2話 波乱の予感
「……ん?」寧はさりげなく驚きを隠した。
「おい、何してるんだよ」隣の祐が寧の異変に気付き、背中を叩いて注意する。
我に返った寧は自分が何かやらかしたことに気づき、振り返ると後ろで喋っていた女子たちも突然の物音に会話を止めていた。
「すみません、邪魔しちゃって……」寧は頭を下げて謝罪するしかなかった。
だが気になる会話の内容が頭から離れない。體を少し傾けながら、再び女子たちの話に耳を傾ける。
「ええ、どんな景色だったの?」一人の女子が尋ねる。
「そうね…まるでゴッホの『星月夜』みたいな空で、本当にきれいだったの──」薄茶髪の少女が語りかける。
その言葉を聞き、寧は確信した。振り返り、改めて薄茶色の髪をなびかせる少女──久住音叶の姿を視界に収める。学年上位に常連の名前をようやく脳裏で結びつけた瞬間、ずっと黙っていた祐が咳払いをした。
「なあ、寧」
「何だよ」
「お前さ…後ろの女子たちに、まさか気があるんじゃないだろうな?」
「はっ!?」予想外の質問に寧は唾を噴きかけ、「何言ってんだ」という視線を送る。
「おいおい、そんなに動揺するかよ」祐はたじろぎながらも笑う。
「いきなりそんなこと聞かれたら誰だって驚くだろ!」
「だってさっきから変な声出してたし、ずっと盗み聞きしてたし」
「ただ…会話の内容が気になっただけだって」
「じゃあ女子の話に混ざりたいってこと?」
「そうじゃ…まあいい、今は説明しない」
寧は話題を遮るように教科書を整理し始めると、祐も渋々口を閉ざした。天井を見上げながら、寧は薄茶髪の少女──音叶のことを脳裏に焼き付ける。あの星空との奇妙な接点が、彼の日常に波紋を広げ始めていた。