた。
そして、その異常に気が付いた。
「なん…だこれは」
路地裏には、腕や足、首が変な方に曲がっている男達がまとめてうち捨てられていた。
一は愛海を追いかけたかったが、目の前の異常事態を放ってはおけなかった。
男達の容態が心配だったからではない。
一は愛海に一体何があったのかを知りたかった。
一は男達が生きてるかどうかを確認した。
呼吸、脈、生きている事を証明する生物の活動が停止している。
これは確実に死んでいる。
遺体の男達は全員合わせて6人。
しかもどれもがジムで身体でも鍛えていたのか、ヤワな身体ではなく、かと言って戦うための身体でもないが、人に見せびらかすかのように鍛えられた見た目は派手な身体だった。
そして死因だが、どれもこれも全員が頸椎を損傷し、首をへし折られていた。
そして、声を上げられるのを妨げるためか、喉を殴打されて破壊されている痕もあった。
戦闘経験はないが身体は出来上がっている大の男六人を相手に、少女一人で圧倒するというのは現実的に不可能だ。
武器を使っても難しい。
現場検証をしてみても、改めて愛海には彼等を殺すことは不可能に思えた。
では一体誰が殺した?
一は見間違いだったかもしれないと自分の目を疑い始めた。
それと同時にそうであって欲しいとも思った。
どのみち家に帰れば愛海はいる。
愛海には門限を取り付けている。愛海がそれを守っていれば、愛海が殺った可能性は潰れて一の見た光景は見間違いであり、他人の空似だったということにして無視できる。
一はそう考えると急いで帰路に向かおうとする。
しかし、いざ向かおうとした時、一の携帯から電話の音が鳴った。
「なんだよこんな時に……」
一はイラつきながら携帯の画面を見た。
電話を掛けてきた相手はデイヴィスだった。
念の為一は電話に出ることにした。
「もしもし」
『フェイスレス!大変だ!大変なんだよ!』
「ああ俺も今大変な事が起きてる。仕事の打ち上げの帰りにチンピラ達に絡まれてる妹を見かけてな、追いかけて行ったらそのチンピラ達が殺されてたぜ。びっくりだろ?それと同じくらい大変な事でもあるのか?あ?」
一は妹の異常事態を調べようとした矢先に電話が来たことに内心かなり苛つきながらデイヴィスと話す。
『は?お前の家庭事情はよく分からないがとにかくすげぇぞ。聞いて驚け、結論だけ言うぞ。組合の奴等がお前のダイアモンドクラス昇格の再試験を打診した』
「は?」




