三話 二人の初めての会話
「ようやく授業終わったな」祐は机の上の教科書を睨みつぶやいた。
「勉強嫌いなのが悪いんだよ…」寧は呆れたように返す。
「はいはい、優等生さん。俺は勉強が嫌いなんだよ」
「別に優等生の特権じゃないだろ…それに俺も優等生じゃないし」
祐が不機嫌そうな顔をしたので、寧は仕方なく彼の肩を叩いた。
「まあまあ、ちょっと真面目に勉強すれば結果出るさ。ちなみに今日は一緒に帰らないから」
「どこかの金持ちお姉さんと付き合ってるのか?」
「違う!なんでそうなるんだよ!」
祐が去ってしばらく後、寧はターゲットがまだ残っていることに安堵し、すぐに立ち上がった。
淡い茶色の長髪が机に広がり、荷物をまとめている。
「あの…久住さん、今ちょっと時間ありますか?」
振り向いた少女が答える。「あ、白羽くん。どうしたの?」
「用事というか…実は一つ聞きたいことがあって」
「え?」音葉は首を傾げた。
「その…今朝すごく綺麗な星空を見たって話、本当ですか?」
「ああ、今朝の雑談の話ね。そうだったわ。白羽くんは私の話を信じてないの?」
「いや…実は僕も同じ景色を見たんです…」
「えっ!?」
「信じてもらえないかもしれないけど、本当に今朝あの光景を…」
「本当…?私だけが見た幻かと思って…友達に聞いても誰も見てないって。中には『熱でもあるんじゃない?』って心配する子もいて…」
「だから久住さんに確認したくて」
「そうね。でもどうして私たちだけが…?」
「それは…僕にもわからない。次回はスマホで撮影してみるとか?」
「それもいいけど…次なんてあるのかしら?」
「うっ」寧は現実的な指摘にたじろぐ。
音葉は彼の動揺に気付き、慌ててフォローした。
「あ、ごめんなさい白羽くん。何か変なこと言っちゃった?」
「いえ、大丈夫。気にしないで。僕が浅はかだった」
「でも…もう二度と見られなくても、白羽くんが話してくれて嬉しいわ。私だけじゃないんだって思えたから」
「本当に…?」
「本当よ。だからそんなに落ち込まないで」
「…うん」
「もし次があったら、その時は写真撮って私にも見せてね」
「約束する」寧は頬を掻きながら、会話を締めくくった。